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処女搾乳  作者: ……くくく、えっ?
四章:夏の終わり

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BBQへのお誘い

「家に帰って、桐箱に合うサイズの物を探してみたんですけど……丁度イイ感じの巾着が見つかって、良かったらどう……かな?」


 気も遠くなる様な職人の苦労が伺える様な――梅の花が咲き乱れる、シックな風合いの生地で拵えられた巾着を、彼女が見せてくれた。



「これは……ほんの少しだけ裏に『擦れ』があったB反の――その部分をカットして、私が練習で作った物なんだけど――


「……もし、橘くんが、あの桐箱を容れるには見合わないと思うなら……勿論、新しく用意させて戴くんだけど――」



 俺とは別の形で、人付き合いを苦手とする彼女が――こちらを窺い窺い、恐る恐ると言った感じで巾着について説明してくれた。


 どうやら彼女は、熊の胆を収めた桐箱を容れるにあたって


 傷物に付けられる評価、B反とやらを使って仕立てた物を勧めることに、罪悪感めいた なにかを覚えているみたいではあったけれど――。


「うん、有難う。一ノ瀬さん。良く分からないけど……巾着って、いくらくらいする物なのかな?」


 ……こちらとしては。


 民間療法の域に収まる熊の胆なんてものに……そこまでの信仰を傾けている訳でも無ければ、重箱の隅をほじるみたいな小さな傷が、元の生地にあったからと言って、それを気にするつもりも無い。


 この家で金目の物を放り出したまま、埃を被らせておくと……極々稀に――ふらっと、帰ってくる母親が事情も知らずに


 戴きものを棄ててしまう心配があるだけに――目の前で肩を小さくする彼女に、お骨折りを願ったに過ぎない。


 彼女からのプレゼンに……特に気を払いもせず、支払いについて尋ねてみれば。


 一ノ瀬さんは慌てた様子で、いつもの如く言葉を費やして


 ――それを固辞して。


 なんとしてでも、その働きに報いたい俺を相手に、一歩も譲らない激戦をリビングで展開する構えを見せた。



 * * *



「……よォ」


「あァん?」


「――俺らよ……まァじで、女子に……モテなかったよな」


「……言うんじゃねぇよ。堪えっだろうが。中学デビューで気合入り過ぎてたんだよ! ぜぇんぶッ! 床屋の雑誌と漫画を参考にしたのが悪かったんだよ……言わせんなボケ」


「橘くんと知り合えて、良かったよな……」


「ぅうッ!?」


「泣くな! 泣くんじゃねぇ! 女子に見られんだろうが!」


「な、泣いてねぇ! 泣いてねぇしィ?! 〆るぞテメぇ! 煙が……煙がよォ」


(マジでなんなんだ……アイツら)


 2学期初日の学校が終わって。


 その日、俺は迷惑も顧みず、唐突な申し出を皆にした。


 田舎から送られてきた18リットル容量の……発泡クーラー5杯分の熊肉。


 容量の内、半分程は保冷のための氷だったとはいえ――熊の胆と合わせて、お隣さんが俺に……と、送って下さった これの処分に俺は困って


 皆に声を掛けてまわり、自宅の庭でBBQパーティーを催すことにした。


 熊の肉と言う、口にする機会もなかなか無い、珍しい食材でのBBQとあって、一ノ瀬さんを始めとした家庭科同好会の女子一同は、急な招待だったにも関わらず


 ふたつ返事で招きに応じてくれた。


「熊さんのお肉……初めて食べる」


「なんか、ちょっと……可哀想かも」


「最近聞くようになった、単なるジビエっしょ♬ 私は食べちゃうしィ~♪ ……、――、……う、美味ッ! ちょちょちょ! これ! ちょ! めっちゃ美味い!」


「……臭くないの? 私、豚肉でもダメなんだけど……え? なにコレ! 超美味しい!」


 焼き鳥屋台の大将みたいな風情で、火起こしから肉の串打ち。


 塩振りから、焼きまで身を粉にして動き回る3年連中に、下級生女子たちから催促の声が飛ぶ。


「いいいぃ……喜んでぇ! ちィっと! 待ってろやァ!」


 さっきまでの意味不明過ぎる、悲壮な空気を振り払うみたいな威勢。


 きりきりと汗をかきながらも3年連中は、どことなく嬉しそうな空気。


 夏休みの田舎での俺の大立ち回りが、一ノ瀬さん経由で漏らされたのだろうかと思い――


 やんわりと探りを入れてみたものの、やはりそれは、邪推と言うものでしかなかったらしい。


 一ノ瀬さんから、俺が田舎に帰ったとの話を耳にしていた連中のひとりが、スポーツ新聞の片隅に小さく掲載されていた――


 〝熊2頭に銃を弾き飛ばされながらも、刈り払い機で応戦して駆除した〟


 ――と、いうことに表向きはなっている、お隣さん宅のお爺ちゃんへのインタビュー記事を目にして。


 ……その記事を目にしただけで。


 一体、こいつらの頭の中のインデックスは――どういった関連付けが行われているのか、疑問でしかないけれど。


 記事を片手に詰め寄ったアホ共に、一ノ瀬さんが挙動不審に目を泳がせたことで……。


 脊椎反射と、勘だけで人生をやりきる御所存の3年生の皆様方は。


 飛躍に飛躍を重ねて――その老人の離れ業に、……何らかの形で俺が関わったに違いないと、断定して。


 根拠もなにも無かったハズにも関わらず。


 正解に辿り着いてしまった……というのが、この件における真相の様だった。


(流石は、動物……)



 * * *



「でぇ? 橘ァ? 本当にあとで〝アレ〟貰って良いんかよ? 熊の肉って、うちのオヤジどもが言うにゃ高級牛より高いとかって話だぞ。……てか、マジでうめぇなコレ。臭ぇのかと思ってタレの奴、取って来たけど……塩コショウで全然イケる。むしろ塩コショウだけが、一番美味いまである」


「……あの……ですね。柊先輩。玄関に積んだままのクーラー見ました? 骨とか外して人間の体重の……半分くらいの量が残ってるんですよ? どうすればいいんだ……あんな量……」

いつもブクマ有難うございます。


宜しければ、お読み下さった御感想や「いいね」


その他ブックマークや、このあとがきの下の方に

あります☆でのポイント


それらで御評価等戴けますと、それをもとに今後の

参考やモチベーションに変えさせて戴きますので


お手数では御座いますが、何卒宜しく

お願い申し上げます。

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