幸せなってくれ、幸せにならないで
幸せなってくれ、好きな人と。
俺はそのために頑張るよ。
だから
幸せにならないでくれ、お願いだから。
幼馴染とは、ある意味一種の呪いである。
子供のころからそばにいるのが当たり前で、ともに行動するのが当たり前だった。
恋をすればその相談を受けて、悩み、泣いて、恋焦がれる。その人がどれだけ素敵で、どれだけ魅力的な人なのかを聞かされた。沢山のキラキラとした顔で毎日のように会えた事を喜んで、それを嬉しそうに話す幼馴染をずっと見てきた。
毎日そばにいて、毎日話をした。
どんな人が好きで、どんな人が嫌いなのか。
どんなことをされたら嬉しくて、どんなことをされたら嫌いになるのか。
どういう場所が好きで、どういう場所が嫌いなのか。
どんな癖があって、どのジュースが好きで、どのお菓子が好きなのか。
すべて一緒に見て、聞いて、体験してきた。
「好きな人が出来たんだよねー。」
「へぇ、また…本当にお前は懲りないよな、今度はどんな奴?やめろよ?奥さんいる人とか。」
「そんな人じゃねえよ!…それに多分ノンケだし、男はきっと好きじゃないから大丈夫だよ、見てただけだしさ」
いつも好きな人ができた時家の近くの公園に呼び出される。子供の時から悩み事や何かあった時はそこでいつも話を聞いてた、ぼそぼそと話し始めていつもブランコに座って好きな人が出来た時は何処か恥ずかしそうに足を揺らして、そのままブランコを漕ぐ。
悲しいことや嫌なこと、マイナスな感情の時は地面を靴でぐりぐりと穴を開けるようにして話し出すのがお決まりだった。まぁそれでも会った瞬間に何の話かなんて大体分かるんだけれど。
いい加減高校生にもなってそんなに癖がなくなってもいい気がするけれどそれはいつになっても消えることはなくて、そしていつになっても何かがあれば毎回呼び出された。そしてその話を毎回俺は聞いている。
今回は好きな人ができた話らしい。高校生である自分たちに出会いなんて言うものはかなり限られているし、仕舞いにこの幼なじみの恋愛対象は男性ときている。そうなればさらに近い距離での出会いになるだろう。
大学受験も無事終わり、あとはこの冬休みを最後の高校生として過ごして卒業、そして大学に入学となるこのタイミングで一体何処で誰と知り合って恋をしたのだろうか。
「で、どこの誰なんだよ。」
「……受験の時短期で行った塾の先生。まぁでも、先生結婚してるし…もう受験も終わったから最後に今度挨拶でもしてこようと思ってさ」
「なら、もうそれでその恋も終わりじゃん。」
「そうなんだよなー」、そう言ってちょっと悲しそうに笑って見せていつもの恋したキラキラした目をしながらも、受験が終わって会えなくなっては恋愛には発展もせず会えない寂しさでマイナスな感情の同時にどうしたらいいのか分からないような顔をしていつもみたいにブランコを漕いでみせた。
短期で塾に行ったのは自分も一緒で恐らくその恋をした塾の講師は眼鏡をかけた温厚そうな男性のはず、生徒からの人気もそれなりにあり、相談にも親身に聞いてくれると女子生徒からの話も聞いたことがあった。男子生徒の悪ノリに乗ってくるような調子のいい性格ではないはずだったがそれでもこの幼なじみには逆にそれが良かったんだろうか、挨拶に行くと言った幼なじみをブランコの揺れに合わせて見つめた。
いつも好きな人が出来てもその人は普通の人だから結ばれないといつも言っているのを知っている。大人ならばその悲しい気持ちも受け入れて、その女子を好きになるという普通じゃない幼なじみを受け入れてくれるのだろうかと何度も自分も考えたことがある。それならば、幸せになるのならばそれでいいのかもしれないといつも考えてからそれは許せないと最終的に何度も思う。
「挨拶だけなの?…先生、大人だし…もしかしたら、…受け入れてくれるかもしれねえじゃん。」
「うーん……、そうかもしれないけど…うん、そうかもしれない、だけど…」
「…………、俺はお前が好きな人と一緒になって笑ってられるならいいんじゃないかって、思ってるよ。」
本心だ。
これは本当に本心だった。
いつも好きな人のことを話す幼なじみが、いつもその人と結ばれて幸せに笑ってくれればいいと毎回思っている。俺の事を見てくれないことも、俺の事を好きにならないと知っているから、それならそんな「好きな人」の話を聞く羽目になるのならその人と幸せになって欲しいと思う。今まで先輩や、後輩や学校の先生、バイト先の人、好きになった人に告白したことは無い。いつも遠くから見ていたり、彼女がいたり、想っているだけで終わっていたりしていたけれど今回は挨拶に行こうと言うのならそれで終わらせず想いを伝えてみたら、もしかしたら上手くいくかもしれないと思った。
上手くいかないで欲しい、と心のどこかで思いながら俺は本心を話した。幸せになってほしいと思ってるんだって。
すごく驚いたようにブランコを漕いでいた足を止めて砂利を踏んだ、こちらに視線を向けているのが分かったけど何故かその表情が見れなかった。
「ありがとな…、うん、そうだよな…言ってみるだけなら…もしダメでも、それで会わなくなるし。」
「うまくいきゃまた会う約束すればいいじゃん、塾の生徒でも無くなるんだしさ。」
大学は同じところを受けた。
無事俺たちは同じ大学に合格して、この春、家を出ることも決まってる。一人暮らしをすることも決まってるし、暮らす場所も同じマンションで、俺たちの両親はここまで来たら一緒にルームシェアでもすればいいとずっと言い続けて俺たちを説得して来た。それでもそれはずっと断り続けて、別々の部屋で一人暮らしをすることにした。恋人が出来たらきっと家に呼ぶのも、俺に同じく出来れば俺が恋人を呼ぶのも気を使うし、色々と面倒になることは目に見えていたし、何しろアイツもあまり乗り気ではなかった。今、これで上手く行けばお互いに楽になるだろう。
かなり冷え込んで、空気が冷たく体はすぐに冷えていく。冬の冷たい空気で空は星が輝いている。大晦日も無事終了し、正月のテレビ番組にも飽きてきていて正月のためか寒さのためか外には人の気配は全くない、公園の申し訳程度に置かれた街灯が公園を少し照らしているだけ、公園のトイレの横に売り切ればかりの自動販売機が煌々と光っている。珍しく補充されたのか売り切れの赤い文字が見えない、この冷え込んだ中で話を聞くのもこれ以上自分が勧めるのも嫌になってきていつもの定位置であるブランコから立ち上がると小銭がポケットに入っていることを確かめれば、幼なじみのこれからの恋路にエールをと笑って見せた。
「しょがねえな、寒いからココアでも奢ってやるよ」
「……、なんだよ、ココアかよー。安いな、ちょっとコンビニ行きゃいいじゃん。」
「なんで高いやつ奢らないといけないんだよ。」
「いいじゃん、俺頑張れるなー。」
「上手くいったら奢ってやるよ」
もう幼なじみの恋の話は聞きたくないけど、いつもの定位置を誰かに奪われるのも嫌で、その隣で幸せにしてやれるのが自分ならどれだけいいかと毎回思う。
それでも幼なじみのキラキラとしたあの輝いている瞳が自分を見ることがないことを俺は知っているし、たかがココアでその恋路を応援できるとは思ってない。上手くいったら、と毎回言っている気がするけれどその恋路が上手くいったことはない。どこかでそれを望んでいるようで、上手くいかなければいいのにとの言葉を隠すようにいつも願掛けのように上手くいったら奢るからと話す。
そうするといつもアイツは笑う。
お前が奢ってくれるならきっと今回はうまくいくに決まってるわって。
あぁ、きっと…上手くいくよ、きっと。
きっと
幸せになれないままだ




