誕生! ぼいんライダー
付き合い長い幼馴染ではあるけれども――千影が俺の能力に対して、どれほどの信頼を寄せてくれているのかについては……
人間の感情の襞と言うものを読み取る事に関して、甚だ無能である事を自覚する俺には、正確には計りかねる事ではあったけれども。
それは置くとしても、千影は俺が口にした『俺では力に、なってやれない』
この語を耳にした途端に、事態の深刻さについてを察してみせたかの……様だった。
「イオナちゃ……ん。イジワルなこと……言っちゃって御免ね」
「うぅん。良いの……優しい千影に つけ込んで……嫌な事一杯してきたんだから。気に――」
「気にするよ! さっきのは忘れて! なにを困ってるの?! イオナちゃん! 何でも言って」
「千影……無理してくれなくて良いから。こっちの方こそ忘れて……よよよよよっ」
小芝居を通り越して、くっさいくっさい三文芝居が始まると――同時に
「あぁ……蔵人ぉ? 私、近くのコンビニで飲み物買って来るけど、なにか要る? あと、ついでにアンタらも要る?」
「じゃあ、100円のパックの奴で良いから緑茶……頼めるか?」
「あ、じゃあ……イチゴ牛乳……お願い……します」
「マヂ?! え~っとぉ、わたしは……350円のチョコレート・サンデーと、ダッツのラム・レーズン食べたい♡ あと、なんかキワキワな新商品のジュースがあったらそれで! 無かったら……う~ん。モンエナと、ジャンボ・フランクでいいや♪」
そそくさ……と言った具合で、その場を退散する澪。
「「…………」」
「よよ……よ?」
* * *
「ハイっ! 千影! キュー・シート通りだから、いくよ! 腹括って!」
「イオナちゃ!? イオナちゃ?! これ無理ッ! 無理だから! 助けてくーちゃん! くーちゃあぁん!!」
「……すまん千影。俺はイオナに……いくつもの借りがある。俺からも頼むから、手を貸してやってくれ。と言うか……泣き叫ぶ様な事か? それが?」
「泣き叫ぶ様な事だよ! こんなの恥ずかし過ぎて死んじゃうよ!!」
「幼馴染だからって言うのは……流石に理解はできる……できるんだ。でも、お前……俺と一昨年まで一緒に風呂にだって入ってたじゃないか」
「なんですとォッ?!」
俺と千影のやりとりに裏返った声をあげるイオナが――つてを頼って借りてきたと言うスタジオの中、運び込まれたヤマハが誇る名車、YZF-R1Mの傍ら
水着姿にスモークのフルフェイス・ヘルメットを被った千影が、インカムで今にも泣き出しそうな声を上げていた。
「ハイ! あと30秒で、はじめるよ!」
「くーちゃん! くーちゃん! くーちゃん!」
「千影! イオナが言った通り腹を括れ! その程度の事くらいしてやれないでどうする! あと、どうせ この配信はイオナのメンバーシップって奴限定だ。同級生なんかにカードを持ってる奴なんぞ おらん。つまりは、お前の周りの奴らに加入できる奴も居なければ、知られる心配も無い。安心しろッ」
「そうそう。澪みたいにブラック・カード持ってる奴なんて。滅多に居ないから! 安心汁!」
「……滅多にって……お前。俺の助け舟を台無しにするような事……言うなよ。好き好んで こいつに方便を弄してるとでも思ってんのか」
「方便って言った! 方便って言った! こんな布地の少ないビキニ着るなんて聞いてなかったよ?! 控室にはバニーガールの衣装まで吊るされてたんだよ!?」
「イオナがウサギ好きなんだから、そこは仕方が無いだろう……」
「そう言う問題じゃないよ!?」
「はい、いくよ! 3・2・1、きゅ♡」
イオナのキュー・サインと共に、ここしばらく練習させられてきたポージングの数々が……恐ろしいレベルのクオリティーの低さで、次々と再現され
ヘルメットの中で、とうとう嗚咽を始める千影。
「……う~ん」
この短い時間の収録のドタバタに紛れて、なにか……とんでもない単語を――千影からか、イオナからか。
聞いた様な気もしたけれど……。
まぁ、大したことじゃあ無かろう。
「はい! カットォオー! 千影! お疲れ様! 良かったよ! 流石は、わたしが見込んだママ!」
「ひっく……えっく、お……お疲れ……さま……でした……。ひっく……ままじゃ……ままじゃ……ないも……ん」
* * *
「いや~、千影ママのお陰でホント、すっごい再生回数だったわ。おっぺぇ大明神様の神通力……まぁぢで、スゴいっ! 半端ない!!」
自宅へと戻って、薄い本とやらについてを調べてみて同人誌と言う存在を――知った俺だった訳だが……。
イオナが自身の作品とのシナジーを期待し、防音とプライバシーの確保が容易な、実家稼業の特性を活用して開設していた動画チャンネルで、枠を取って新たに設けた――キワキワに過ぎる
千影のコーナーの反響は凄まじく――その勢いは、俺が いつも楽しみに開く〝腕が太い〟系の動画チャンネルにも迫る勢いで、
再生回数の急激な増加に伴い終始、上機嫌なイオナの一声から、俺たちを労う宴が――その日は我が家を会場にして催されようとしていた。
飲み物が注がれたグラスを手に、部屋を見回す澪が、居心地悪そうに口を開く。
「もっとさ……こういう、その……なんだ――」
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