うばー
「ええ~ッ! なぁんでぇ! 流れ的に『これから一緒に綺麗な、おベベ道楽に励みましょうね♡』 ……って、ところじゃないのおぉぉぉッ?! いや正直、着て貰いたいのは千影ママの方だったりするんだけどぉ!」
詳しくはないけれども、なんだかデスメタルめいたグロウルの効いた声で、既に化けの皮を被ることを諦めたらしいイオナが食い下がる。
「……、――、……ごめんなさい」
それに対して忸怩たる……と言った、やるせなさを浮かべて
イオナとの、今後の『おべべ道楽』とやらについての皮算用について――、一ノ瀬さんが首を縦に振ることは無かった。
「……う、うん。急すぎるよね、一ノ瀬さんにも ご都合ってものがあるだろうし……し、仕方ない仕方ない……ざ、残念だったね? イオナちゃん」
そして何故か、ふたりのやりとりに対して思うところでもあるのか……突然、ぎこちなく、目を泳がせる千影の様子に、不自然なものを覚えはしたけれども。
「う~ん……わっかんないなぁ……一ノ瀬さん」
イオナと一ノ瀬さんとのやり取りに、俺と同じく黙って成り行きを見守っていた――
幼稚園の頃には、この傍迷惑な奴との付き合いが始まっていた……らしい。
澪が声をあげた。
* * *
「なんかさ? さっきまでの一ノ瀬さんの空気……的な? 感じからすると、このバカの話じゃないけど『お友達になりましょ~♬ そんでもって一緒に、ちくちくちくちく……お裁縫の世界にうぇるかぁむ♪』ってな感じだったじゃん? なんでいきなり そこで『やっぱり、ごめんなさい』ってなんの? こいつの事は、心……底ッ! どうでも良いし――」
「ねぇ……澪、あんた……わたしのこと嫌いだったん?」
すかさず入れられたイオナからの問いを、澪はスルー。
「一応、言わせて貰うとだけど……今、この場にまともな奴は……残念なことに千影しかいないんだけど」
「……おい、ちょっと待て。俺まで、こんな奴と十把一絡げとか承服しかねるぞ」
たまらず上げた俺からの声まで澪の奴は、これまたスルー。
「――いやまぁ……合う合わないはあるし? こんな奴らと一緒に群れられるか♪ って言うんなら、しゃーなしだけど……わりと こいつ等って、ちょっと見ないレベルの珍獣揃ってるから、つるんでて退屈はしないんじゃないんかなぁ~? って思うんよ」
「……珍獣」
「キ印入ってる蔵人と……同じレベル」
澪の言葉にモノ申したいことは、それはもう……屋上の縁からグラウンドに向けて、大声で取り留めのない主張を行うかみたいに、ありはしたけれども。
一ノ瀬さんとイオナとのやり取りを傍らで見聞きして――なにやらモヤっとした事柄に、口を挟みたくなったのか。
胸に覚えたものの、正体を見定めようとするかのように
噛んで含めるみたいに、澪が問いかける。
「あ! あの……ご、ごめんな……さい。そういう事ではなくて……」
澪からの言葉に泡を食って狼狽えてみせた後で――、一ノ瀬さんは
イオナの奴を含めた、俺たちとの関わりを持つことに難色を示した その理由に始まり
今、自身が置かれている境遇についてを……ぽつりぽつりと語って聞かせてくれた。
* * *
「……お、お……おおぉぉう……な、なんとゆー」
彼女が話してくれた内容に……俺を除く
その場の3人が抱いた感想は――理解不能な事に
イオナが吐き出した その言葉に見事に合致しているかの様だった。
「ごめんなさい」
自身の事情に皆が失望したとでも思ったのか、一ノ瀬さんが俯く。
「一ノ瀬さんが気にすることじゃあない。ご家庭の……その……借金のために、バイトを始めなくてはならないなんて言うなら――モラトリアム以外のなにものでもない学校生活なんかで、油を売って遊び惚けてる俺らよりも……よっぽど立派じゃないか。わりの良いバイトを紹介してくれたなんて……その叔父さんのためにも頑張らないとだな」
「……うん、ありがとう。橘くん」
俺からの言葉に、真昼の太陽も眩みそうな――清らかな笑顔を浮かべてみせる一ノ瀬さん。
経営が傾いた ご実家の生計を助けるため、身を粉にして働くつもりだという
彼女へ、手向けとして送った言葉だった訳……だったが。
「……ねぇ? 蔵人……一ノ瀬さん……あんたら それ……マジで言ってんの?」
けれども、その一切の他意も無ければ、純粋に彼女への激励のために送った言葉と、その返された反応に――千影を筆頭に……澪もイオナも。
目の前でのやりとりの様子を、信じられないモノを見るかのような目。
「ど……どうした?」
* * *
「え?! え!? ……そ、そんな!
「で、デリバリー・ヘルスって
「……デイケア・サービスみたいな感じで
「ウバー……なんとか……みたいに――
「お年寄りや、お身体の不自由な方の
「お家をまわって……
「お弁当を届けたり、お料理とかをして差し上げる感じの……お仕事じゃ……ないん……です……か」
顔を見合わせた澪とイオナからの丁寧に、丁寧を重ねた……詳細な説明に、声を震わせて慌てふためく一ノ瀬さん。
いつもブクマ有難うございます。
コロナで臥せっている間にも、頂戴しました
ポイント本当に有難い限りで
m(__)m
活動報告の方にも書かせていただきましたが
現状まだ、完治したとは言えない状況ですので
更新サイクルが乱れるかも知れません。
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