湯けむりのJC三匹
「……あーハンデ埋めるのに無茶な突っ込みかけてるな。まぁ、仕方ない。バンクセンサー、ガリガリだろうし……こりゃ終わったら交換しないと。予備のも注文しといて良かった、良かった。久しぶりだからって、はしゃいじゃって……まぁ」
――ゴールデン・ウィーク――
このシーズンが穏やかな気候だったのは、今は昔。
連日の真夏日が繰り返される この時季に俺は――
先日の、尻すぼみな結果に終わった仲直り会を仕切り直す名目で、澪とイオナを誘い出し。たまの息抜きにと……計画してきたサーキットに千影を放して、その様を眺めていた。
俺と澪の会話に割って入る事も無く、なにかのスイッチでも入ったかの様に……手にしたタブレット上にスタイラスを走らせるイオナ。
路面のアスファルトも溶け出しそうな、うだる陽気の中。
俺たちが見守り続ける先で――サーキットを借り切った時間一杯、千影はマシンを吠えさせ、はしゃいでいた。
* * *
「いらっしゃい千影ちゃん! 綺麗になって……まぁ」
「えへへ、お久しぶりです。今日は、お世話になります」
「……な? あいつ、この辺りじゃ有名人なんだわ」
「凄っ」
和気藹々と挨拶を交わす千影と、館内に隣県との境界線が存在する、山間の老舗温泉旅館を改装した宿の、女性オーナーの様子に恐縮し尽くした後で、俺たちはチェック・イン。
鄙びた この辺り一体で、イベント毎に高い集客力を発揮した千影は、さしずめ幸運を運んで来るザシキワラシか、何かの様に認識でもされているのか。
宿の側も、千影の家庭について……主に世界を転戦する親父さんの業績について理解を示してくれている お陰から、未成年だけの俺たちの宿泊について、特になにかを言ってくる様な事もなかった。
12畳ある和室の一間に荷物を置くと、連れ立って夕食前の温泉にへと出掛けて行く女子たちの後について、俺も一汗を流しに。
「覗いて良ぉし!」と、豪気に宣う澪一同と別れて――暖簾を潜ってみれば。
脱衣場の向こうは露天の様。
洗顔ソープと、用意されていた体洗い用のタオル一枚持って、足を踏み入れると抜群のロケーションを見せる岩風呂。
女湯とこちらは、間仕切りひとつで仕切られているだけ。
耳を澄ませてみれば、脱衣所で はしゃぐ
あいつらの声も聞こえて来たものの――やる事もあった俺は、適当に体を洗って そのまま湯を上がる事にした。
* * *
「こ、こんな本格的な露天風呂初めて……ス、スケッチしたい。あぁ! 今、私の手には愛機が無いっ! ジップロックに容れて持ってくれば良かった!!」
「うん、あのねイオナ。まずはお風呂。お風呂入ろう? 私らも、ま~ぼちぼち良い歳した花の乙女な訳よ。蔵人も私らが入って来るの……首を長ぁ~く……して、待ってたと思うし。のぼせちゃうと可哀想でしょ。あとね? お風呂にタブレットとか怖いからイオナ。撮られても困るし」
「み……澪。わたしの創作のための贄になってくれ。あんたの乳、尻、ふとももは、無駄にはしないから。わたしはそれを捧げて、素晴らしい天啓を受ける。後生だ、頼む」
「やめろ」
「……くーちゃあぁん。居るぅ?」
「おやおやおやぁ? さては、照れていらっしゃるのかなぁ蔵人くん。まぁ待ちたまえい! 今から こちらの女湯の様子を不肖! 来栖 澪レポーターが責任持って……つぶさに実況を務めさせて頂きます故に!!」
「澪ぉ……あんたもね。人のこと言えないからね? 今日、メッチャ浮かれっ放しじゃん。キャラ崩壊してるよ? ……わたしも人の事言えないけどさ……さっさと体洗って、出汁が出るまで浸かろうよ」
「あいっ!」
「てかさ? 星山さん」
「え、ち……千影で良いよ?」
「んじゃ、チカちゃん」
「チカちゃん! ……嬉しいかも」
「そう? じゃあ嬉しい ついでにさ……後で、お湯に浸かる時に、……こう、イヤイヤイヤ……みたいな感じでさ? 浴槽っての? この場合。良く分からんけど。兎も角 湯の中で体、振ってみてくんない?」
「……えっ、それって……どう言う」
「その巨大な乳が――」
「っ?!」
「水面を波立て、荒ぶる鯉の如く……静寂を掻き乱す、その音を耳にしつつ……湯の中で揺蕩う、巨ぬーの様子を観察してみたいんじゃよ」
「い、いや」
「ま、ま、ま♪ そう仰らずに♡ 持てる者であらせられる千影様の大権能の元に、わたしら持たざる者に……ね? 折角の立派な露天風呂! 風流を添える乳の音と言うモノを是非、お聞かせ下さいよ♫ なんでしたら、ちょっと絵には自信ある このわたし。魂魄を削り! 身命を賭してでも! 精緻極まる写実画のひとつも拵えて? プレゼントしちゃうってばよ!」
「ひぃ」
「イオナ……止めときなって。今度こそ私ら……マジで蔵人に殺されるよ。あいつが洒落にならないの知ってるっしょ? 男湯の方から、また爆弾でも飛んで来たらどうすんの」
「……爆……弾」
「へぇへぇ以後、気を付けまーっす。……てかさ? なんか男湯の方……全然、気配もなにも……しなさ過ぎじゃね?」
* * *
「……うぁ~」
「うぅーっ……」
「ぼぉあぁぁ……ぁぁっ」
「どうした? お前ら……ゾンビみたいな声だして。湯あたりでもしたのか?」
「……蔵人……あんた、なに一人……さっさと上がってんのよ」
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