暗黒の月曜日きたる
「ふっふっふっ……実はお婆ちゃんに、おやつにって貰ってきたんだ♪ もちきび♡ 一緒に食べよ♬」
「おおォ……さ、流石は千影ママやぁ。マジでわたし……ザラメくんと一緒に育てて欲しい……」
「……澪ちゃん。なんかひとり分……多いみたいだから、ぽきってして半分こして食べよ?」
「ママぁ! ママぁ!? わたしは……わたしの分は良いから! せめて! せめて! ザラメくんにあげる分だけ頂戴! た、食べさせてあげたいの!!」
世に聞く刀剣鑑賞の場の静謐さからは程遠い、姦しさとバスの振動の中。
俺はしばらくの間、時も忘れて――お爺ちゃんから譲り受けた、先祖伝来の一品に魅入りながら、社会のルールを踏みつける、ささやかな喜びに浸り続けた。
* * *
「……、――、……あ~っ……くーちゃん……だぁ」
寝ぼけまなこの千影をよそに、時間との戦いを強いられる。
「どうして、パジャマ脱がせてる……の」
かぽっ……きゅりきゅりきゅりきゅりッ――
澪やイオナと違って、別に低血圧という訳でもないハズなのに、今朝のこいつの寝起きは……珍しいことに最悪だった。
「んっ……くーちゃん」
大人たちの目の届かないところでの、背徳感に満ちた他愛の無いお遊びにも似て
心臓が早鐘のように鳴ったのを覚えたのも随分と前のこと。
きょぱきょぱきょぱきょぱ――、ちゃー
きょぱッ、ちゃー
きょぱ、ちゃ――、……
陰圧が成されるや、途端に容器を満たし始める幼馴染の母乳。
「も~……くーちゃん……今日は、おっぱい絞ってくれなくてイイ日なのに……、――寝ぼけ……てるの? めず……ら……しい……ねぇ」
開いたパジャマの前から突き出された――スイカか、メロンめいたサイズの胸。
その先端に張り付いた器具が俺の目にも、卑猥に映ったのは いつの日の事だったか。
「それ……とも……わた……しの……おっぱい……で、あそび……たく……なっ……ちゃっ……た……、――の」
作業にかまけて、ほんの少し目を離しかけた合間に、再び夢の中に旅立とうとする、幼馴染の両のこめかみに、握り拳を添えて力を込める。
「イったい! 痛い痛い痛い痛い! 痛いよ!? く、くーちゃん! くーちゃあん!!」
ベッドに掛けたまま、悲鳴を上げて足をバタつかせている内に、胸に取り付けた器具が外れて、ぽこんと軽い音を立てて落ちた。
「……はぁ~っ……はぁ~っ……く、くー……ちゃん?」
「おはよう……千影」
荒い息を吐く、幼馴染に朝の挨拶。
「ど、どうした……の」
まだ状況の把握ができていないのか――目にはうっすらと涙を湛えて、千影が訊ねてくる。
「どうしたもこうしたもあるか……夏休みは、もう終わったんだよ」
* * *
頭こそ良くは無いものの、出された宿題等はしっかり片付ける……少なくとも その意欲は見せる優等生のこいつのこと。
とはいえ、出された夏休みの宿題の量に悪戦苦闘したのか、この様子をみれば――きっと昨夜は徹夜に近いノリだったに違いない。
いつもは朝に顔を出せば、テーブルに準備されている――俺の朝食が見当たらなかった理由は……そんなところなのだろう。
入学当初は、周囲からの煩わしい揶揄を躱す意味から別々の席に掛けたバスの中。
気が付けば「夫妻」なんて言われているらしいとの話についても……さして気にならなくなった。
未だに眠気に捉われて、気が付けばバスに揺られるまま――肩に頭をあずけてくる幼馴染。
時間一杯、そっと寝かせてやりたかったけれど。
バスは大した時間も経ずに、いつものバス停で停車して、俺たちは約一か月ぶりになる通学路を歩くことになった。
* * *
「……え……あれ……まだ……夏休み……、――だよ……ね」
「そうだよ……ね……澪ちゃ……夏休み……始まったばっかり……だよ……ね」
途中で合流した澪もまた――休みボケが酷かった。
未練からなのか、現実逃避なのか。
一向に現実の時間の流れを受け入れようともしてくれず――ふたりの足もなにもかもが、ゆらゆらとした力の無さで……直ぐに、どこそこに座り込んでしまいそうになる始末。
「お前らシャンとしろ……シャンと。仮に今が夏休みで、ここがうちの田舎だったとしたら、お爺ちゃんに見られでもしたら、どやされるぞ」
普段、他人の振る舞いになんて、自身に影響が及ばない範囲においては――
まるで関心すら持たない俺が……言って聞かせる立場にまわるだなんて、一体どういうことなのか。
のらりくらりと道草を食う、牛を追い立てる牧羊犬か、夢の中の住人となった老人を介護するみたいな心境を味あわされている内に
俺たちは、見慣れた学び舎の正門へと辿り着いていた。
* * *
「「「「「「オアシャシャぅオオオオ&※♯$☆%@――――ッッツス!!!!」」」」」」
「……おい、お前r……先輩方」
声量ばかりが要求される場において――のみ、意味を持つ意味不明な。
……必死に語彙を理解しようと頭を巡らして、ようやく察することができる……恐らくは挨拶の言葉を。
正門前に並んだ、いつもの3年連中に投げかけられ――猫の皮を被るのも忘れて、思わず俺は……苛立った声を上げかけてしまっていた。
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