そのJCも……非凡
「それで関連動画を漁ったらしいんだけど……いや、感心するほど、絵だの芸術だのに関しては、真摯なのな」
「まあ、なんの取り柄も無い私からすれば……あんたたちの そう言う所は、ホント羨ましいよね」
「――で、触発されたらしくてだ。俺に必要な工具を用意できるかどうかを訊ねてきてさ? ビュラン……って言うらしいんだけど、硬い刃のついた極小のノミみたいな器具一式を、つてに聞いて調達してやったらだな」
「……ああ、なったと」
「そう言う感じだ。エングレービングって言うらしい。先日のデコレーション・ケーキの表面に、それを施し始めたと言う訳だ」
「え、良いの?」
「法的にか? ……法的には、おススメできないから一応やめておけとは、言ったぞ? 聞き分けてはくれなかったけどな」
「蔵人的には?」
「俺としては、既にデータも取ったし……粗方、構造の理解も済んだから別に構わなかったんだけれど――うん、でも。正直なところイオナの この手のセンスについて、ナメていたと言わざるを得ない」
俺の話を聞いた澪が、手にしたジュースに口を運んで、
退屈しのぎと言った風で、イオナの背後から作業を覗き込みに向かった。
ふたりの後ろから、俺もそっと……拝見させて戴いてみれば――
ライオンと、葡萄の蔦をメインにあしらう意匠が取り入れられた……小鳥が遊び、一角獣が嘶く、イオナから遊離した幻想世界の風景が、見事なエングレイブを依り代に現出し――溜息が出るような2丁のブローニングが、鉄の切り屑に塗れながらも鈍い光を放って、産声を上げようとしていた。
* * *
いつもの放課後。千影と澪と一緒に学校を出ようとしたところ、イオナが校門を背に俺たちを待っていた。
「適当なところで、待っていてくれたら良かったんだ」
学ランにセーラーと言う、古式ゆかしい我が校の制服とは異なる――紺の生地で仕立てられたジャンパー・スカートと、白いブラウスの組み合わせの制服が、下校途中の
うちの生徒連中の流れの中で、一際に視線を集めていた。
「いやね? うん、あのさ蔵人。わたしもね? それなり~に、ぼっち力には自信がある訳さ。そんな私が、一人でファミレスなり、マックなり、スタバなりで待っててみ? 想像して想像して?」
「……いや、すまん。まるで……聞かれている事の内容が、理解出来んのだが」
言われた通りに想像して、首を捻ってみた所で……まるで、解答には手が届かず。早々に音を上げる俺。
「ま、痛ましいって事な訳よ。孤独死しちゃうから。行こ行こ」
取るに足らないと云わんばかりの気安さで、引率するみたいにイオナが先頭を歩き出す。
手近なファミレスに飛び込んで、一通りの注文を出し終えた後で――
「これはリスクヘッジの一環……と、考えて受け取って欲しい」
俺は3人に、携えてきた紙袋の中から、更に小さな紙袋を取り出すと、それぞれの前に置いて渡した。
「なに! なに! プレゼント?! ……あ、でも御免ねぇ。わたし……ザラメくんって言う、超ハンサムでぷりちーな旦那様が居るし……フラグを立てようとされても困るぅ」
「くーちゃん、どうしたの?」
いつもの戯言を口にして くねくねと、愛兎との――のろけ話を始めるイオナと、いつも通りな様子の千影。
「ま、開けてみれば 分かるっしょ♪」
考えるのも そこそこ。一言、お義理の断りを口にすると――バリバリと包装を破って中身を検める澪。
「……スマート・ウォッチ?」
* * *
箱から出した中身を手首に巻いて、既に設定を済ませておいたディスプレイを――3人は眺めていた。
「……うん、先日のデコレーションケーキの件に対する保険だと思って、できる限り身に着ける様にして欲しい」
俺が口にした語に、若干の緊張を皆は浮かび上がらせる。
「今日まで何事も無かった事を考えると……取り越し苦労に終わる事も考えられる訳だけど。それらは、装着した お前たちの異常な心拍や、バイタルを検知すると――同期した この4人のスマート・ウォッチに通知を送る設定になっている。その他にもGPS座標もモニターできる様にしておいた」
「……ぅうおおぉ……く、蔵人……蔵人くん。ちょ、なんか超ヤラシーんですけど。わたしのハァハァしてる時間を計ろうってか?!」
「話の腰を折るなイオナ。これは俺たちの……安全のための備えみたいなもんだ。そんな訳で、できる限り、常時身に着けて居られる様、学校での使用も可能な落ち着いたデザインの――普段使い用の物と、ショップの店員さんに聞いて選んで貰った、オフでの使用を考えての2種類を用意しておいた。オフ仕様の品に関しては、それぞれデザインは違う物にしておいたから……好みに合うものを選んで、トレードするなりしてくれ。とりあえず、今からバイタルの設定をしようか」
俺が説明している間、千影は俺の手首に視線を注いでいた。
「なるほど……くーちゃん。私たちにこれ……2つも用意してくれたのは――その手首に巻いてるのが、よっぽど高かったからなんだね?」
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