[コント]もうだめだ!
男(もうだめだ…会社もクビ…借金も返せない…家賃も払えない…もうこの崖から飛び降りるしかない…)
見知らぬ男「ちょっとそこの人?」
男(やばい!見つかった!!こっちに来る!!)
見知らぬ男「あの?釣れますか?」
男「こんな断崖で釣りするやつ居ないでしょ!!」
見知らぬ男「あぁ、写生ですか?ここは絶景ポイントですからね♪ほら、あの辺りの夕日がいいんですよね~♪」
男「釣り道具も写生道具も持ってません!」
見知らぬ男「そうですかぁ~…トランペットの練習に~」
男「何も言ってません…僕を観てトランペット持ってると思いますか?」
見知らぬ男「じゃ!ギター?…どうせギター弾くなら、もっと人が居る場所じゃないとメジャーの夢は掴めないよ!あ、もしかして……音痴?」
男「僕の周りに楽器がありますか?」
見知らぬ男「じゃ、ここで何してるんだよ!…あっっ、お…お前!もしかして?…ここで?…それは止めるんだ!!!今、君は大変な事をしようとしているんだぞ!!」
男(まずい、ばれた!!警察呼ばれるとやばいな!!)
見知らぬ男「ここはキャンプ禁止なんだ!!火気も厳禁なんだ!やるなら隣町のキャンプ場に行け!」
男「キャンプ??」
見知らぬ男「しかしだ!一人キャンプはとっても淋しい!あ、俺の携帯番号教えてやるから後で集合時間教えてくれ!一緒にフォークダンスをしよう!」
男「あなたと踊って何が楽しいんですか!」
見知らぬ男「大丈夫だ!その時は俺がギャルの衣装を着てやる!」
男「それでも男に変わりない!」
見知らぬ男「心配ない、集合時間までに娘の少女マンガを読んで乙女心を勉強し、服を借りてくる!娘は怒るかも知れないが、淋しい友の為だ!!」
男「いつ友になりました?今会ったとこですよね?それにキャンプじゃないです!!」
見知らぬ男「では!なぜ君はこんな足場の悪い場所で革靴を履きスーツ姿で崖に立っている!!!……あっ!!…お…お前…ま!…待て!!早まるな!!!…そんな事をしても誰も喜ばないぞ!…考え直すんだ!!!」
男「ほっておいてください!!僕はもう決めたんです!!」
見知らぬ男「いや!何としても俺は止めるぞ!!!ここで見逃せば多くの人が涙を流すはずだ!!」
男「そ…そんなに…泣いてくれる人が…」
見知らぬ男「そうだ!!だから、絶対にここをリゾート開発させない!!そうなればどれだけの住人が涙を流すか…お前!開発会社の担当者だろ!!!!」
男「そっち?…そっちの話?全然違う!!…今僕ちょっと胸が熱くなったのに!!…こうなればもう正直に打ち明けますが…」
<男はスーツの胸ポケットから白い封筒を出す>
見知らぬ男「お…お前の…ここに来た本当の目的は……そうか……そうだったのか…気が付かなくて悪かった……」
<男は何も言わずにコクリと頭を下げる>
見知らぬ男「だが、俺を馬鹿にするな!!賄賂で俺を釣ろうとしても、俺は仲間の住人を裏切るようなセコイ男じゃねぇ!」
<見知らぬ男は素早く右手を男に差し出す>
男「言ってることとやってる事がバラバラだろ!!賄賂もらう気満々だろが!!」
見知らぬ男「ふっ、潮騒が俺をそうさせたに違いない…なぁ、夕日が綺麗だな!友よ!!」
男「だから!いつ友になった?それに潮騒なんて聞こえてない!!」
見知らぬ男「では!リゾート会社の社員じゃないお前はいったい何者なんだ?…はっ!…保険勧誘の人?…俺、持病ありますけど何かいいのありますか?」
男「どこの保険会社がこんな断崖絶壁で商談する会社がありますか!!もう、ハッキリ言いますけど僕はここで命を絶とうとしていたんです!」
見知らぬ男「な!!!なんだとぉ~~!!どうして早く言わなかった!!!」
男「普通分かりますよね?分かりますよね?こんなスーツ姿で淋しく崖に立ってたら!!!」
見知らぬ男「すまん、俺はてっきり演歌カラオケの映像撮影かと…」
男「撮影班居ないですよね?それにどれだけあなたの中で僕の職業は変わってるんですか?」
見知らぬ男「そんなことはどうでもいい!観ろ!あの夕日を!人間生きてりゃ悲しい事、辛い事、逃げ出したくなる事ばかりだ!そんな時は大きな空を眺め、美しい夕日を観るんだ…そうするとな、自分の悩みがちっぽけな存在に思えてくる…」
男「空を…」
見知らぬ男「そうだ!陽はまた昇る!今の心は夜かも知れない、けど必ず!陽は昇るんだ…」
男「陽はまた昇る…ありがとうございます!あなたの話で僕も何だか勇気が出ました!もう一度人生やり直します!!」
見知らぬ男「そうか!何だか俺も自分の言葉に勇気が出たよ!!俺もここから飛び込むの止めとくよ!」
男「お前もだったのかよ!」
おわり