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処女搾乳  作者: ……くくく、えっ?
三章:モラトリアム

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橘家

「なに言ってるか……この坊やなら、ワタシが得意の軽功(チンゴン)飛檐走壁(ひたんそうへき)くらい直ぐに覚えると思うネ。身体が出来上がってないから、話はそこからだけどネ」



「喰わせるネ! もう……こうッ! 泣こうが喚こうが! ふん縛って! 豚の如く喰わせて……喰わせて……この坊やの身体を作り上げるとするネ! 体重あれば大体の喧嘩は勝てるヨ!」


「ナニ言うか! 貴方! 貴方みたいに太ったら、ワタシの軽功、坊やが覚えられないネ! デブはこれだから嫌ネ! デ~ブ! デ~ブッ! デ~ブッ!!」


「ワタシの地功拳で、ぶっ飛ばされたいカ! 貴方ァーッ!」


「ぶぐぅ?! あ、貴方たち! このネズミ花火みたいに、グルグル回るデブを止めるよォーッ!!」



 武術談義の末に始まる――シラバスの……猛烈な勢いでの構築。


 朝に公園で、先生方がラジオ体操代わりにおこなっておられた日課を目にして以来、こんな感じの朝を毎日送っていた訳だけれど……


 台所に置かれたまま、誰からも顧みられなくなって……忘れられた――油汚れで黒光りする、七福神の人形にも見えなくも無い先生たちが


 いつも通りの賑やかさで、早い時刻にも関わらず、元気に騒ぎ立てる。


 気心知れたじゃれ合いにしては……苛烈な。


 口論の末の喧嘩と言うには――あまりに高度な。


 先生の一人が見せた、ストリートダンスのウィンドミルを彷彿とさせるパワフルな立ち回り。


 流石とも言える その動きに翻弄されながらも、取り囲んで止めようとして――悪戦苦闘する先生たちと、それを煙草で差して笑うのは、別の先生。


 ひとしきり俺も観戦させて戴いた後で


「……今日も、有り難うございました」


 長居をしたが最後。


 朝からは重すぎる中華を、アレコレ食わされるに違いないと察して――


 礼を述べると、逃げるみたいに


 家へ帰る事にした。



 * * *



「んん~? 浮気メールの気配がする」


 二の腕に頬をくっつくように座席に座る千影が、愉しそうに邪推する。


 メール内容は、()()()()からの『毎日、5分でも3分でもいい。絶対に稽古は怠らないこと』という――夏休みに浮かれる生徒を戒める温かなもの。


 隠す必要なんて微塵も無い その内容の画面を見せてやろうとしてみれば


 千影は首を目一杯逸らすようにして顔を背けて――それを拒否。


「くーちゃんのこと信じてるから、読まなくても大丈夫だもん」


 朝早くから、電車を乗り継いで――そこからバスで揺られること30分。


 夏休みもまだ早い、お盆にも日数のある内から、俺と千影は遊ぶ気満々で――


 俺のお爺ちゃんと お婆ちゃんの住む田舎へと


 3年ぶりに向かっていた。



 * * *



「ただいま、お爺ちゃん」


「……、――、……」


 今時の年寄りの例に漏れず――背も曲がってはいなければ、身体もさほど小さくも無い 俺のお爺ちゃんが、工場の作業着姿のまま、バス停まで迎えに来てくれていた。


 猛禽類を思わせる鋭い眼つきに、昔会った事もあるにも関わらず――物怖じする千影。


「……あれから親父は?」


 お爺ちゃんと会うたびに毎度繰り返される、もはや符牒か なにかの趣さえある物問い。


「顔も見ない。お爺ちゃんが……父さんをぶん殴るのは、まだまだ先になるよ多分」


 いつもの実りの無い報告を耳にした途端、


「……他人様んちの娘の腹ぁ膨れさせておきながら……挨拶にも来ねぇ。生まれたガキにゃ構いもしねぇ。親父に会ったら……殺さねぇ程度で、ぶん殴ってやるから……顔出せって言っとけ」


 不機嫌さを露わにする お爺ちゃん。


「……あ、あの……ま、また……お……お邪魔します。お爺ちゃん」


 迫力に気圧されて、しどろもどろに挨拶を口にする千影を視界の隅に入れ


「――蔵人と一緒に、ゆっくりしてけ……千影ちゃんよ」


 いつもの調子で愛想笑い、ひとつ見せずに。


 踵を返すと、先を案内するみたいに 母の生家。


 ――橘の家への道を歩き始めた。



 * * *



「本当に綺麗になったなぁ……千影ちゃん。うちの冴子が昔、着とった浴衣用意しといたけ、これ着ろ? 貰ってくれてもええけ(いいから)


 お爺ちゃんとは打って変わっての歓待モードのお婆ちゃん。


 家に到着するなり玄関先でちやほや ちやほやと……そして、それからも。


 やれ、夏のイチジクが実ったから 冷やしておいた。


 やれ、イイ石鹸を戴いたから これを使え。


 見ているだけで疲れてくる程の、千影への猛攻は継続され


 一向に解放される気配すらなく、あれもこれもと――


 このお爺ちゃんとお婆ちゃんが ふたりで住むだけの平屋のどこに……それだけの物が、仕舞い込まれているのか不思議になる程の


 この家のありとあらゆる――千影が喜びそうな品物が、並べ立てられ続けた。


 それに対して嫌な顔一つせず……いや多分、千影のこと。


 きっと心の底から お婆ちゃんからの心尽くしに


 喜んでくれているに違いなかったけれど。


 延々と続く、女同士のやりとりに……居場所を無くした俺と、お爺ちゃんは――


「……付き合え、蔵人」


 食事も終えて


 汗も流して、日も暮れた


 虫が鳴く 田舎道を――夕涼みがてら


 ふたりで歩くことにした。

いつもブクマ有難うございます。


複雑な家庭環境の子な訳です主人公くん。


もし宜しければ お読み下さった御感想や


その他にもブックマークや、このあとがきの

下の方にあります☆でのポイントに代えて、


御評価戴けますと、それを元に今後の参考や

モチベーションに変えさせて戴きますので、


お手数では御座いますが、何卒宜しく

お願い申し上げます。

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