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処女搾乳  作者: ……くくく、えっ?
五章:シャングリラ

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ストレスフルな夜遊びな訳で

「え~? つまり? 大勝ちして? 目ぇつけられねぇように気を付けながら? ……地道、地道に? 小っせぇ勝ちを積み重ねて……稼げ?


「そ、爽快感が無ぇッ!? それ……うちの手伝いと、どこが違うってんだ!!」



「バック……かな」


「ああ、うん……それな。遊んで稼げるだけで御の字だわ」



 * * *



 配られたカードを記憶したり、ルーレットなどでの勝負時を報せるいくつかのサインを決めて、先輩と一緒に ひすぱにおら号に出向く夜を何日かを数えて――


 いつも一定の勝ち負けを繰り返して、トータルでささやかな利益を出すというお遊びを重ねる内に、俺たちは、すっかり船の業務に携わる面々と顔馴染みになってしまっていた。


 招待状を求められたのは最初の夜だけ。


 この廃棄船と見紛うばかりの鉄の塊には不釣り合いなほど、あちらこちらに設置された監視カメラの数を考えれば、フリーパスの理由も何となく理解できた。


 カジノは週に3回までと……取り付けた先輩との決め事。


 その夜、いつものように先輩とホールでゲームに興じるふりをしつつ


 フェイクを交えたサインで勝負時を報せて。


 適度な利益に嬉し気な声をあげる先輩をその場に残すと、お役御免となった俺は――夜風にあたりにデッキに出ていた。


「キーボードを叩きたい……モーターツールの音が聞きたい……ガラス器具でなにかを精製したい」


 ここ最近、自分のライフサイクルというものは、ズタボロ。


 ――寝不足は、まだいい。


 やりたいことがやれない、これが大問題だった。


 溜まるストレスが一向に解消されない。


 憂鬱な顔で、デッキの手すりに両肘を付いて、深々と溜息を吐いていると


「どうかされましたでしょうか?」


 この頃には顔も見慣れた船の見回りに、カジノでスった惨めな客のひとりが――身投げでもしようとしているとでも思われたのか


 心配するかの声をかけられていた。


「……どうも……していないことが……大問題なんです」



 * * *



 この場所を仕切る人間が、如何なる種類の人間かは想像もつく。


 仕立ての良いスーツに身を固めた、一目でカタギでないと分かる その見回りに


 ――二言、三言零すと


 分厚い胸板に、がっちりとした肩回りの――冷蔵庫を思わすシルエットのそいつは、軽く噴き出した。


「し、失礼……このカジノで話題の……若いおふたりからは、想像もできなかった言葉だったもので」


『このカジノで話題の』


 それは由々しき事態に違いない訳だけれど……なんだか、もう――といった感じのものにしか聞こえない。


 正直、どうでもいい。


 それが偽りのない俺の本心ではあったけれど、先輩の手前もある。


 退屈しのぎがてら少し、その見回りと話をすることにした。


「俺たちって……話題になってます? やっぱり」


 こんな場所に顔を出す人間たちの中にあって、若すぎる俺たちが――好奇の目で見られるのは無理も無いことでしかないけれど。


「お客様に対して……口幅ったくて恐縮ですが……ええ、ハイ……まあ」


 彼らの方にも、客たちを詮索するのを由としない不文律でもあるのか――歯切れの悪い返事。



「……まあ、大体の予想はつきます。すみません。ご心配をおかけした上に……言い辛い事を聞いてしまって


「正直……彼女と違って俺……ああいう華やかな場所苦手で……暫くデッキをうろついて、見て回ってもいいでしょうか? 騒々しいホールより……夜の海を眺めていたい」



「機関室……まあ動いちゃいませんが。そういった辺りは、灯りも引いておりませんので。その辺に御注意戴けるならどうぞ 御自由に」


 見回りは、俺にそう告げて去っていった。



 * * *



「なあ? なんか今日は……周りの奴らの……あたしら見る目が、違う気がしねぇか?」


 それから、さらに数度の乗船を経ての夜。


 周囲の視線を敏感に感じ取った柊先輩が、グラスを片手に辺りを見回していた。


「そうかな。いや……俺には、分からない」


「……だよなぁ」


 問いに対して返した言葉に、そもそも最初から期待なんてしていなかったのだろう。


 彼女は、訝しみつつも、グラスに口をつけた。


「……………………」


 実のところ……思い当たる事は、無いではない。


 来客者の氏素性には、詮索をしない。


 それは、この船で働く人間たちの――死活を分ける不文律であるのは、想像もできたけれど。


 兎角、人の口に戸は建てられない。


 大方、先日の夜……俺と、言葉を交わした見回りの男。


 彼が、俺との短いやり取りで得た周辺情報なりを――同僚たちにでも、面白おかしく話してみせたのだろう。


 こんなアングラな場所に出入りする、十代前半の男子と女子。


 客たちに、奇異の目で見られていることくらいは、俺にだって分かる。


 如何なる人間かを囁き合う客たちの間で、あの見回りの男がそっと漏らした内容が、枯芝に火が燃え広がる様に広まったのは想像に難くない。


 クリスタルのシャンデリアを仰いで、視線を戻す中、さりげなく辺りの人間たちの目をみてみれば――


 調子に乗って派手な夜遊びを繰り返す小娘と、それに引きずり回される憐れな地味な彼氏君。


 空気から察するに……恐らく、そんな感じ。

いつもブクマ有難うございます。


宜しければ、お読み下さった御感想や「いいね」


その他ブックマークや、このあとがきの下の方に

あります☆でのポイント


それらで御評価等戴けますと、それをもとに今後の

参考やモチベーションに変えさせて戴きますので


お手数では御座いますが、何卒宜しく

お願い申し上げます。

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