澪とイオナ
あの夜から、しばらくが経って。
ガウスライフルの外装を作るにあたってのデザインのアテが出来たとの澪からの電話。
コンデンサ剥き出しの姿も個人的には、装置然とした赴きもあって……捨て難かったものの――稼働率にも取り回しにも影響が出ることは、かねてから容易に想像できた事もあり、海外サイトで注文した3Dプリンタでの製作に一縷の望みを託していた訳だったが……。
残念過ぎる俺の壊滅的デザインセンスは、血の通わぬ機械にすら理解して貰えず。
中々、完成には至れずにいた。
この手の問題を解決するには、長い時間を忍耐強く、天啓が降りてくるまでを待つの一手と……信じてもいない神仏を言い訳にして、半ば諦めの心持ちで。
当分の間、この装置に埃を被らせておくのも仕方無しと、放置を決め込もうとしていた矢先の事だった。
澪からの説明によれば、先日の真夜中の集会の折り、彼女の傍らで震えていた――もうひとりの姫と言うのか、マスコットと言うのか……。
耳あたりの良い、役柄の名称をだけを与えられ、知能の足らない男共の、性の搾取対象に担ぎ上げられていただけの――完全な被害者。
そして俺は、そんな彼女に対しても無差別に危害を加えようとした加害者。
結城 イオナさんと、言う名前らしいけれど……なんでも隣町の中学に通う彼女の、その手の感性には、目を見張るものがあるのだとか。
俺の密かなライフワークとも言える、これらの開発についてを、あまり……どこそこに吹聴して回って貰うと言うのは困ると言うか、由々しき事態ではあったけれども。
澪の奴は「大丈夫 大丈夫」と、電話口から能天気に調子の良い台詞を繰り返す。
完全に俺のミスだった。
外に漏らせば、直ぐにこうなるのは分かり切っていたのに、それを頭に血が昇った腹立たしさまぎれに、部外者の澪に知られる様な事をしてしまった事は、悪手以外のなにものでもない。
釘のひとつも刺し直さなくては……と、思い至って。
電話口で声変わりの最中ともあって、我ながら……なんとも安定しない――深みと言うよりも「濁り」とでも言うべきにも思う、声音でもって言って聞かせようとしたところで
「あ! ついでに星山さんも一緒に連れて来なよ! 学校は休んでるけど、蔵人が誘えば外にくらい出るっしょ? この間のお詫びがてら、ちょっと面白い場所に案内してあげるからさ」
女子特有のぽんぽん ぽんぽんと飛ぶ、脈絡の無さで用件を並べ立て終えると、通話は一方的に切れてしまっていた。
* * *
なんとか宥めてすかして、気乗りしない様子の――千影を外に連れ出す手筈を整えて、久方ぶりのふたりでの外出。
時刻は昼頃。
澪との待ち合わせ場所の繁華街に向かってみれば、俺たちより早く到着した彼女が、誰とも知れない男たちにナンパされ、煩わし気に邪険に追い払っている最中だった。
あの一件以来、俺以外の男に対して、警戒感の様なものを顕わにするようになった千影が、腕に抱きつくようにして身を硬くする。
「あ♪ 来た来た来たぁー♡ こっちこっちこっちぃー! ……いや、私がそっち行くわぁ」
こちらを見つけた澪が手を上げて、声を上げながら駆け寄ってくる。
澪をナンパしていた奴らから
(……なんで、あんな奴が??)
と、言うかの不可思議なものを見る視線を向けられていると、俺の空いている側の腕に、澪が千影を真似るみたいに飛びついてきた。
両手に華ならぬ、両腕におっぱい。
腕に押し付けられる感触は――千影の物程では無いにしても、澪のものも中々のモノの様に……思えた。
あくまでも「思えた」
その辺の造詣には、あまりに乏し過ぎるだけに……断定は控える。
「この間は、マジで御免ね。星山さん。お詫びに今日は……ちょっと面白いところに案内するからさ? 許して?」
俺を間に挟んで、衝立代わりに隔てての女子ふたりのやり取り。
そんな和解を求めて、謝罪の言葉を口にする澪に対しても、千影は一向に警戒心を解こうともせずに、身を縮こまらせていた。
* * *
澪に俺と千影が案内された先は、繁華街の裏通りにあるホテル街。
いかがわし過ぎる通りの空気に、ひょっとして澪の奴を餌に――俺たちを呼び出して。先日の猿共が、お礼参りにでも出て来るのか……とも警戒して、
ポケットの中でスモークとライターを探っている内に目的地に到着した様だった。
「ここ、ここ。おばさ~ん♪ イオナ居るぅ?」
勝手知ったると言った気安さで、入り口から顔を突っ込んで声をかけ――中から返される声と、やり取りする澪の様子に、千影は泡を食いっ放し。
「イオナ居るってさ。行こ!」
俺たちの様子なんて、気にする空気も見せずに澪は、また俺の腕にしがみつくと、いかがわしさ満点のホテルの中に引き入れた。
中に足を踏み入れてみれば、伝え聞くところのタッチパネルが並ぶ業務形態のホテルでは無く、小窓が開いただけのカウンターで希望の部屋を伝えて、キーを手渡されるという……地方の悲しさ満点の――
出逢い茶屋か! ……と、呆れそうになる、前時代的なシステムのラブホ。
鼻歌交じりに勝手知ったると言う様子で、足を進める澪とは対称的に、千影は身を小さくはするものの――不思議と、帰りたいと言う風な そんなそぶりは、何故か見せなかった。
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