一口短編:細菌
「では、自覚している症状を教えていただけますか?」
そう言ったのは医者だ、彼は訪問診療で患者の元に訪れ診察をしているところだ。
「何だか体が熱っぽいです、それにとても皮膚が痒い。眠りも浅くなった気がしますし、呼吸も少し苦しいです」
患者が答える。
「ふむふむ、熱っぽさに皮膚の痒み……ですか。見たところ肌も傷んでいるように見えますな」
「そう見えますか……とても怠い気分です。先生、私は一体どうしてしまったのでしょうか」
青い顔色の患者が尋ねる、聞かれた医者は少し間を置いた後に言った。
「症状から考えてあなたが罹っているのは細菌による感染症ですな」
「感染症ですって……?」
「ええ、これはとても珍しい病気なのですが、あなたは生まれつき免疫力が低いようなので罹ってしまったのでしょう」
「治す方法はあるんでしょうか?」
このような経験をしたことがないのか不安そうな顔で言う患者、その言葉からは暗に治せると言って欲しいという感情がにじみ出ていた。
それに対して医者は自信ありげに頷き言った。
「もちろんですとも。見たところ症状は中期のものです、これならば少々特別な処置を施せば完治するはずです」
「それは本当ですか! でしたら是非お願いします。早く治してください」
「そう早まらないでください、この処置には強い副作用が伴います。それでも良いのか確認させてください」
「副作用……ですか? そんなものがあるなんてその特別な処置というのはどういうものなのですか」
「あなたの免疫力を一時的に大きく高め細菌を駆除するというものです。その性質からどうしても腹痛や眩暈などの副作用が起こってしまうのです」
「なるほど。構いません、とにかくこの病気を治せるのなら何でもいいです」
「わかりました、なに気を楽にしてください。辛いのは少しだけですよ」
患者の了解を得た医者は手際よく治療を行った。
「それで、具合の方はどうですか」
数日後、改めて患者の元を訪れた医者が具合を尋ねる。
「とても清々しい気分です。余計なものが取り払われたような、とにかくいい気持ちです。副作用のせいでお見苦しい姿を見せたりもしましたがおかげで助かりました」
「それは結構なことです。細菌は無事に死滅したようですね、再発する可能性もありますがそのときはまたご連絡いただければすぐに参上いたします。それではお大事に」
元気になった患者を見てほっと一息つく医者。
彼は一仕事終えた道すがらぽつりと呟く。
「やれやれ、無事に治療出来て良かった。しかし厄介なものだな、あの人間とかいう細菌は」