本当に……死ぬからな?
好き勝手放題に、思ったことを脊椎反射で口にするアホ共。
「――俺が、お前ら如きに……期待することなんて なにひとつない」
感慨も興味も無い、抑揚に欠ける背後からかけた俺の声に、連中は水を打ったように騒ぐのをピタリと止めた。
「……そ、そっすよねぇ」
苦笑い混じりに整列し直す3年たちを避けながら、怯えた様に千影が駆け寄ってくる。
フルフェイスを被ったままのせいで、頭身がおかしなことになってる幼馴染に腕を取られ――放って置けば、際限なく猿山の猿みたいに収拾がつかなくなる連中に、趣旨のみを伝え釘を刺す。
「……今日、お前らなんかをここに誘ったのは、俺なりの仏心って奴だ。
「イオナに少し前に叱られたものでな。それまで習慣も無かった お前たちに
「勉強勉強と、鞭打ってみたところで……効率が上がる訳も無いのも確かだ。
「そんな訳で今日は、千影のポテンシャルを維持するためのトレーニングも兼ねて――
「お前らにも興味が沸きそうなバイクの扱いについて、手解きを受けさせてやろうと思った訳だ。
「サーキットを借りるにあたっての、お前たちに対する保険は一応かけてやった。
「だからと言って……いつもの調子で、気の抜けたざまを続けてたら
「――本当に……死ぬからな? 覚悟しろ」
「「「「「応ッ!!!」」」」」
「……威勢に関してだけは……いつも、文句のつけ処も無いよな」
* * *
3年のひとりが珍しく気を利かせて用意してくれた、折り畳み椅子に座って見守っていると――バイクから降りた途端に、自信を消失させた千影を前に連中が整列した。
「……えっ……と……あの……よ、よろし……く」
「「「「「「オナァシャシャアアァァ£&※♯@€%☆――――ッッツス!!!!」」」」」」
「ひうッ!!」
連中からの暑苦しすぎる返事に、千影がおたつく。
本当に……何故、サーキットの走行中と、バイクを降りてからでは……こうまでガラリと人柄が変わってしまうのか。
「ち、千影ママぁ……こ、こんなのリアルで……み、見られるなんて……す、凄い、わたわた あうあうしてるママ……尊い……尊すぎるぅ……あぁあコレ描きたい、ママの表情……の、脳内に……しっかり焼き付けておかないとーーねっちょり視姦モード起動!」
そばにいるイオナに助けを求めて、バイザーを跳ね上げたメット越しに視線を向けた千影だったけれど――いつもの様に自分の世界に旅立ってしまった彼女が、気持ちの悪い反応しか返してくれないだろうことを直ぐに察して
不承不承と言った感じで震える口を開いた。
「……え、えっと……ざ、座学……代わりに……回した……D……VDは……み、観てきて……くれました……よね?」
「「「「「「応ッ!!!」」」」」」
無駄に凶暴な声に、千影が膝を笑わせる。
無理もない。
中学に入ってからも度々、あいつの胸は男子一同からの好奇の目に晒されてきた。
人見知りな上に、男性恐怖症の気まである あいつに荷が重いのは分かり切ってる。
だからと言って――
「千影。そいつらの声は、マシンの排気音の……半分も無いぞ。ビビるな」
俺も千影も幼いままでいるなんて、許される世の中でもない訳だ。
千影の背中を後押しするべく一声を掛けてやるとーー少しの間をおいて
自身を言い聞かせてみせたのか、幼馴染は幾分落ち着きを取り戻したように見えた。
どんなに緊張を強いられるレースの前でも、すぐにマインドセットが完了する 親父さん譲りの本番に強いあいつ。
落ち着きを取り戻すための糸口さえ手に入れれば――
「……、――そ、それじゃ……あの……あのね。……本当はダメなんだけど……くーちゃんが、お話をつけてくれたから……まずはタンデムで……バイクに慣れるところから」
始まった千影の指導に 再び繰り返される暑苦しい声。
俺の言った事が、足しになったのかどうかは分からなかったけれど
「ひ、ひとりずつ……嫌かも知れないけど……あの……わ、私の後ろに座って……タンデムベルトの握りをしっかり……掴んで……貰えます……か」
自身の得意分野という土俵の上、慣れ親しんだホーム・グランドのサーキット。
次第にいつもの調子を取り戻した千影は――サーキットを借り切った時間一杯、
マシンとアホ共相手に、悲鳴を上げさせ続けた。
* * *
「……レンタルだわ、小せぇわで……格好悪ィ……って思ってたけれどよ」
「お、おお……2ストって……250でも半端ねぇのな……あの加速……マジ怖ぇ」
「そんでもって……俺らをバカにするみてぇに……YZF-R1Mだっけか……あれ乗り回す千影の姐さんよ……なんつーかもう……悔しいとも思わん」
「ド素人の俺らを後ろに乗っけてんのによ……あのカーブの突っ込み――し、死んだ! って……思ったわ」
「てかよ……借り物で締まらねぇけど……初めてライダースーツ着たわ。着るとなんか……シュ! っとすんのな。なんだよアレ。なんつーか……なんとなく、長ラン短ラン着る感じに似てね?」
春にも一泊した宿の和室。
夕食も終えて、女子たちが温泉に向かったあと――部屋のテーブルでPCを開いて俺が作業をしていると、3年たちはバイクに初めて乗った興奮も冷めやらぬといった調子で
日中の体験について語り合っていた。
「あのサーキットの貸し切り費用……便所行った帰り、受付でパンフ貰って読んだんだけどもよ……半端無ぇのな。桁数えてブルっちまったわ」
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