アンダーグラウンド・ザ・ディープ
「なァにニヤけてやがる橘……いよいよキメぇぞ。てか、あんなもん そこまで気にするものか?」
そんな俺の顔に少しだけ苛立たし気に
「どこからどう見たってハッタリのお飾りじゃねぇか。インテリアだよインテリア。あたしんちの店のショーケースの中にも、邪魔臭ぇ乾貨の天九翅あんだろ。それか……遊園地に置かれてるみてぇな恐竜の置物。
「そんなもんと、なにが違うってんだ? お前、それを見て『うわぁ?! なになにザウルスだぁ! 食べられるぅ! 逃げろォ』……みてえなこと思うのかよ? 思わねぇだろ……普通
「……てか、いっつも思うんだけど、あたしんちの……あのバカでけぇフカヒレいい加減どうにかしてくんねぇかな。邪魔過ぎて敵わん。ケースに付く油落とすのが、毎度くたびれる」
面倒臭そうな様子で、柊先輩が零す。
まともな感性の持ち主からしてみれば、酷く腑に落ちるに違いない――先輩の御意見。
けれども、その辺が極めて妖しい俺みたいな人間からすれば……
「……多分、あれ。車の方だけど。俺の勘からすれば、本物な気がする。いや、もっと近くに寄って……しっかり見てみない事には断定はできないけど。
「この国では、あれに搭載されていた火器の類は基本――銃身に、みっちりと鋳鉄を流し淹れた文鎮に変える必要がある。そうでない場合は違法になるんだとか
「ところが、あれには……遠目で見た限りでは、そんな加工がされている様には見えなかった
「実弾が搭載されている……とは考え辛いけど
「どこかの数寄者が揃えたものであるのは、間違いないにしても……
「ここは日本で、違法なカジノなんてものがあるだけでもおかしいのに……あんなモノまで存在するとなると――」
「……お上と繋がってて、お目溢しでもされてるってかァ?」
考えを取りまとめながらの、歯切れの悪い俺の説明を聞きながら
先輩は事も無げに、その先を口にした。
「簡単に言えば、そうなるかと――」
無駄に考えを回す俺とは、正反対の位置に存在する3年たち。
その中のひとりである柊先輩が、つまらない話を聞いたとでも言いたげに生欠伸。
「どーでもいいよ……んなこたァ。
「あたしらは、あたしらのやるべきことをやってよ? 稼がせて貰うとしようぜ。
「……それよかよ? ボチボチ朝だ。飯でも食いに行くぞ橘。
「勝った取り分から奢ってやんよ。ファミレス行くぞファミレス。
「――んで……そうだな。
「寝みィし、その後は……イオナんちにでも転がり込んで寝るか。
「あたしんちは明るい内は、客と親父どもの声が、殺意が湧くほど、うるさくて……寝れやしねぇしよ」
椅子から立ち上がって、先輩が伸びをした。
なんだか、ネットで目にするミーム「猫は液体」を思わせる しなやかなそれ。
東を向けば、白み始めた空。じきに朝日が顔を出す時間帯。
先輩に倣って俺も腰を上げると――にやにやとした笑みを浮かべる先輩が、俺に顔を近づけて来る。
「……いっそ、柊お姉ちゃんとぉ……一緒に寝るか? お風呂で洗いっこしてからのぉ……筆下ろしのビッグちゃ~んす♡」
息もかかる距離での耳打ちするみたいな 悪ふざけ。
その気なんてありもしないクセして、慌てる俺の様子でも見て悦に入りたいのか。
寝不足で少し赤くなった目で、無理を推しての流し目。
「そうだな……じゃあ……御厄介になろうかな。宜しく」
「……、――、……ん? んぇ!?」
予想外だったらしい俺からの返事に、先輩が泡を食う。
「ちょ! た、橘っ!? ……お、おま……なに言ってるのか分かってんのかよ?!」
「……え? イオナの家に、今から部屋を借りに行くんじゃないのか?」
「う、う、うん。そうだな……そういうことだよォ? 橘……そ、そ、そ、それで……そこで、なにするのか分かってるか? 寝るって……あの……すやすやすやぁ~って意味じゃ……、――ないんだぞ?」
「俺が……それを分からないとでも? 比喩だったり隠語だったり、そういう類の物だろ? ……まどろっこしくないか? 言い出しておきながら、ビビッてる? ああ、避妊はどうしようか? そちらに任せるけど」
「ばッ!? び、び、び……ビビってる訳無ぇべ!! こっちとら前に……お前に呼び出された時から腹は……く、括ってんだよ! ……ひ、避妊ッ?!」
「そうだった……処女だったっけ」
「うっせぇな! 悪ィかよッ!! 今からテメぇが穴開けるってんだから……べ、別に良いじゃねぇか! 経験する歳の平均からすりゃあ……は、早ぇ方だろうが!!」
もはや全身で赤みを帯びていない箇所を、見つけるのも難儀しそうな肌の染まり具合。
必死に声を荒げて、早朝の公園で先輩が虚勢を張る。
「冗談だって冗談。そんなに必死になるなよ」
普段のガサツさからはイメージできない――目の前の彼女の慌て様に、徹夜明けのテンションが祟って笑ってしまっていた。
そんな俺に向けられる、冷たすぎる視線と殺気。
「橘……お前、今からマジで全殺しにするわ……ぶっ殺して……海に撒いて帰ってやっから、言い遺したいことがあるなら……言っとけや、お情けで……星山には伝えておいてやるからよォ」
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