表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
処女搾乳  作者: ……くくく、えっ?
四章:夏の終わり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/216

夜の蜘蛛

 中学生としては……ちょっと大金な、まとまった稼ぎを得たとのことで、


 それを代金には届かないものの、受け取って貰いたい。


 ――と、言うのが彼女からの申し出だった。


 俺にしてみれば、日頃着る学生服に対する無理難題な注文に加え、ガラクタとして取って置いたプリテンショナーを用いた装置の開発に協力してくれた、彼女への謝礼で贈ったつもりの――修理した中古ミシンたち。


 それの対価を貰ってしまったとあれば、これはもう……お話にもならない。


 だからといって、それを突き返そうにも相手は――人に借りを作ることや、折り合いをつけるということを……とことん不得手とする女子、一ノ瀬 紬。


(……君は、俺か)


 杓子定規に測ったみたいな自身のテリトリーを堅守する、その人となりは――きっとこれを彼女に聞かせたなら、悲鳴を上げること間違い無しだろうけど。


 俺には巣を張る蜘蛛か、なにかのように思えた。


 俺も人に借りを作った時などは――少々、気持ちが落ち着かなくなる性分だけに。


 ……その心地と言うものは、理解できなくはないけれど。


 けれど、それとこれとは――話は別。


 今日まで彼女と繰り返した、仕事の対価を受け取って貰おうとするたび発生した、激しい応酬を思えば――これから始まるだろう、そのやりとりに頭が痛くなる。


「……橘くん?」


 唐突に彼女が俺を呼んだ。


 どうやらアレコレと考えている内に俺は意識もせず、笑ってしまっていたらしい。


「いや、ごめん。なんでもない」


「そう」


 俺の言葉に彼女が小さく返す。


 千影たちが待つ部屋へと向かう間、ふたりして無言で廊下を歩いていると


「……あの……ね? 橘くん」


 皆が待つ部屋に向かう途中で一ノ瀬さんが、言葉を――選び選びといった風で。


 物音ひとつ聞こえない この宿の廊下であっても、聞き取るのに難儀する


 消え入りそうな声で……何かを切り出し始めた。



 * * *



「――え?」


 言葉の意味が理解できずに、間の抜けた声で俺は聞き返していた。


「傷つくなぁ……これでも結構私、勇気を振り絞ったんだけど」


 苦笑を浮かべる一ノ瀬さん。


「……まぁイイです。で、改めてお話させて貰うと私、橘くんのことが好きみたい」


 日頃の彼女からは想像もできない、凛としてそれでいて、淡々とした様子。


 いつものオドオドとした表情でないことから察すると、いわゆる〝LIKE〟であって〝LOVE〟ではない……と、そういう話なのだろうと思った。



「これは多分……逮捕された叔父さんから、私を助けてくれた橘くんに……


「なんて言えば良いのかは……分からないんだけど……え~っと


麻疹(はしか)? みたいに? 一過性の感情を抱いてる……そんなものなのかな?


「……って、思っていたんだけど――なんだか違ったみたい」



 胸の内を吐露しようと試みたものの――それを人に上手く伝える術を持ち合わせない


 俺と同じく不器用な彼女が、四苦八苦といった感じで言葉を紡ぐ。



「――で、ここからが本題」


「うん」



 彼女の言葉に、どう応えるべきか――戸惑いを覚えて、足を止めてしまいそうになっていた俺に、続けられた言葉は『本題』


 なんとも事務的な響きが込められた面喰らうもの。


「私、一ノ瀬 紬は……橘 蔵人氏に対して、同盟の締結を申し入れたいと思います」


 そして その後に続けられた内容は、さらに……俺を困惑させるのに充分なものだった。



 * * *



 処理する情報としては、あまりに重たいタスク。


 悪い方ではないハズだと……自分では思ってきた俺の頭は、その負荷に耐え切れずにデッドロックを引き起こして――部屋へと向かう足は完全停止。


 沢山のペットボトルを抱える一ノ瀬さんが、足を止めた俺に向き直ると――湯上りで、ひとつに括って垂らした長いポニーテールが、右に左にと揺れた。


 そんな俺の様子を嗤うみたいに、華やかな笑顔をみせて一ノ瀬さんは続ける。



「私ね……星山さんのことも、来栖さんのことも、結城さんに……やっぱり、ちょっと苦手な感じはあるけど――柊先輩のことも好き


「柊先輩に関しては……ちょっと……分からないけど……他のみんなは、橘くんのことを好きなんだと思う


「私が、橘くんに選んで貰えるとは思えないし、こんな事を伝えて――みんなとの……今の関係に水を差したくも無いし……だからね? 臆病で……狡賢い(ずるがしこい)私は、


「橘くんと……ふたりになれた この機会を生かして――密約を結ばせて戴きたいと思うの。


「こちらが橘くんに提示する条件は、私にできることの無条件での提供」


「橘くんに私が求める条件は――私の……貴方に対する気持ちを知っておいてくれること」



 胸襟を閉ざすみたいに、互いに飲み物を抱えたまま。


 一ノ瀬さんは、おたつく素振りも見せずに、こちらが狼狽えそうになるほど真摯に――目を覗き込んでくる。


 彼女の提示してきた内容。


 ……それは恐らく。


 いつも彼女と繰り返す、対価のやり取りのせめぎ合いを放棄して。


 一ノ瀬さんのやりたいように世話を焼かせよと……


 つまりは、そういう――無条件降伏めいたものを勧告されているに他ならない。


 そして こちらは、それに対して。


 彼女からの御好意を知った上で……他の皆との波風を立てない様に心掛けよと、申しつけられている訳……なのだろうけど。


 これはあまりに俺にとって都合の良過ぎる、アンフェアな取引。


「俺は……千ka」


「泣きます――それ以上言ったら」


 彼女は正確に、相関の全て把握した上で。


 できるだけ……波風を立てないように、穏便に。


 逃げの口実を口にしようとした俺を


 退路を断つようにピシャりと、言ってのけた。

いつもブクマ有難うございます。

  

夜の蜘蛛は不吉の先触れみたいに

扱われますが~


最近では色々解釈もありますようで

どうなんでしょうね。


宜しければ、お読み下さった御感想や「いいね」


その他ブックマークや、このあとがきの下の方に

あります☆でのポイント


それらで御評価等戴けますと、それをもとに今後の

参考やモチベーションに変えさせて戴きますので


お手数では御座いますが、何卒宜しく

お願い申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ