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処女搾乳  作者: ……くくく、えっ?
四章:夏の終わり

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団子より花

「今日からお前たちには……最低限ではあったとしても……まともな高校に行くことができるよう


「俺が勉強を見ようと思う」



 こいつらの理解速度に合わせての――ゆっくりとした説明に、ぽかんと呆けた顔が並ぶ。


「い、いや……あ、あの……でもさァ? 橘くん?」


 ひとりが、そんな風にたどたどしい様子で口を挟んできた。


「俺らの中でって……誰も……動物園に行くなんて奴、居ねぇハズなんだけど……どういう話なんかなァ? それ。おい……お前らの中で……誰か飼育員さんになりてえ奴とかって……居るんかよ?」


 そして、その……。


 ここまでの話の一片すらも理解してくれていない様子の そいつに。


 俺は……惜しみない電撃を浴びせてやった。



 * * *



「んんじゃ?! そりゃあァああアアアァーーーー!! 俺らに……お勉強しろってのか?! 橘くんよオォーーーー!!!」


「出たての芸人みたいに喚くなアホ共……奴らは、芸がないから下らんリアクションと、意味不明な拍子で露出を稼ぐしかできない奴らなんだ。真似するんじゃない。バカが進行するぞ」


 予想外の反発に俺は困惑。


 こいつらの……堪えかねる頭の悪さに仏心を出して。


 貴重な時間を削ってまで勉強をみてやろうと申し出てやったのに この反応。


「大体! 橘くん! なんで、そんなお勉強できんのによォ!! うちの学校なんかにいんだよ?! そんなにお勉強が好きなら、俺らみてぇなのが居る学校じゃなくてよォ! 受験がある進学校に行けば良かっただらァーーーー!!」


「……喚くなって言ってるだろうが。俺を基準に学校選びなんかしたら、千影が一緒に入学できる余地がなかったんだ。仕方無かろう。あいつが泣くのは、ことのほか堪えるんだ」


 沸騰石を入れ忘れて突沸を開始したフラスコみたいに、喧喧囂囂とパーティ・スペースに声が渦を巻き始めた。


 こいつらのアホさ加減に眩暈を覚えながら――よもや、俺が彼らを見下して虚仮(こけ)にしてきたことに対して腹を立てているのかと……思い


「ひょっとして……俺が、あんた達のことをアホだ、バカだのと……こき下ろしてきたことに……腹を立てているのか? それなら心の底から謝らせて貰ってもいい」


 人の感情に寄り添う事が壊滅的にダメな俺が、殊勝にも謝罪に出てみた訳だったけど。


「「橘くんは……俺ら不良を……バカにしてたんかァ!!」」


 連中の内2人が、タイミングもばっちりに噴飯ものといった様子で、吠えた。


「……気づいて……無かったのか。いや、それは今はイイんだ。ゴメン。――大体、あんたらが こだわる、その……『不良』って奴の……意味と言うか、価値感が理解できん。それを……続ける事で、なにか御利益でもあるのか? ……健康に……イイとか? 就職で便利とか……いや、ないだろうな……、――、……一周まわって……あったり……するのか?」


 どれだけ粋がろうと、肩で風を切りながら与太って歩こうとも――


 近代火器の独占に……建前上は成功したことにより、市井には対抗する手段も無い、公的暴力機関が存在するこの国。


 こいつらの遥か高みに胡坐をかく、やくざなんて人種であったとしても。


 組の名前を口にするなり、バッジをちらつかせるなりするだけで――使用者責任なんて便利な理由で、下からトップまで一網打尽に しょっ引かれるとも聞く このご時世。


 こいつらが拘る不良なんてものの、存在価値が俺には微塵も理解ができない。


「「「「「「「根性が付くぅ!!!」」」」」」」


「……、――、……、……は?」


 理解不能な価値観の正体を……必死に理解してみようとしていたところで、彼らから異口同音に発せられた言葉だったが、やはり正体は不明。


 恐らくは、その「根性が付く」


 ……実際に付くのか、つかないのかは さておき。


 そうと信じて、彼らは不良であろうとし続けているのか。


「そんな……ウナギを食べたら精が付く……みたいな感じで言い切られてもな」


 とはいえ実際に……その効能が得られるか どうか分からない、それではある訳だけど――エビデンスも怪しいと言う点で言えば……先日、田舎から送られてきた熊の胆だって大して違わない。


(ひょっとして……おかしな申し出をしているのは……、――俺の方……なのか?)


 拠り所とするには あまりに頼りない、自身の短すぎる人生経験。


 揺るぎない調子で言い切る彼らを前に俺は……。


 その理解し難い価値観に揺さぶられて、言葉を失くしてしまっていた。



 * * *



 俺が口を開くのを止めた途端


「見損なうなや!」


 そう啖呵を切ったひとりの後に、他の連中も続き始めた。


 余計な世話が過ぎたのかとも思い、引き留める言葉も見当たらずに、俺には……その背中を見送るしかなかった。


「橘く~ん?」


 そんな空気の中、パーティ・ルーム入り口のドアから顔を出したのは、猫かぶりモードのイオナ。


 そんな彼女と鉢合わせるなり、3年連中が足を止めた。


「……そ、その制服……この辺りの……お嬢様学校の……」


 制服からイオナの学校についてを察したらしい一人が、ドギマギとした空気を滲ませて、うわずりかけた声を必死に抑えようと苦闘。


「……あ……橘くんの……先輩さんたちです……よね? 先日のBBQではお世話になりました♪ 焼いて下さったお肉……すっごく美味しかったっです♡ また、その内……良かったら橘くんの家に集まってBBQしませんか?」


 春のあの日の、夜の集会。


 澪と一緒に、あの……なんとも知れないチームの姫に担ぎ上げかけられていた その片割れ。


 ……黙ってさえいれば。


 猫さえ被り続け、おおせさえすれば。

いつもブクマ有難うございます。


宜しければ、お読み下さった御感想や「いいね」


その他ブックマークや、このあとがきの下の方に

あります☆でのポイント


それらで御評価等戴けますと、それをもとに今後の

参考やモチベーションに変えさせて戴きますので


お手数では御座いますが、何卒宜しく

お願い申し上げます。

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