与り知らぬけども、腑には落ちる……その悪名
五月も下旬に差し掛かり、中学生と言う身分の俺たちには……煩わしいばかりの中間テストを迎える時季に差し掛かっていた。
テストを前にしたからと言って――いつもであれば、俺に限って言うならば……。
特に事前に勉強に追われたりなどと言った、そういう事とは無縁に、普段通りの生活を送るだけで済んだ訳ではある……けれども。
新学期早々、学校をサボって寝込んでしまった千影に……お世辞にも普段から あまり模範生とは言い難かった澪。
このふたりのテストの出来には、少々……いや、かなり。
危ぶまれるものもあった事から――お勉強会なんて名目の……実効も甚だ怪しい催し物が我が家にて、開催される運びとなっていた。
部屋に運び込んだロー・テーブルを囲み、うんうんと頭を抱えて唸る千影と澪。
そして意外にも……と言うか、ここまでくると、色々と……素直に納得せざるを得ない訳だったけども――成績はいつも上位をキープし続ける優等生なのだと言うイオナ。
彼女は愛機のタブレットをカバンから引っ張り出すと、
制服が皺になるのも気にもせずに、我が物顔でベッドで寝っ転がって
本日の集まりの趣旨を一顧だにする様子も無く、鼻歌交じりにスタイラスを走らせ出した。
そんな女子たちを部屋に残して台所で一人、組み立てた精製装置の具合を俺が確認していたところ
苦虫を嚙み潰した表情に、憂鬱を綯い交ぜにしたような顔で――澪が問題集から逃げだしてきた。テーブルの椅子を引いて、座り込むなり大きなため息を吐く彼女。
「……もーダメ。優等生じゃあるまいし……なんで、こんなに勉強しなくちゃいけないんだっての」
「中学生だからだろ?」
「真面目か。いたいけな私たちに情け容赦無く、爆弾放りつけた〝港湾地区のボンバーマン〟とか呼ばれてる御仁のお言葉とは思えませんわ」
「おい、俺……そんな風に噂になってんのか?」
「おー……なってるなってる。この間の集会に集まってた、人間の間でだけどねー」
頭に血が昇っていたからとは言え――少々、はしゃぎ過ぎてしまったらしい。
しばらくは……ほとぼりが冷めるまで、大人しくしているべきだったの……かも知れない。
「……失敗した」
先日、調子に乗って学校の屋上で感電グローブを使用したことが酷く悔やまれた。
あいつらが吹聴して回らない様に、改めて釘を差すなりするべきかも知れない。
「失敗した? なにが?」
自身の軽はずみな行動に眉間に皺を寄せていた俺に
テーブルに額をくっつけて突っ伏していた澪が、こちらの作業についての話とでも思ったのか、器材に目を向けながら そんな風に聞いてきた。
「……作業は失敗してない。至って順調だよ。失敗したって言うのは……まぁ、こちらの話だ」
「……ふ~ん。ま、イイけど。ところで今度は、また……なに作ってんの? 私らの勉強見てくれるって合間合間に……ちょこちょこ ちょこちょこ降りて来ては、作業してたみたいだけど」
「定期的に知り合い達にネットで落札を頼んでた喘息の薬が、まとまった量になってきたからトリメチレントリニトロアミン……長いか、……RDXの精製を行っている」
「と、とり? あーるでぃー……なに? 飛んじゃう系の……ヤバイ薬? スターウォーズ??」
「――違う」
勉強はできない澪ではあったけれども、彼女は決して頭が悪い訳では無い。
むしろ人と人とのコミュニケーションなどを成立させるための その手管や頭の回転の様なものは……今、この家に集まった誰よりも巧みなものを持つ女子だった。
そんな彼女の能力に対して――この短い期間の間に、好意めいたモノを覚えていた俺は、最大限の敬意の元……彼女の機嫌を如何に損ねないよう腐心して、言葉を選んで
「うーん……軍用の……高性能火薬って言って通じるか?」
表情を窺い窺い、彼女らを放って――自身が、かまけていた作業についてを……話して聞かせた。
* * *
「ま、まだ爆弾が要るの……あんた」
呆れたかの口調ではあったけれども……あの夜。
自身の頭上から降り注いできた陶片の恐怖が甦るのか――寒さなど感じない季節となったにも関わらず、澪は両肩を掻き抱くみたいにして心なしか……顔を青褪めさせている様に見えた。
「シクロトリメチレントリニトロアミンとか、ヘキソーゲン……って別の名もあったりするんだけど――
「第二次世界大戦の後に登場したプラスチック爆薬の主原料や、単独では……銃の雷管の原料に使われたり……変わった用いられ方としては、有毒ではあるけど、味は甘いって事もあって……猫いらずに使われたりもした化学物質でな?
「大体、8,750 m/sぐらいの速度で爆発する。
「現代ではC-4プラスチック爆薬というものが登場した事もあって、プラスチック爆薬として用いられるのは……下火になってきたのか? すまん。その辺の事情には少々自信がないんだけど……。
「お前が今、目にしている通りの規模の――こじんまりとした設備と器材で作れるものでだな。
「……作るのも そう難しくない物という事もあって、9・11以降のテロ組織なんかでは〝サタンの母〟とかって呼ばれた過酸化アセトンの他、これを使った自爆ベストなんて物を作って使用していたらしい」
ここに登場します……RDⅩを
喘息の薬から製造する方法。
それと次話に登場する代物。
この ふたつにつきましては、その製造
過程に関する描写が全くできません(汁)
以前までは、ネットで探せばページも
簡単に見つかったんですが……
昨今のご時世によるものか、はたまた
管理者さんが飽きたのか。
どちらも、ページが削除されているらしく
発見できません。
このフォーカスをぼかさずにはいられない
苦しい事情に関しましては、
酌んで戴けますと……ハイ。
m(;__)m
そんな、ていたらくでは御座いますが。
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