フー・マンチューの朝
「し、信じられないネ……こ、この坊や……あ、悪形式まで身につけおったネ」
柊先輩の店の奥まった場所にある専用駐車場で、顎を伝う汗を拭っていると……ここ最近、俺の先生となって下さった――厨房の皆さんが愉し気な悲鳴。
「陳さん、賭けはワタシの勝ちネ。坊やなら……やれる思たヨー。麻雀の勝ち分の千円、チャラにして貰うネ」
「……ア、アイヤアァ……ワタシノ、ワタシノ今日の煙草代、坊やのせいで吹っ飛んだネ……なんて……ロクでもない生徒か……恩を仇で返されるとは――まさに この事ネ」
そんなこと微塵も思ってもいないくせして口にされた――コミカルな泣き言に
暇つぶしに顔を出してきた先生方が、どっと笑う。
存分に皆さんからの賞賛にも似た笑いを集めて満足したのか、先生がこちらを向く。
「……本当だったら、ワタシたちの武術というものはネ? 〝子〟が師を選ぶのでは無く、師が〝子〟を選ぶのヨ。伝える人間と……伝えられる人間の――相性に性格、生まれ育った家庭環境、年代まで考えて――
「長~い時間をかけて伝えるものなのネ。そうでないと風格? 拳……風? 日本語ムズカシイ……坊や、頭イイんだから自分で調べるネ
例えるならダンサーや、音楽を志す人間でいうなら……楽曲の楽譜を遮二無二追うだけでは成立しないのが、武術だと……仰りたいのか。
口から出てこない御様子の――お世辞にも上手とは言えない日本語に閉口して、先生が眉間に皺を寄せる。
「とにかく、そうでないと……そう言うものを正しく伝える事ができないし、伝承の過程で生まれた小さな小さな違いは、少しずつ積み重なって――
「何百年も経たない内に、伝えるべき事そのものが、消えてしまう……だからワタシたちの先祖は、ものすご~く……神経衰弱になって――」
「神経質です 陳先生」
「……うるさいヨ、坊や。あぁ……なにをワタシ、言おうとしたカ。オ前が話の腰揉んだから忘れちゃたヨ! そうそう、そうだった……そうだったネ
「そんな訳でネ、坊やみたいに形と動き――これについては、見ただけで覚えてしまう様な賢い生徒も、たまにはいるヨ
「でも、悪行式……これを見ただけで完璧にやってみせるテ、坊や……オ前、一体どういう脳ミソと目ん玉してるカ? 気色悪いヨ……ワタシがコレ、どれだけ苦労して身に付けたと思ってるネ」
どうと聞かれても、昔からいつも――
強く関心を示した……もしくは、必要性を認めた事柄に、限られはしたものの
それらは、それなりに自分のモノにすることができたと……以外、言いようもなかった。
先生からの言葉に……なんと返せば良いのかも正直なところ――分からずに、どう説明したものかと、悩んでみれば。
「見ただけでモリモリ武術を吸収する……この坊や見てるの愉しくなって、調子に乗って……見せてしまった陳さんが、ぜぇ~んぶ! 悪いネ」
「ワタシか?! ワタシが悪いカっ!?」
先生の一人が笑って、そんな風に助け舟を出して下さった。
「この坊や、身体が育ち切って無いから、硬功夫ダメ。スタミナも無い。あと身体も、もっと柔らかい方が良い。でもそこは、ワタシたちが餌やりながら鍛えると面白い思うネ」
「ホントよ。日本に来て面白いオモチャ、ワタシたち見つけたネ。愉しみで仕方無いヨ。ワタシの器戒全部を教え込むネ。最高の暇潰しヨ」
「やめるネ。坊やを悪の道に引き摺り込む良くないヨ不良中国人。若者は慎み深く礼儀を持って正道を歩くのが努めヨ。まずは学業を成させ、次に手には職を……武術は、それから。護るお宝も無いのに蔵ばかり立派に造って、どうしますか?」
「お宝は……坊や若いし、それだけで充分思うヨ。羨ましいくらい思う。学業も就職も……この坊やに関しては、ワタシたちが心配する必要も無いですネ。……でも、後の問題は気功ヨ。ワタシたちの文化に根差した……寓話で抽象的に伝えられる概念――
「アイヤ……煙草無いネ。ちょっと1本クレよ貴方――謝謝」
「……日本人の この坊やが、池がどうの炉がどうのと……理解できるかが大問題ネ。絶対に龙珠みたいなものだと思う違いないネ。あんなふうに力んでも屁しか……でないヨ」
「それよりも、なによりも……この坊やの素晴らしいところは、思い切りの良さネ。普通、経験の無い人間に、対手や散打やらせたら、相手の前で縮こまる思うヨ。でも、この子……全然それが無い。打って来いって言ったら、迷いもなく打ってくる」
「〝子〟を褒めるものじゃないネ」
「――ついうっかりネ。許すヨ。でも貴方、今まで……こんな坊や見たことありますカ? 套路にしても……動いている最中とか、絶対なにも考えていないの分かりますネ。これが本当に凄いヨ。普通は、次は次に次して……って、ひとつひとつ考えてしまうものネ。始めたばかりで完全に無意識に動ける……凄くないカ?」
「貴方たち……ワタシたちが、この坊やに武術教える様になって まだ、一週間くらいヨ?
気が早すぎないカ?」
いつもブクマ有難うございます。
主人公が求めた、パルクルールを
どう体得させるかは悩んだんですけど……
そのままパルクールを身に着けさせるには
あまりにもまだ、一般的ではないし
代案としてプロレスのルチャ
をと考えてみましたところ
こちらも一般的ではないのは同じですが
知名度と、市民権は……まだ、なんとか(苦しい)
けれどルチャは、拙作【おっぱいバカ】で
得意とするキャラを もう出しちゃった後でしたので
ボツにしました(´Д⊂ヽ
それで行き着いたアイディアが、時計塔から
落下するジャッキーだったというね。
凡な頭で、スマヌ……スマヌ……
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