伝え聞く、ラブホ女子会の中……男子は俺、一人
「そうだよねぇ? ここで一人おうちに帰っちゃったりしたら……大事な大事な幼馴染の蔵人くんが、私らに盗られて……どんなエッチな事されちゃうか、分からないもんねぇ♡」
そんな千影を揶揄う澪を一言嗜めると、意外にも……と言うべきか、なんと言うべきか。
若い身空で、この――享楽のままに人生を送る事を決め込んだ……かの「元」姫は、早々に首を縮こまらせて謝罪。
安っぽい、滑り止めくらいの役割しか果たしそうにないカーペットが敷かれた階段を昇って行く内に部屋に到着したらしい。
客室がある階とは別に、生活するスペースが別階に存在するのかと思えば……そんな事は無く。
今も、お取込み中のお客様の滞在を示す、明かりの消えたプレートに囲まれた一角に、今日訪ねた人物、結城イオナさんは居た。
* * *
部屋に招き入れられた後で――お互いに、先日の詫び言を費やし尽すと、澪が音頭をとっての、備え付けのカラオケで、ささやかなパーティーが始まった。
これには学校の授業でも音楽の類が、大好きな千影も顔を輝かせてみせた。
……場所が場所。
でさえなければ、その輝きっぷりは……もっと華やかなものになったに違いなかったけれど。
カラオケの前に置かれた、小さなロー・テーブルに並ぶ椅子に、めいめいに腰を下ろして
澪と千影が、それぞれ好きなナンバーを予約しながら歌い合っている脇で、俺は結城さんと、顔を寄せ合ってのミーティング。
「……それで、澪から聞いた話によると、結城さん――」
「あ、イオナで良いです。……えと、苗字の方が短いから、好きな様に呼んでくれて構わないんだけど」
「んじゃ、イオナ。デザインのセンスがヤバい……って、澪の奴に聞いたんだけど」
「ヤバいかどうかは……分からないけれど、ちょっとだけ」
そう言って傍らに置いて、手放さずに持っていたタブレットを取り出すと、電源を入れてみせた。
「ガンプラを大きくして、光らせて音が出る様にするって聞いたけど多分……違うんだよね?」
「うん。ゴメン」
「いや、良いよ別に。この間は、本当に殺されるかと思ったけど――結局のところ わたしも助かっちゃった訳だし。取り敢えず建前はガンプラって事で。……あ、でも わたしの……こう言う、お絵描きについては……余所では内緒にしてね」
「じゃあ……それについては、俺も同じだから。お互いに他言無用って事で」
タブレットのページをめくる指の動きを待つ内に、イオナが目的のページを開いた様だった。
「あんまり……男の子の感性ってのは良く分からないから……ロボットが持ってる鉄砲なんかの画像をネットで拾い集めて、デザインを弄ってみたんだけど……」
そこに線画で描かれていたのは、過不足ない洗練されたスタイルのいくつかのデザイン案。
「どう……かな? 橘くんが――」
「俺も蔵人で良いよ。って、言うか……予想の遥か上を行くデザインで、ちょっと驚いてる。……これの中に……装置を組み込むためのディティールとかも……描けたりするのか?」
「多分。その装置の……三方向からの写真と寸法さえあれば。……ここは、うちのお客さん用の部屋だから置いてないけど、部屋のMacで処理すれば、割りと簡単に……15分くらいで? できる気もするよ?」
「……お、おぉぉ、やっと……やっと、最後の問題がクリアできる。イオナ。今日帰ったら、速攻でデータ送るからさ? すぐにお願いするわ。もし、幾らか必要なら言ってくれれば、支払いもさせて貰うから」
「じゃあ……分からないけど、必要な経費があった時には、それだけで。……あ、やっぱり御免。うちの……ハンサムうさぎのザラメちゃんのおやつスティック一袋、260円の奴。お駄賃に貰っても良い?」
「出す! 今からだろうと買って来る。一袋と言わずに二~三袋でもイイ!」
長い時間をかけて、手掛けてきた装置の完成の目途も立って――浮かれて。
千影と澪の歌に合わせて、ダンスのセンスなんて欠片もないクセして、小躍りでもしい気分になった……ところだった。
気付いてみれば、先程まで部屋を満たしていたカラオケの音は鳴りを潜めて――千影と澪が、カラオケと壁との隙間に……無言で視線を注いでいることに気付いた。
「どうした? カラオケが ぴよったか?」
知り合ったばかりのイオナのお陰で……上機嫌な俺は、ふたりに近寄ると
どうせ、はしゃいだ拍子にコードか、なにかが抜けて……止まってしまったカラオケに、ふたりで途方に暮れて しょぼくれているのだろうと、たかを括って。
機械に疎い女子に成り代わり、どれ? 骨のひとつも折ってみせて
たまには甲斐性らしいものを発揮してやろうかと……背後から、ふたりの視線の先に目をやってみれば――
この、ささやかな……ハレの空気を台無しにするには――充分な代物が、そこには静かに置かれていた。
* * *
そこに在った物は、通学バッグを大きくした様なサイズと形の――大きく口を開いたナイロン・バッグ。
俺たちの視界にも……ずっと入っていたに違いない それは。
イオナ以外の3人には「きっと家主の彼女が持ち込んだ私物に違いない」と目には映り
当の彼女の目には、いつも見慣れた我が家の一室の――代わり映えのしない、注意を払う価値も無い「ナニか」として映っていたに違いなかった。
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