団子より花
「今日からお前たちには……最低限ではあったとしても……まともな高校に行くことができるよう
「俺が勉強を見ようと思う」
こいつらの理解速度に合わせての――ゆっくりとした説明に、ぽかんと呆けた顔が並ぶ。
「い、いや……あ、あの……でもさァ? 橘くん?」
ひとりが、そんな風にたどたどしい様子で口を挟んできた。
「俺らの中でって……誰も……動物園に行くなんて奴、居ねぇハズなんだけど……どういう話なんかなァ? それ。おい……お前らの中で……誰か飼育員さんになりてえ奴とかって……居るんかよ?」
そして、その……。
ここまでの話の一片すらも理解してくれていない様子の そいつに。
俺は……惜しみない電撃を浴びせてやった。
* * *
「んんじゃ?! そりゃあァああアアアァーーーー!! 俺らに……お勉強しろってのか?! 橘くんよオォーーーー!!!」
「出たての芸人みたいに喚くなアホ共……奴らは、芸がないから下らんリアクションと、意味不明な拍子で露出を稼ぐしかできない奴らなんだ。真似するんじゃない。バカが進行するぞ」
予想外の反発に俺は困惑。
こいつらの……堪えかねる頭の悪さに仏心を出して。
貴重な時間を削ってまで勉強をみてやろうと申し出てやったのに この反応。
「大体! 橘くん! なんで、そんなお勉強できんのによォ!! うちの学校なんかにいんだよ?! そんなにお勉強が好きなら、俺らみてぇなのが居る学校じゃなくてよォ! 受験がある進学校に行けば良かっただらァーーーー!!」
「……喚くなって言ってるだろうが。俺を基準に学校選びなんかしたら、千影が一緒に入学できる余地がなかったんだ。仕方無かろう。あいつが泣くのは、ことのほか堪えるんだ」
沸騰石を入れ忘れて突沸を開始したフラスコみたいに、喧喧囂囂とパーティ・スペースに声が渦を巻き始めた。
こいつらのアホさ加減に眩暈を覚えながら――よもや、俺が彼らを見下して虚仮にしてきたことに対して腹を立てているのかと……思い
「ひょっとして……俺が、あんた達のことをアホだ、バカだのと……こき下ろしてきたことに……腹を立てているのか? それなら心の底から謝らせて貰ってもいい」
人の感情に寄り添う事が壊滅的にダメな俺が、殊勝にも謝罪に出てみた訳だったけど。
「「橘くんは……俺ら不良を……バカにしてたんかァ!!」」
連中の内2人が、タイミングもばっちりに噴飯ものといった様子で、吠えた。
「……気づいて……無かったのか。いや、それは今はイイんだ。ゴメン。――大体、あんたらが こだわる、その……『不良』って奴の……意味と言うか、価値感が理解できん。それを……続ける事で、なにか御利益でもあるのか? ……健康に……イイとか? 就職で便利とか……いや、ないだろうな……、――、……一周まわって……あったり……するのか?」
どれだけ粋がろうと、肩で風を切りながら与太って歩こうとも――
近代火器の独占に……建前上は成功したことにより、市井には対抗する手段も無い、公的暴力機関が存在するこの国。
こいつらの遥か高みに胡坐をかく、やくざなんて人種であったとしても。
組の名前を口にするなり、バッジをちらつかせるなりするだけで――使用者責任なんて便利な理由で、下からトップまで一網打尽に しょっ引かれるとも聞く このご時世。
こいつらが拘る不良なんてものの、存在価値が俺には微塵も理解ができない。
「「「「「「「根性が付くぅ!!!」」」」」」」
「……、――、……、……は?」
理解不能な価値観の正体を……必死に理解してみようとしていたところで、彼らから異口同音に発せられた言葉だったが、やはり正体は不明。
恐らくは、その「根性が付く」
……実際に付くのか、つかないのかは さておき。
そうと信じて、彼らは不良であろうとし続けているのか。
「そんな……ウナギを食べたら精が付く……みたいな感じで言い切られてもな」
とはいえ実際に……その効能が得られるか どうか分からない、それではある訳だけど――エビデンスも怪しいと言う点で言えば……先日、田舎から送られてきた熊の胆だって大して違わない。
(ひょっとして……おかしな申し出をしているのは……、――俺の方……なのか?)
拠り所とするには あまりに頼りない、自身の短すぎる人生経験。
揺るぎない調子で言い切る彼らを前に俺は……。
その理解し難い価値観に揺さぶられて、言葉を失くしてしまっていた。
* * *
俺が口を開くのを止めた途端
「見損なうなや!」
そう啖呵を切ったひとりの後に、他の連中も続き始めた。
余計な世話が過ぎたのかとも思い、引き留める言葉も見当たらずに、俺には……その背中を見送るしかなかった。
「橘く~ん?」
そんな空気の中、パーティ・ルーム入り口のドアから顔を出したのは、猫かぶりモードのイオナ。
そんな彼女と鉢合わせるなり、3年連中が足を止めた。
「……そ、その制服……この辺りの……お嬢様学校の……」
制服からイオナの学校についてを察したらしい一人が、ドギマギとした空気を滲ませて、うわずりかけた声を必死に抑えようと苦闘。
「……あ……橘くんの……先輩さんたちです……よね? 先日のBBQではお世話になりました♪ 焼いて下さったお肉……すっごく美味しかったっです♡ また、その内……良かったら橘くんの家に集まってBBQしませんか?」
春のあの日の、夜の集会。
澪と一緒に、あの……なんとも知れないチームの姫に担ぎ上げかけられていた その片割れ。
……黙ってさえいれば。
猫さえ被り続け、おおせさえすれば。
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