表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
処女搾乳  作者: ……くくく、えっ?
一章:処女搾乳
10/216

サーキットの妖精

「……ただ、できる事なら……できる事なら、この……職人の業が光る銃を潰すのは……少し考えたい」


「ええぇ……、ちょっと……引くんだけど」


「まぁ、そう言うなって。硝煙反応も出れば、発砲音も響くこんな物……おいそれと使う訳にもいかないけど――」


「ね゛え゛ぇ゛え゛ぇ゛ぇ゛……そこはさぁ? 『おいそれと』じゃなくてぇさぁ! 使わない人生を選ばないぃ?」


「――確かに」


「どこかで人知れず処分する……みたいな選択肢は無いの゛ぉ゛?」


「う~ん、……悩む」


 顔色を悪くして、目で……なにか事かを ふたりが目配せし合う。


「まぁ、取り敢えず……保留。弾道ナイフに関してだけは、こんな超合金のオモチャのロケット・パンチみたいな代物、自作するのも訳無いから、どうでも良いけど。子供騙しみたいに付いてるフェロセリウム・ロッド(ファイヤー・スターター)のおまけだけは、ちょっと嬉しい。あ、でも……この(きん)は……どうしようか? 結構な額になると思うから、みんなで分けるべきだよな」


「……いくら、くらいに……なるの?」


「実際の純度と、金相場次第としか言えないけれど……これが本当に24Kだとしたなら、1枚で700万円……くらいになるんじゃないか? 帰って調べてはみるけれど」


「な、700万円?!」


 訊ねられた金額の推定額を伝えると、イオナが素っ頓狂な声を上げかけた。


「……うん。多分な? まぁ金に関して言えば……小さく割りさえすれば、俺の場合。廃品の灰を吹いて集めた……とか言って? 多少の目減りは覚悟しなきゃならんかも知れないけど、換金できるアテもある。お前たちにも分けるのは、それからって事で良いか?」


「「……イイ。怖いから要らない」」


 びっくりするほどのハモりっぷりで、分け前を固辞する澪とイオナ。


 俺は皆に、必要も無さそうな――他言無用の約束を取り付けると、その日のパーティーの御披楽喜の音頭を取る事にした。


 

 * * *



「ねぇ……蔵人」


「なんだよ?」


「あの発光してるみたいな妖精さんのマークって……千影? イオナの奴に見せられたデザインの中にあった様な……気がするんだけど」 


 目の前を瞬で通り過ぎるサーキット上のレーサー・レプリカに跨る、白を基調に黒のラインが奔るスーツを着込んだライダーを――俺と一緒に首で追いながら、澪が呆けた口調で聞いてくる。


「目が良いな澪。そうだぞ? 3年くらい前までは……あいつ。大きな大会で何回かコース・レコード叩き出した事もあるぞ? 〝国内最速女児〟とか〝絶影〟とか〝胸にエアロ・パーツを実装した初の女児〟って、あだ名されてたせいで界隈じゃ割りと名前も知られてるらしいな」


「うそぉ……ん」


「いや、ホント。そんな訳で……今日、このサーキットに集まって、貸し切り費用を割り勘して下さっているのは、当時のあいつの後塵を拝してリベンジに燃える皆さん方だ。こっちに来てからレンタルさせて貰っただけの――専用にチューンされた車体でもなければ、結構なブランクもあるし、千影には厳しかろう」


「…………」


「なんだよ……その目は。嘘ついてどうなる? あんまり会う機会は無いんだけど、世界を転戦してるって親父さんの影響でさ? 小さい頃から……ポケバイとか言う奴をやってたんだよ。……あ、しまった。澪……さっき、あとの方で口にした〝エアロ・パーツ〟って方の話は忘れてくれ。千影が相手してくれなくなる。……あいつが居ないと、俺の食生活は途端に貧相なものになるんだ。3食ドラッグ・ストアのおにぎり食べる生活は……イヤだ」


「……メッチャ尻に敷かれてんじゃん」


「ええっと……そ、その。そこは尻に敷かれていると言うよりも、胃袋を掴まれてるって言うか……餌付けされてると……申しますか、なんと申しますか」


「てか、何回も聞いてクドいんだけど……千影についての話は実際、どこまで本当なの?」


「え~っと、千影の話ってどれだ……国内最速の辺りか。疑り深いな……オイ。まぁ仕方ないけど。いや、だから本当だって。目の前をよぉーく見てみろ。ヘルメットとスーツで解り辛いのは仕方ないにしても、背格好やら空気やらは覚えのあるそれだろ? ……お? S字からのヘアピン そつなくクリアしやがった。ナマっちゃ……いないみたいだな。今度、おじさんに教えてやらないと」


「3年くらい前までって……言ったよね」


「うん、それが?」


「なんか……あったの?」


「な~んにも」


「……え?」


「ただ、あいつが着られるスーツが無くなって、レースに出られなくなったってだけの……つまらない話だ」


「スーツが無くなった? ――、……んん? 乳か」


「……うん。高価過ぎるフル・オーダーでスーツを作って貰っている間にも、あいつの乳は膨張を続けてだな。先日、懇意にしてる工房さんが、突貫で作ってくれたアレが届くまで、ぴったりしたスーツは世界中探してみても一着も無かった。昨今の不景気で仕事が空いてたって話ではあるけど、半年は待たされる覚悟をしてただけにホント助かったよ。でも下手な中古バイクなら余裕で1台買えるんじゃないか? ってくらい……高かったのが、また痛い。あいつ以外に着る事のできないシンデレラ・スーツだけに仕方も無いけどさ」


「って!? 火花散ってる?!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ