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処女搾乳  作者: ……くくく、えっ?
三章:モラトリアム

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紙一重って、俺の事か?

「喜びも一入(ひとしお)って奴だ。家庭科のテストの件をいつまでも、ぶつくさぶつくさ……あてつけがましく繰り返す、お前らを黙らすために――有名店の中華を振る舞うくらい、気にもならないくらいにな」


 上機嫌な空気を振り撒いて、少し冷めたジャスミン茶に手を伸ばすと、三人が思い出したかの様に、顔色を曇らせる。


「……ねぇ、蔵人……これ実はさぁ、本気で……聞くか聞くまいか悩んでたんだけどさ……」


「うん?」


「あの殺人的な不味さの……白ごはん。素材のポテンシャルのみを最大限に引き出した、激マズのあれ……アレは、一体どういう意図で作ったん? ごはんなんて、スイッチひとつで普通に美味しく炊けるものでしょ?」 


「……わたしが、ちっちゃい頃にアレ食べたとしたら……きっと、ひきつけか……なにかを起こして――今頃、わたし……ごはん絶許党に入党して、パンしか食わない子になってた気がするわ」


 澪の言葉に次いで、今にも口元を抑えそうな表情で――先日のテストでの試食の感想を口にするイオナと、引き攣った笑いをぎこちなく浮かべる一ノ瀬さん。


 済んだ事をネチネチ ネチネチと繰り返す、澪とイオナの口を黙らせるには――総括と言うべきものが必要であるらしい。


「仕方が無いんだ……俺は、食事のために料理するなんて時間があるなら、もっと他の事に時間を使いたい性質なんだ。そんな訳で……だな。あの時は、炊飯器のモードは早炊きにして……モードは少し硬めを選択して――」


「さらに水の量を減らせば、早く炊きあがって……あの、先生さえ無為と認めるテストを――早々に切り上げることができる……って、思ったんだよ……ちょっとそっと不味くても、我慢して飲み込んじまえば、それで問題も片付くだろうと思ってさ」


 朱に塗られた丸いテーブルに肘をついて、憂鬱そうに説明する俺に


 ――皆は無言。


「紙一重って……奴か」



 * * *



 イオナの物言いに食ってかかろうかとしたところで――先日、俺を追って……校内をストリーキングしてみせた3年生の女子、柊先輩が顔を見せた。


「盛り上がってんかぁ? ……んだよ。冷えッ冷えじゃねぇか。お通夜か」


 チャイナドレスを纏ってワゴンを押してきた先輩が、校内での印象とは、まるで違う雰囲気を振り撒いているところで、遅れて店にやってきた千影が、息を切らして部屋に飛び込んで来た。


「面子も揃ったかぁ~? んじゃボチボチ始めっかぁ」


 この中学という環境にあっては……女子が男子の身長を上回るなんてことも、珍しい事では無いにしても


 それでも俺らと比べてみれば、大柄と云わざるを得ない170センチ台はありそうな背丈と、イオナより、なお短くカットされて――明らかに校則違反の域にまで達しているブリーチの利いた……なんて言うヘアスタイルなのかは……分からないけれども。


 パンクとまで言わなくとも、反骨を感じさせる精悍さを際立つ髪型に、やや地黒な肌――白目過多で射るような目つきからくる、威圧感からか


 ――誤解も、わだかまりも解けたとは言え


 ゴミ捨て場での一件で、芽生えた苦手意識でもあるのか……微かに緊張した空気を浮かべる一ノ瀬さん。


 瞬時に猫を被る他校の生徒イオナと、コミュ力強者の澪を交えた5人での


 手打ち式めいた夕食会が、賑々しく執り行われる事になった。



 * * *



 菊の花が浮かべられたウーロン茶のフィンガー・ボウルで指を洗い洗い、手の付けようにも戸惑う俺たちの様子を察するや


 先輩は蟹の殻を割って席をまわりつつ、俺たちの食事の面倒を見てくれた。


「上海蟹の旬って奴は、九圓十尖とか言うらしくな? あっちゃ太陰暦だから、まぁ……ちぃっと寒くなり始めるくらいか? その旧暦で9月頃は雌、10月の頃は雄が美味いんだわ。圓だの尖だのってのは、蟹の……このふんどしの形のこったな。そんなもんで、この時期は季節外れなもんだからよ? あたしんちじゃ、邪道っちゃあ邪道なんだけど、旬の……四万十川だっけなぁ? その辺りで取れる国産のモクズガニに老酒(ラオチュウ)をぶっかけて蒸した物を出すんだわ……まぁ食ってみろよ。思いっきり! ……下品に食うのが作法だと思え。音を立てて身とエキスを啜って、少ない身を殻ごと口に頬張って、殻だけ小皿に吐き出せ。スイカの種だったり、サトウキビ齧って繊維だけ吐き出す要領だ。いや、もう美味いから♪ 能書き聞くよか、手と口を動かせって♫」


 皆の蟹の殻を割り終えた先輩の、鍋奉行ならぬ蟹奉行的な法度を賜って


 慣れない料理に顔を見合わせながら、最初に手を伸ばしたのは澪だった。


「――んん?! う、美味ッ! し、四万十川? 川? 川の蟹って初めて食べたけど……な、なにコレッ!? ハサミに ばっちぃ毛が生えてるし、泥臭そうなイメージだったけど全然、臭くない?!」


 幼馴染の好反応に、安心したのか続いて手を出したのはイオナ。


「そ、それじゃ……わたしも戴きます……、――、……う! 美味っ! な、なんぞ! これっ!! や、ヤバイ! マジでヤバイッ!!」


 先まで被っていた猫の皮は、どこに行ったのやら……バリバリ ボリボリと、無心に蟹を貪り始めるふたりを前にして――


 そこまで自身を曝け出すことはできないのか一ノ瀬さんは、困った顔。

いつもブクマ有難うございます。


宜しければ、お読み下さった御感想や「いいね」


その他ブックマークや、このあとがきの下の方に

あります☆でのポイント


それらで御評価等戴けますと、それをもとに今後の

参考やモチベーションに変えさせて戴きますので


お手数では御座いますが、何卒宜しく

お願い申し上げます。

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