美味なる晩餐の円卓にて
「一ノ瀬ぇ……あたしんちの料理に手ぇ出さねぇと……後悔すッゾぉ?」
ドスを利かせた声で、邪な表情を浮かべる柊先輩が――気の弱い彼女を追い込むかの、嗜虐的な視線を向ける。
「――あたしの親父……てか、もうジジぃって歳のバカなんだけどさぁ? ……ブルース・リーとジャッキーと、サモハンに、リー・リンチェイにかぶれて……中国全土ををうろついてったってアホなんだけどよぉ? その途中で知り合った料理人連中を引き連れて日本に帰国したお蔭で、御覧の通り……それなりぃ~に♪ 店は繁盛してんだわ」
「味だけは保証してやるから……まぁ、食え。つっても? これは、あたしの奢りじゃなくて……お大尽は、このクッソ生意気な橘な訳だけどもさ。そんな訳でぇ……ごぉちっ♬」
自身も席に着くと、慣れた手並みで皿に盛られた蟹に手を伸ばして貪り始める先輩。
「お? 今日のは当たりだわ。めっちゃめちゃ味、濃い……てか、使った老酒もこれ……奮発してやがんなぁ。香りが全然ッ違ぇ……後で厨房のオヤジどもにゃあ、ビシッと言って聞かせにゃならん」
そして始まる蟹を噛み砕く3重奏。
「くーちゃん、私たちも御馳走になろっか♪」
美容室でカットして貰ったばかりの髪を、指で払って耳に掛けた 千影の言葉に倣って
一緒に蟹へと手を伸してから――暫くして。
舌鼓を打ちっ放しの俺たちに、後押しされたかのように……一ノ瀬さんも、おずおずと……テーブルに置かれた美味に手をつけた。
* * *
「……も、もー食えないでぷぅ」
次から次に運ばれてきた美食中華に、イオナは早々に猫を被るのを断念した御様子で――背もたれに、ずり落ちていた。
「てか、こんな地方のお店なのに……特級点心師まで居るって……ここ凄く高いんじゃない? 蔵人? 柊先輩以外のウエイトレスさんも……みんなチャイナ服だよ、チャイナ服」
俺が蒸しアワビを包んだ点心を、箸で摘まんでいたところで――懐具合を心配してくれた澪だったけれど、それに割って入るように、説明を買って出てくれたのは先輩。
「……あ~、その辺は……あんま心配は要らんのだわ。
「なんかよ? 詳しくは知らんのだけど……
「中華料理の総本山的な? 国賓を招いたりして晩餐会なんかを開く、釣魚台とかってのが……あるそうなんだけどよ?
「そんな所で昔、働いてたって連中も……うちには何人も居るんだけどさ。
「日本でふつーに働く方が金になるらしくて? 人件費の方は、そーでも……ないっぽい。
「おまけに日本の高級店みたいな……ほれ、一時期あったじゃねぇか――水一杯800円って。
「その類の……訳の分からん値段設定は、うちの親父も厨房の連中も……中華包丁、握り締めて殺気立って毛嫌いする様な奴らなもんだからさ?
「……毎日毎日、安ッい値段で市場で仕入れてきた食材使って……アホか? って量の料理を客に出すのをポリシーにしてやがる。
「裏メニューとか魚肉ソーセージと、ネギと卵だけの……めし3合も使うチャーハンだぞ? お値段390円の。魚肉ソーセージだぞ魚肉ソーセージ! 街中華で使う食材か? ってんだ。……おまけに、ワカメとゴマときくらげのスープ付き。
「一体、どんな客層をターゲットにしてんだ? バカじゃねぇか? って話だろ? 店の経営も、ちったぁ考えろって感じだわ……マぁジでアホ。
「で、ちなみにだけどな――このチャイナ服はな? あたし用に作られた奴以外のお仕着せは……大して高いもんじゃないし、むしろ これは安い……あ~、なんか煙草吸いたくなってきたわ」
お猪口を思わせる小さな茶碗に、細長い湯呑の様な――茶器をひっくり返して被せて、提供される……変わった作法の中国茶を口に運ぶ先輩の、ぼやき節を耳に、暫しの食休み。
「――この茶っ葉まで……バカみてぇに高ぇの使ってやがるな……後で〆てやらにゃあ……オヤジどもめ……」
「確かに……先輩の旗包……ネットで……たまに目にする輸入物のプレタポルテなんかと違って……裁断も縫製も、刺繍も細かいところまで、しっかりして……貫頭衣みたいな――すとん、てろん……とした、身体のラインに合ってないものとは、全然……違います……よね。ウェスト周りの絞られ方とかも、全然違う――」
柊先輩をオドオドと――けれども その物珍しいチャイナドレスの実物を、興味深げに横目で見ていた一ノ瀬さんが、抑えきれなかったのか……たどたどしい賛辞を送る。
「んん? おお……流石に目が利くんだな。そうだぜぇ? あたしが着てんのは、うちの料理人の一人の奥さんに見立てて貰った奴でよ? 3~4回は海を隔てて、やり取りして――香港で仕立てて貰った何着かの内の一着なんだわ。15~20万くらいするらしいな。円が高かったり安かったり波があるから……正確な値段は分からねーけど。まぁ、仕事着ってことで、経費で落とさせたんだよ……ひひひっ」
御自慢の――文字通りの錦衣の評判も良かったことに気を良くしたのか、白い歯をみせる先輩。
その笑いに緊張を解かれたのか……一ノ瀬さんも、小さく笑った。
「今日は、美容院で髪も切って貰えて、美味しい晩御飯も食べれて すっごく良い日♪」
いつもブクマ有難うございます。
ちんたら展開で申し訳ありませんが……
この一ノ瀬さんと、柊先輩さんは
地味に必要な存在なもので
わたし自身はわりとバサバサ
カットしまくっているつもりでは
あるのですけれど……
なんか、すいません(汁)
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