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処女搾乳  作者: ……くくく、えっ?
四章:夏の終わり

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鎖骨をなぞる指

 この修羅場に遅れて乗り込んできた柊先輩が、紙皿に盛った肉に舌鼓を打ちながら……お裾分けにと、進呈したクーラーについて訊ねてきた。


 我が家の庭を解放してのBBQは、食が細い女子たちによって――アッと言う間に終了。


「……もうちょっと、あと……もう、ちょっと片付くと思ったのに」


 残された肉の量は、クーラー4個と3分の1。


 千影はもとより、澪にイオナまで呼んだというのに減りもしない肉の山。


「んー来た奴全員に……持って帰らせようにも、今は食中毒とかやべぇしなァ……欲しい奴らに住所でも聞いてよ? 送りつけてやっちゃどーよ? 来る時、うちの厨房も見てきたけど冷蔵庫の下は、まだ段ボール2~3個分は空きがあったぞ。なんだったら、こっちに送ってくれてもいい。そうすりゃ、オヤジ共が多分……なんとかすっだろ♪」


「お願い……できますか?」


 途方に暮れていたジビエを片づける目途も立って、隣で肉にがっつく先輩に目を向けると、首元に真新しいネックレスが揺れていた。


「……先輩、それ」


「んん?」


 余程、お腹を空かせて今日のBBQに来てくれたのか、げっ歯類の頬袋みたいに、詰め込んだ肉で口をパンパンに膨らませた先輩が、視線の先に気付いた様子で――


 自慢気な笑みを目だけで浮かべて、猛烈な咀嚼を開始。


「……それを買うために夏休み、バイトされてたんで? ダイアモンドか……ジルコニア。それと、マラカイトと……ピンク・ゴールド?」


「んおっく! ……おおよ! 一ノ瀬といい、お前といい、目端が利くじゃんよ♫ ショーメのリアンだ。いっやぁ~♪ 一目惚れって奴? こおッれ! 欲しかったんだわぁ。結局、金足りんかったんだけど……その分は、うちのオヤジ共相手に……麻雀で巻き上げたったァ♡」


 普段は、良くて……煙草銭程度、奮発して酒代くらいの賭けに終始する先生たちを相手に……無慈悲に毟り取ったと仰る先輩。


 きっと、その物欲を満足させて嬉しそうな表情をなさる先輩の影には……気のいい先生たちが流す血の涙があることを想うだけで――悲壮極まる「アイヤー」の声が聞こえてくるようで笑うに笑えない。


「どーよ? 似合ってんべ? ちょいワンランク上……って感じで、エレガントだべ?」



「……そうですね。


「先輩の首筋のラインから辿った先に……在るべくして在るみたいな。


「さりげないシンプルなデザインで、似合ってると思います」



 明日の朝の稽古で顔を合わせた先生方に……なんと言ってお慰め申し上げようかと、うわの空で返すと――先輩が驚いたみたいな表情で固まって、こちらに視線を注いでいた。


「先輩?」


 呼びかけてみると、我に返った先輩がオタオタとしだした。


「な、なんでもねぇ! なんでも……ねぇよ?!」


「……? 肉が喉にでも詰まりました? ジュースが良いです? 他は……麦茶か、ウーロン茶か……淹れて緑茶くらいしかないんですけど、取ってきましょうか。それとも お代わりです?」


「なんでもねぇって言ってんだろうが橘ッ! しばくぞ! ――、……、――鎖骨の辺り……お前に指でなぞられた……かと思った……時々、ドキッとさせる様なことを……サラッと口にしやがるよなテメぇはよ」


「……は?」


「なんでもねぇって、言ってんだろッ! 気にすんじゃねぇ!!」


 柊先輩が言ったことの――意味が分からなかった訳じゃない。


『指でなぞられたかと思った』


 それが例えであるのも理解できる。


 そして、彼女が今どんな心地で、慌てふためいているのかも……少しくらいは想像できる。


 けれども、そのいずれに対しても……実感を伴う、確信めいたものが得られない俺は。


「はい」


 彼女が言う通りに、小さく返すより他無かった。



 * * *



「最初……怖い人たちだと思ってたけど……3年生の先輩たち、意外と優しいよね」


「そォ? 優しいっていうか……ゆるい。取れた釦付けてあげただけで赤くなるし」


「……私、あの先輩がモリモリ食べてるのは……ちょっと好きかも……うちのハムちゃんみたいで、かわいい」


「趣味悪ぅ♪ うぷぷぷッ」


 下級生たちの囁き合う声に。


 クールを装って気にも留めていない素振りで――けれど、がっつりと聞き耳を立てながら。


 グリルに積み上がった肉に挑む3年生一同の奮闘には涙を禁じ得ない。


「お前が……新聞に載った、橘くんの活躍を見つけて、報せてくれたお蔭だわ……ありがとよ。お前の分析力……流石は、俺たち随一の知恵者……ただ一人、高校進学を射程に収めるだけはあるぜ」


「寿畜産に進学する身としちゃ……当然よ。見てろや、お前らが見れんかった高校生活って奴の景色を……しっかりと見てきてやるからよ」


「……愉しみにしとくわ。俺は親父の店手伝いながら……リーゼント専門の店出す修行してっからよ。どっちが先にてっぺん取れっか競争しようや」



(マジか、マジなのか……あいつら)



 聞いた事もない学校名。


 その日、夏の終わりを締めくくるに相応しい宴の後で――耳にした校名を検索して、偏差値と評判についてを俺は調べていた。


 連中の一人が、ようやく滑り込むことが可能らしい その学校は……


 この国の地の果てとも言える立地に存在し


 高校にも関わらず、給食に加えて――3時のおやつに、お昼寝の時間まで設けられ


 俺の知る如何なる高校についての情報とも合致しない


 数多の伝説がずらりと並ぶ、恐るべき場所のひとつで……


 その途中まで目を通しただけの俺の胸に――近年感じたことも無かった様な……不安に駆り立てられるかの、なんとも言えない後味の悪さを残した。

いつもブクマ有難うございます。


宜しければ、お読み下さった御感想や「いいね」


その他ブックマークや、このあとがきの下の方に

あります☆でのポイント


それらで御評価等戴けますと、それをもとに今後の

参考やモチベーションに変えさせて戴きますので


お手数では御座いますが、何卒宜しく

お願い申し上げます。

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