表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
処女搾乳  作者: ……くくく、えっ?
二章:アウトサイダー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/216

ねてはゆめ、おきてはうつつ まぼろしの

「飴持ってないか? 2つ3つ貰えると助かるんだけど」


「どーしたの蔵人? うん、持ってる持ってる。ちょっと待っとき♪」


 ――1時間目の授業が始まる前――


 俺は澪に、授業もこれからというのに飴なんてものを無心していた。


「珍しいじゃん。優等生なんでしょ?」


 一応、校内での菓子類は禁止されている建前。


 澪はスカートのポケットから、キューブ状のキャンディーが2つ個包装された物を取り出すと、それを大阪のおばちゃんか、……はたまた、人目を忍んで薬物を手渡すドラッグ・ディーラーさながらの剣呑さを無駄に漂わせて、それを俺にくれた。


「……別に、俺が舐めたい訳じゃないんだけど、まぁ」


 贔屓目に見ても目立つ澪と、地味な俺とのやりとりを遠巻きに訝しむように


 けれどもなんだか、浮かれた姦しさたっぷりと言った感じで話し合う、彼女の級友たちから感じる……居心地の悪さ。


「んん? 千影がノドでも痛めてんの? って今日休みだったか」


「うん……まぁ、飴が要る理由は、もっと瑣末な事でさ」


 そこから始まった、飴の代金代わりと云わんばかりの――澪の事情聴取の巧みさに


 俺は成す術も無く、阿呆の如く


 今朝の出来事を素直に白状してしまっていた。


 話終えて視線を上げて――澪の顔を見てみれば……


 そこにあったのは般若の形相。


「蔵人ォ!?」


 澪の張り上げた声にクラスの皆が、驚いたかの様子で、こちらを見る。


「……ちょっと、ツラぁ貸しなさい」


「ハ……イ」


 

 * * *



「あんたね! なんで……そこまで千影が、頑張って見せたのに……どーして! さっ! と手ぇ出して! ズバっ! と、チューのひとつもかましてみせることができないの! その上、言うに事欠いて『幼馴染としての関係にヒビが入るのは困る』 ……あ゛?」


 仲の良いらしい級友らに口裏合わせを頼んで、


 俺を校舎裏に引っ張り出した澪の御立腹さ加減は凄まじいもので……俺には、その捲し立てられる言葉の嵐に、返す言葉も見つけられないでいた。


「し、仕方がないだろう。……いや、お前が何に怒ってくれているのかは……まぁ、分からんでも無い気もするし――想像つかないでも……ないけど。苦手なんだよ、そう言うの……経験値無いんだって」


「んんなもん……私にも千影にだって無いわッ! 朴念仁の無欲キャラがもて囃される現代と思うなよと……声高に申し上げる! 座禅組んで木魚ポクポク叩いてる お坊さんの価値観なんて、ニッチも良いところだっつーの! どーして……あんたともあろう奴が、腹のひとつも決められない!」


 怒り狂う彼女の剣幕が鳴りを潜めた頃には……とうの昔に授業は始まって、既に半ば頃を回っていた。


 重ね重ねの澪からのお叱りに、俯いてしまいそうになっていると、


 ――彼女は。


 ふぅふぅ……ぜぇぜぇ……と、乱れた息を整えて


「……あんた、今日はメッ……チャ! 千影の御機嫌を取れ。私は、イオナのバカを〆に行く」


 気が良いんだか、物騒なんだか。


 判断付かない事を口にして――足音も猛々しく、校舎へと戻って行った。



 * * *



(……とは言われても。朝のアレは本当に……俺が悪いのか)


 澪の奴の剣幕のタダならなさを、思えば――俺の過失は多分にあるのだろう。


 現に俺は、『キモい』と難じられても仕方のない……芽生えた下心の命じるままに


 千影の胸に手を伸ばそうとしてしまっていた訳だ。


 そこには弁明の余地は無いし、その気も無い。


 けれども、だからと言って――


 澪のいう通り……怯えた様に目を瞑る千影に迫って、


 流れに無責任に身を任せて、思った通りの事を成せば良かったのに! と言う、その……澪の論調も


 少々……冷静になって考え直してみれば、理解し難いものがある。


 あの状況下で、無体を押し通そうとしていた俺を――千影が許容してくれるか……そうでないかなんて……分かるハズもないじゃないか。


 あそこで踏み留まるきっかけを与えてくれた、イオナに……深甚な感謝の念すら覚える。


 少なくとも俺と千影の関係に、破局する展開が訪れる事を避けさせてくれた上に――互いに考える時間までもたらしてくれた訳だ。


 けれども、きっとこんな……嵐が過ぎ去ったのを見計らって


 心の中で舌を出すかの考えを仮にもし、澪が知ったなら――きっとまた、烈火の如く怒り狂ってみせてくれるに違いない。 


「……はぁ……分からん。奇妙千万……奇天烈すぎる」


「――どうかしたんか? 橘くん」


 コンクリートの非常階段の影に隠れるようにして、この手の事に関しては――てんで役立たずな頭をフル回転させながら、物思いに耽る俺に


 授業から抜け出して油を売っていた3年グループが、間の抜けた声。


「……いいから。お前たちは、渡した薬舐めてろ。それで……あの薬の影響は、完全に無くなるから」


「――本当に……本当に……ありがとう。橘くん。これから……なんかあった時には……なんでも言ってくれ。大した役になんて……立てないかも知れないけど……俺たち……橘くんのためなら……なんだって協力するからさ」


 澪から調達した飴を砕いた、見た目にも綺麗なキャンディーの破片。

いつもブクマ有難うございます。


もし宜しければ お読み下さった御感想や


その他にもブックマークや、このあとがきの

下の方にあります☆でのポイントに代えて、


御評価戴けますと、それを元に今後の参考や

モチベーションに変えさせて戴きますので、


お手数では御座いますが、何卒宜しく

お願い申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ