誰が、サイコパスだ
「直球じゃなくてさ……『わぁ♪ 意外~♫ 至って普通のお部屋じゃあ~ん♡』みたいなのを想像していた訳よ。ある意味……予想は、しっかりと裏切られたけど。なんだろう……これ。蔵人の部屋見てみたいって、押し切っといて本当に……なんだけど」
横に置かれた急造のガンラックに並べて立てられた、最早……正式な商品名といった向きすらもある、ぶちぶちの梱包材に収められた24丁のガウスライフルや、加工機械たちから
そそっと身を離す様にして――澪がグロスに艶めく口元をグラスに運ぶ。
「最初に言っただろう……俺の部屋は、団欒の場には全然、向いてないって」
キンッ……キンッ……ココッ、キン……、――カカカッ! キン
「千影は? 来ないの?」
「そっとしておいて……やってくれ」
俺の言葉に澪が、表情を曇らせる。
「やっぱ……千影にはハードル高すぎだったって……私でも、ちょっと引くもん」
「それは……まぁ、そうなのかも知れんが。俺は既にイオナには……沢山の借りもあってだな。強くも出られない事情もあるんだ。あいつの引っ込み思案っぷりを考えれば――多少は、これで……」
キキンッ! キ……ン キーーーッ キッ キッ
「いや、度胸だのなんだのつく前に悪化するっしょ? 黒歴史確定だよ? ふつー」
「やっぱ、そうか……そうだよな。それは困った……どうしよう」
とは言え、実のところ そんなことは――最初から分かりきっていた事。
なんの事は無い。俺は、自身の装置の完成度を高めるために悪魔と契約を交わして千影を売った訳だ。
今更、悔いてみた所で。
この取引を経て、俺のガウスライフルは――伝え聞くところの、現在カービン化著しい、世界の自動小銃を彷彿とさせるサイズにまで小型化に成功し、その重量に至っては2.6キロを切るという軽量化に漕ぎつける快挙を果たしていた。
おまけにイオナが主催するサークルには、チャンネルを御覧になられた……大きなお兄さん方から『ぼいんライダーさんへ』と言う名目で――ライダース・グッズに始まり、種々アウトウェアに加えて水着、その他にもカスタム・パーツやら、新車のリッター・マシンまで送り届けられて来ると言う役得に与って……。
個人の特定に至ってしまう面倒を考えれば、これに……そのまま千影を乗せる訳にも行かなければ――名義をどうするかなど、考える事は色々あったけれども。
サーキットで乗る分には、特に問題は何もない事を考えれば、これらは有意義な取引だった事は、疑いようも無い。
――無いのだ。
「千影の様子見に行った方が良くない? ヤバい気がするんだけど」
ここ最近の付き合いで知った、時折、澪が発揮してみせる、この手の――面倒見の良さには、いつも感謝の念めいたものも覚えはしたけれども
俺は、その申し出を静かに押し留めた。
「他にも……あるんだ。むしろ こちらの方が致命傷だったと言っても良い」
「……まさか、学校にバレ――」
キン、キン、カカカッ カン!
不穏の空気から、最悪のイメージに至ったらしい澪が、顔から血の気を失わせる。
「いや学校には……バレて無い。バレては……いないんだ。不思議な程に――ひょっとすると年の離れた兄弟が居る少数の生徒なんかには、気付かれてる可能性は……無きにしも非ずなんだけれど」
「なによ、それ」
* * *
「……、――、……おおぅ。それは、なんとも」
俺の説明に澪が絶句する。
「そんな訳でだな、出張先で動画を観た千影の母親からだな……いや、ちょっと待ってくれ。もういっそ直接観て貰った方が説明が早い」
キーッ キーッ カチッ、――ずおおおおぉぉおおぉッ
取り出したスマホで、その箇所を開くと――澪は、こちらに顔を寄せるみたいにして画面を覗き込む。
「……ここだ」
イオナのチャンネルで流れる配信のコメント欄を指差してみせる。
『……あんた、乳放り出して何してるの? 着る服が無いなら、腹踊りしてないで……これで服でも買って来なさい――母より。スペインは、バスク地方から可哀想な娘へ』
なんとも痛まし過ぎるコメントと共に投げられた――赤スパが。
事態を理解した澪が、スマホから顔を離して――ぺたんと床に座り込むと、天井に向けた目を泳がせていた。
「これはぁ……無理だ。手の施しよう無いんじゃない……かな。これで復活できたら、千影……まぢモンのメンタルお化けだわ」
チンッ チンッ……チンッ
「えらい事になっちまった訳だ。本当に……どうしよう。くそッ! 全く思いつかん! これが電気回路か何かなら……短絡箇所を見つけたり、接触不良を直したりで――すぐに修理できるのに」
「……蔵人、あんた。今の台詞 ちょっと……まぢモンのサイコパスっぽかったよ?」
「失敬な」
* * *
「そんでさ、蔵人……あいつは一体、なにやってる訳?」
絨毯に腰を降ろして向かい合う俺と澪には構いもせずに、作業机に向かって目を凝らし、黙々と手元を動かすイオナに怪訝の声。
「……うん。何日か前に、電話で話をしたんだけどさ――」
「ほほう?」
「……なんだよ。なんか……まとまった金が入る目途が立ったから……とかでだな。前々から欲しかったらしいアルブレヒト・デューラーやら、ギュスターヴ・ドレやらの版画の本を買い込んで読み耽ったとかで――お陰で、興味が湧いたらしくて……だ」
いつもブクマ有難うございます。
宜しければ、お読み下さった御感想や「いいね」
その他ブックマークや、このあとがきの下の方に
あります☆でのポイント
それらで御評価等戴けますと、それをもとに今後の
参考やモチベーションに変えさせて戴きますので
お手数では御座いますが、何卒宜しく
お願い申し上げます。




