私の心の唯一つの花
少し妙な事に巻き込まれかけたものの彼は無事に帰路にとたった。
それでも途中、用心し何度か道を変えつつも追手や少年などが着いてきていない事を確認し愛しい人の待つ家へと辿り着いては荷を下ろし、おかえりと暖かく出迎えてくれるその人に微笑んで言葉を返し踵を返せば庭にて泥などを落としてくると一度外にと向かい。
体の汚れを極力払い、井戸水を汲んで首にかけていたタオルを濡らして顔や腕などを拭い彼女が不快にならないようにと極力清潔にと考慮してから家の中へと戻り入室した。
野菜くずを集めて煮たような質素なスープと、蒸かし芋。庶民にはありがちな食事だがそれを作り待っていてくれる者は他でもない彼女である。
本来であればこのような事は絶対になさらない立場の尊い姫君だ。
それも自身が生涯を捧げてまで尽くし仕えたいと願う世界でも唯一の。
自然とその食事を口にすれば笑みが浮かび、美味しいですとの言葉が本心から紡がれる。それを聞いた彼女は嬉しそうにとはにかみ笑う。
前までのように皮を剥きすぎて野菜が小さくなる事も減った為にそれなりに食べごたえもある食事で腹を満たし、今日起きた他愛のない話を展開して彼女の関心を得る。
ここからはまだあまり出る事のできない彼女を思っての話だ。
仕事のこと、食堂のこと、先程あった少年のそれも。
恐らくは彼女が一番喜んで食いつくだろうと予測していたが、思った通り。少年の愚かな行為にというよりは少年がそこまでして思う恋の相手とその恋愛の進捗の程はと目を輝かせ尋ねてくる様に微笑ましく思いつつも肩を竦めて先延ばした。
「さぁ。私にもそこまでは……。何せ今日知ったばかりですので」
「そうか。それは残念だ」
是非とも彼らの事を知りたかったと嘆く姿もまた稀な為に愛おしい。
目を細めて明日、食堂を利用する時にそれとなく聞いてくる旨を伝えれば持ち直しきっとだぞと明日を楽しみにと待ち望む。
彼女の心に潤いや何か良いものを齎してくれるのであればあのようなものに絡まれるのも悪くはない、と考えて彼は頷いた。




