はっぴーめりーうぇでぃんぐ
暗闇、幕が開く。
煙草の火が仄かに見える(と嬉しい)。
女「分かった、わかったもういいや」
男「いや待って」
女「もういいから」
明転。
ソファの端に女が、その横に詰めるように男。女は気だるそうに煙草をふかしている。
男「いや待てってば」
女「……充分待ったよ」
男「いやそうだけどそうじゃないって言うか、もういいやって投げやりになるのはだめだろ」
女「別にそうじゃない。柄にもない事を聞いたのはあたし。だからもういいんだ」
男「よくないでしょ、よくないからそう言うんでしょ」
女「お前のそう言う女っぽい所嫌いじゃない、でも今はいらないから」
男「女っぽいってなんだよ、ただ普通に心配で」
女「大丈夫だから、」
女、煙草を揉み消し溜息。
女「結婚なんて話題出すんじゃなかった」
男「そんな言い方しなくていいだろ」
女「否定的な意味じゃないよ、ただ本当に、柄じゃない事は言うべきじゃなかったと思ってるだけ」
男「違うんだよ、したくないんじゃなくて、ただなんて言うかまだその時じゃないって言うかさ」
女「いいよそんなに必死にならないで。ただ気になっただけだからさ。あたし達いつまでこのまんまなのか、ただ純粋に興味があっただけ」
男「なぁその言い方やめない?何か別れ話みたいな空気やめてよ」
女「………そうだね」
女、立ち上がる。
男「別れ話じゃないだろ?なぁ」
女、上手へ向かう。
男「慧?なぁ待てってば、これでおしまいになるとかじゃないよな?」
チャイムの音。男振り向く。女退場。
男「最悪だ、誰だよもう」
再度チャイム。
男「はいはい聞こえてますよ」
男、下手へ。
扉を開ける。
男「どなたですk」
嫁「やっと出てくださった!!」
花嫁姿の女が部屋に押し入る。
男「は!?誰!?花嫁!?」
嫁「はい!花嫁です!」
男「元気がいい!」
嫁「えへへ、元気が取り柄って言われるんですよ」
男「それはいい事ですねぇ」
嫁「ありがとうございます〜」
男「ところでどなたですか?」
嫁「あ、申し遅れました。私は金宮ゆりって言います!」
男「ゆりさんですか、初めまして!俺は渡 哲弥です」
嫁「初めまして哲弥さん!早速で申し訳ないんですけどお願いがありまして」
男「なんでしょう」
嫁「私と結婚しませんか!」
男「あーなるほど、結婚ですか!だからウェディングドレスと」
嫁「そうなんです、綺麗なドレスでしょう」
男「いいですねぇ、やはりウェディングドレスは女性が人生で1番美しく見える服と言いますしね慧さぁぁぁぁぁん!?!?早く出てきて助けてぇぇえ!?!?!?」
嫁「どどどどうしたんですか!気でも触れましたか!?」
男「助けて!?この明らかにおかしいのにおかしくないかも知れない気がしてくる感じをどうにかして!?」
女上手からでてくる。
女「なに、近所迷惑なんだけど…」
嫁「すみません、お騒がせしてます」
男「慧助けて、この人やばい人だよ」
女「えっと…どちら様」
嫁「金宮ゆりと申します!この人と結婚しにきました!」
男「ね!?やばいでしょ!?」
女「結婚……」
嫁「突然押しかけてしまい申し訳ないです……」
男「話が通じない人って本当にいる事を今日知ったよ、こういう時って警察に届けるべきなのかな…俺電話してみようか」
女「いいんじゃない?」
男「分かった、警察って110だよね」
女「結婚してみれば」
女、ソファに座る。
男「……慧?」
嫁「えっっ、押しかけた身でこんな事言うのはアレなんですけど、お2人はお付き合いなさってるわけでは…」
男「いやいやいや付き合ってますよ、もう6年目ですよ!!」
嫁「破局したとかではなく?もしくは今から破局する感じですか?」
男「縁起でもないこと言わないで貰っていい?慧どうしたんだよ、頭おっつかなくておかしくなったか?」
女「別に、」
女、煙草に火をつけようとして止まる。
女「ゆりさん、だっけ。これは?」
女、下腹部をさする仕草。
嫁「あ、いえ大丈夫です。煙草自体も苦手じゃないです!」
女「そ、ならいい」
女、煙草に火をつけソファに身を預ける。
男「慧、さっきのどういうこと?俺ら恋人だよな?何であんな馬鹿なこと言うんだよ」
嫁「そ、そうですよ。普通だったら警察に突き出されてもおかしくないですよ私」
男「自覚はあったのか…」
嫁「いや流石にほら…」
女「別にサツに連絡したりしないよ、流石に驚きはしたけどね」
嫁「ありがとうございます…あの、慧さん…で合ってますよね?」
女「あってる、四ッ谷慧。」
嫁「慧さん、確認なんですけど、その…私と哲弥さんが結婚する事に同意してくださるって事で…?」
女「同意も何も、結婚は当事者の気持ちの問題だしね。いいんじゃない」
男「まてまてまてまて、おかしいおかしい」
女「おかしくないでしょ」
男「おかしいでしょ?お前俺の彼女だよね?」
女「彼女だね」
男「そうだよ、そうだろ?」
女「……6年間付き合って結婚を拒まれた27の彼女、ね」
嫁「えっ…哲弥さん…?」
男「それはだからっ…そうじゃないって言うか、誤解してるって」
女「誤解も何もないでしょ?別にいいんだよ、どっちかの気持ちでするもんじゃないし、拒まれたら拒まれただよね」
男「拒んだ訳じゃないというか」
女「じゃあ、何?」
沈黙。
女、ふっと笑うように煙を吐く。
女「こんなナリだから怒ってるように見えてるかも知れないけど、別にそうじゃないよ。ただ事実を言ってるだけだから、そんな顔しないで」
男「……ごめん」
女「このタイミングでの謝罪ほど駄目なものはないね」
嫁「あ、あの、お2人とも、その」
女「あぁ客人に茶の1つも出してなかった。生憎切らしててね、ちょっとコンビニでも行ってくる」
嫁「いやいやそんな!お気になさらず!押しかけたのは私ですし!」
女「ちょうどコレも切れたからついで。そこら辺に座ってて。あぁソファの辺りはヤニに気をつけてね、せっかくの白が汚れる」
女、話しながら上手に財布を取りに行きリビングに戻る。
俯いたままの男を一瞥。
女「……結婚できない理由が知れてよかったよ」
男「……は?」
女、嫁の頭を撫でつつ玄関に向かう。
女「手狭で悪いけど遠慮しないでくつろいで。ちょっと出てくる」
嫁「あ、すみません、お気をつけて!」
男「まてよ、もしかして慧なんか勘違い」
扉の閉まるSE。
間。
嫁「勘違い、してる感じでしたよね」
男、大きなため息。
嫁「あの、ごめんなさい。私がここに来たばっかりに…」
男「ほんとだよ、何してくれてんの?頭おかしいよ……」
嫁「ほ、ほんとに申し訳ないです」
男「て言うか君ほんとに誰だよ、面識ないでしょ?なんでここに来たのさ」
嫁「それは、その……」
男「そもそも何でウェディングドレスなんて着てるの?何の目的なの?詐欺?勧誘?それともイタズラ?わかんない事が多すぎてどうしていいか分かんねぇよ…」
嫁「ごめんなさい、まさか同棲してるなんて…考えつきませんでした、本当にごめんなさい」
男「……(溜息)。もういいよ、真っ白なドレスの女の人にそんな顔されると何か辛いわ、僕もちょっと頭に血が上ってたな。ごめんなさい」
嫁「いえ、ほんとにごめんなさい」
間。
嫁「あの、本当に図々しいお願いなんですけど、」
男「なんです?」
嫁「追い出さないでください、お願いします!」
嫁、深深と頭を下げる。
男「流石にウェディングドレス姿の女の子を外にぽーいとは出来ないですよ」
嫁「それから、で、出来れば私の事は他の人にはご内密に」
男「格好が格好だから内密にしきれるかはアレとしても、大丈夫ですよそんなに心配しなくて」
嫁「本当に、本当にごめんなさい…」
男「…なんか、切迫してます?」
嫁「……」
男「いや、切迫して無いわけないですよね。そのかっこですし。自分の事でいっぱいいっぱいで頭回ってなかったな…すいません、そういう所あるってよく慧にも言われるんですよね」
嫁「いえ、全然…」
男「もしよかったらなんですけど、事情聞かせてもらえたりとかしませんか」
嫁「えっと…」
男「無理にとは言わないんですけど、もしかしたら何か力になれるかなーとか、思ったりして」
嫁「……哲弥さんって、お人好しですね」
男「あっ結構ずばっと言いますね?」
嫁「ごめんなさい、いや、普通に家に押し入ってきた花嫁姿の女に恋人との関係ごちゃごちゃにされて、それで出てくる言葉がそれって…人がよすぎるなって思ってしまって」
男「否定は出来ないですね、よく言われます」
嫁「あの悪い意味とかじゃなくて、そんな人いるんだなって思って」
男「大丈夫です、言われ慣れてるんで!まぁこれはもう性分みたいなもんですよね」
嫁「………あの」
男「はい?」
嫁「話、聞いて貰えませんか?」
男「もちろん、僕で良ければ喜んで」
嫁、男の前に正座しなおす。
男も正座する。
嫁「実は私」
男「はい」
嫁「結婚式の最中で逃げ出してきたんです!」
男「お、おお、なんと言うか、うん、9割9分くらいは想像できてたけど言葉にされるとなんとも」
嫁「…私の家は幼い頃に両親が離婚して、母が女手一つで私を育ててくれたんです。母が頑張ってくれていたのをずっと見ていたので、早く楽にしてあげたくて大学には行かずに就職しました」
男「お母さん思いですね」
嫁「思い半分、申し訳なさ半分です。今日結婚式を挙げる予定だった相手とは、その職場で出会ったんです」
男「社内恋愛ってやつですか」
嫁「そうですね。会社の先輩で良くしてくれて。その内どちらとも無く付き合おうとなって、そこからトントン拍子に結婚へ……まだ1年たってないんです、付き合って」
男「スピード婚ってやつですか。それで?」
嫁「私は確かに彼が好きです。彼もきっと私を好きです。けれど、結婚式当日の今日、控え室でこのドレスを着て綺麗に化粧した自分を見て、何だか堪らなく投げ出したくなってしまったんです」
男「突然ですか」
嫁「はい、本当に突然。……私、昔から母に迷惑かけまいと自分の意見をどことなく蔑ろにする事が多くて。大きくなるにつれて自分の気持ちっていうのが徐々にわからなくなったんです。表面に出てきてくれなくて。でも今日はもやもやして堪らなくて、よく分からないまま走って来てしまいました。」
男「それでここに?」
嫁「はい、目に付いたのがこのマンションで、端から順番にチャイム鳴らしたんですけど、このお部屋まで誰も出てきてくれなくて…」
男「ここのマンション、あんまり人と関わりたくないって人多いから…」
嫁「哲弥さんが出てくださらなかったら今頃連れ戻されてたかもしれないです」
男「それはよかっ…良かったのだろうか…」
嫁「私的には良かったですね、哲弥さん的には……」
男「うん、そういう事ですよね」
嫁「ですね」
男「でも、それなら最初からそう話してくれれば良かったのに。なんで結婚しようだなんて突拍子もない事言ったんです?」
嫁「それは…ただ普通にこの話をしてもきっと戻れと言われると思って。それから、気が変わってこの人と一緒になりたいって言えば、彼を1番手っ取り早く納得させられるかなって…」
男「随分極端な…」
嫁「気が動転してて、ほんとごめんなさい」
男「いや、大丈夫……ひとつ思ったんだけど」
嫁「なんです?」
男「君いくつ?」
嫁「今日で20歳です」
男「今日で!?20歳!?」
嫁「高校出て就職して、19の時にお付き合いをはじめてって感じですね」
男「20歳……なるほど。若いとは思ってましたけど、まさか20歳とは…しかも今日が誕生日?」
嫁「そうなんです、奇しくも結婚式と誕生日が被って」
男「被せたのではなく?」
嫁「たまたまです、下手すると彼私の誕生日知らないかもしれません。今日も朝から何も言われてませんし」
男「えええ…そんな事あります…?」
嫁「あ、敬語じゃなくて大丈夫ですよ。哲弥さん敬語得意じゃないですよね?」
男「どうしてそれを」
嫁「さっきから話してて思ってたんです」
男「そっか、じゃあお言葉に甘えて……でもさ、さすがに結婚相手の誕生日知らないって事は無いんじゃないかな」
嫁「どうですかね…まだ付き合って日も浅いですし、彼あまり他人に頓着がないと言うか、私に対しても淡白だし隠し事が多い気がするんですよ」
チャイムの音。
男「……ゆりさん、聞いていい?」
嫁「なんでしょう」
男「ここまで走って来たんだよね?」
嫁「そうですね」
男「多分だけど式場はすぐ近くのシャン・ドゥ・ラムールだね?」
嫁「そうです、よく式場の名前知ってますね」
男「まぁ。えーと、つまり」
チャイムの音。
男「彼氏さん、追ってきてたりしません?」
嫁「いやぁ、流石に居場所がバレるなんて事は」
チャイムの音。
嫁「宅配とか、お知り合いの方とかじゃないですか?」
男「確かに宅配はくるかもしれない、ちょっと出てみるね」
嫁「はい」
男、下手へ。
扉を開けるSE。
男「はいはい、どなたですk」
旦「やっと開けてくださった!!」
タキシード姿の男が部屋に押入る。
男「これさっきもやった!!」
旦「ゆり!こんな所にいたのか!」
嫁「さとるさん!?」
男「だから追ってきてるんじゃないかって言ったじゃん……」
旦「何してるんだ、もう式が始まるんだ!ほら、戻るぞ!」
嫁「や、離して!私戻らない!」
旦「何言ってるんだ、皆もう揃ってるんだぞ?」
男「あ、あの!」
男、嫁を引き寄せて背後にやり守るように立つ。
旦「なんなんですか貴方」
男「無理に連れてくのはやめましょ、嫌がってるし」
旦「貴方まさか……ゆりの浮気相手か!?」
男「はい????」
旦「ゆりお前、だから式から逃げたのか?」
嫁「んな訳ないでしょ!さとるさんのばか!さいってい!」
旦「じゃあ何なんだこいつは!」
嫁「ただ私が結婚し」
男「ゆりさん!?それは誤解を招くよ!?浮気してるって否定したいんだったらそれは言ったらダメ!」
嫁「あっそうだ」
旦「浮気か、浮気なんだな!」
嫁「だから違うって」
男「あの!!!」
間。
男「ここ俺んちなんで!静かにして貰えます!?1回座って!」
旦「だけど」
男「座れ。座らないなら出てけ」
旦那、渋々座る。
男「ゆりさんも。座って」
嫁「はい…」
嫁、男の近くに座る。
旦那、若干嫌そうな顔。
男「落ち着いて話しましょ、無理にしたっていい事ないんだから」
旦「すみません、少し、いや、かなり、取り乱してました。近所の方にウェディングドレス姿の女性がこの家に入ったと聞いて気が動転して。勝手に家に押し入った事、まずは謝らせてください。すみませんでした」
旦那、深々と頭を下げる。
男「いや、大丈夫ですよ。なんか1回経験したらそれ程何も感じなかったので」
旦「ありがとうございます、自分は東雲 智と申します。今手持ちの名刺がないので口頭での挨拶となってしまって申し訳ありません」
男「いえいえ、僕名刺なんて持ってないのでむしろ助かりました。僕は渡 哲弥です」
旦「渡さんですね、この度はゆりがご迷惑をおかけして大変申し訳ありませんでした」
男「あ、あのっ全然大丈夫なんで謝るのやめにして貰えませんか?なんか……そわそわしてだめなんです。そんな気にしてないので」
旦「すみま…いえ、ありがとうございます」
男「えっと、それで……」
間。
嫁「……戻らないから」
旦「ゆり」
嫁「私絶対戻らない」
旦「一体何が嫌なんだ?」
嫁「何かよくわかんないけど嫌なものは嫌!」
旦「ゆり、そんな子供みたいな事言わないでくれよ」
嫁「うるさい!」
男「あの、2人とも喧嘩しないで……」
扉の開くSE。
女、下手から登場。手にはコンビニの袋。
女「おまたせ……何で増えてんの?」
男「遅かったね」
女「別に、普通でしょ」
男「慧……」
女「適当にジュース買ってきたけど飲めないのとかある?」
嫁「私は甘いのだったらなんでも」
女「甘いのね……どっちがいい?」
嫁「じゃあ、メロンソーダで」
女「はいよ、あんたは?」
旦「自分ですか、」
女「ほか居ないでしょ、苦手とかある?」
旦「自分は甘すぎなければなんでも……」
女「んじゃアイスコーヒーでいいね、砂糖とミルクは」
旦「両方お願いします」
女「はいよ、ちょっとまってて」
女、上手へ。
旦「えっと、あちらの女性は…」
男「僕の彼女です」
嫁「同棲してるんだって」
旦「なるほど……お前同棲してる方の部屋にその姿で転がり込んだって、何かいらぬ誤解を招いたりしてないだろうな」
男「彼氏さん察しがよくて素敵ですね、そういう事です」
嫁「ごめんなさい…」
旦「も、申し訳ないです、大丈夫ですか?」
男「それは僕にもなんとも……」
女、上手から登場。手にはトレー。メロンソーダにアイスが乗ってる。
嫁「わぁ!美味しそう!」
女「ゆりさん多分だけど好きかなと思って乗せてみた、嫌いじゃない?」
嫁「むしろ大好きです…!ありがとうございます!!」
女「ドレスに付けないようにこれかけときな」
嫁「ふぁい!」
女、嫁にバスタオルをかぶせる。
女「はい、砂糖とミルク適当に置いとくから好きに使って。お前はコーラ」
男「あ、ありがとう…」
女「それで?どこまで話進んでんの、大方無理に連れ戻そうとして拗れてんでしょ」
男「エスパー?」
女「見りゃ分かる」
男「そうだ慧、びっくりなんだよ。ゆりさんまだ20歳なんだって」
女「へぇ、まぁその位かとは思ってたけど20歳か…いいね、女盛りだ」
男「女盛りって…」
旦「あの、この度はゆりの軽率な行動のせいでお2人にご迷惑をおかけしてしまって大変申し訳ありません」
女「別にいいよ、そんな迷惑とも思ってないし。知るべき事を知ったって感じ」
嫁「あ、あの!慧さん誤解してます」
女「なに?」
嫁「私と哲弥さんは、ほんとにそういう関係じゃなくて、あの、初対面なんです」
男「そうだよ慧、ほんとに俺今日初めて会ったし、さっきも言ったけど歳も知らなかったんだよ」
旦「まて、そういう関係ってなんだ」
嫁「ちょっと静かにしててよ」
旦「やっぱりこいつと浮気してたのか!」
嫁「だから違うって話を今してるんでしょ!?」
旦「それだけ必死になられると逆に怪しく思えてくる…」
男「お互いを知らない証明なんて難しくて出きっこないですよ」
嫁「そうだよ、変な事言うのやめてよね!」
女「はいはい、分かった分かった。意地の悪い事言って悪かったよ。あんたらがそういうんじゃないってのは分かってるから」
男「え、分かってたの?」
女「そこまで馬鹿じゃない」
嫁「よかった、私てっきりとんでもない事しちゃったかと…」
女「とんでもない事はしてると思うけど、まぁ大丈夫。て事で、あんたも納得できる?」
旦「あ、は、はい、取り乱しました。すみません」
女「別にいいよ、誰だってそうさ」
男「ねぇゆりさん、さっき俺に話してくれた事、全部じゃなくていいから伝えてみたら?」
嫁「でも…」
男「そのまま言えばいいよ、それがゆりさんの素直な気持ちでしょ?」
嫁「……はい。…あのね智さん」
旦「なんだい?」
嫁「私ね、分からないの」
旦「分からない?」
嫁「今日控え室でこのドレスを着て鏡に映る自分を見て、私このまま結婚式していいのかなって分からなくなったの」
旦「分からなくなった?」
嫁「うん。今まで自分の気持ちをどこか蔑ろにしてきたから、本当の自分の気持ちがどこにあるか見えなくなって。1人で私を育ててくれたお母さんを安心させたい、貴方の事も好き。でも今結婚をするのが私の望んでることなのか分からないの」
旦「……それは」
嫁「なに?」
旦「それはつまり、僕の事を前ほど好きじゃなくなった、って事だろ?」
嫁「え、ちが…」
旦「違わないだろ?本当に心の底から好きだったらそんな事は迷わないじゃないか。僕に対する気持ちが薄れたからそんな事考えるんだろ?」
嫁「そうじゃない、そんな乱暴な答えの出し方しないでよ」
男「そうですよ、少し落ち着いてゆりさんの話を聞いてあげてくださいよ」
旦「落ち着いてますよ、冷静に客観的に聞いてみて、つまりそういうことですよね?」
女「…そういう事かもね」
男「ちょっと慧!?」
旦「だったらそう言えば良かったじゃないか、わざわざ結婚式を投げ出さなくたって」
嫁「ねぇ智さん聞いて、そうじゃないの。逃げ出した事はごめんなさい、私も動揺してたの」
旦「動揺してたとしても、お互いの家族だって友人や上司や後輩だってよんでる、皆集まってる式を放り出すなんて非常識じゃないか」
嫁「それは…」
旦「大体君はいつもそうだ。大切な場面の直前でしり込みしたり意見を変えたり、社会人としてもう少し自分の行動に責任を持つべきだ。仕事だってそうだったじゃないか、それをフォローするのはいつも僕だったろ?」
嫁「今は仕事の話はしてないでしょ」
旦「君にはそういうところがあるって話だよ。そもそも自分の気持ちなんて自分で分かってるのが当たり前じゃないの?判断も決定も自分でするのが人生だ、いい歳した大人がこんな事で大事な式を投げ出すなんて信じられない」
嫁「……ごめんなさい」
旦「今からなら間に合うから。戻って式を挙げよう?ちゃんと謝れば皆許してくれるよ」
嫁「私…」
旦「ほら、行こう」
旦那、嫁の手を引く。
旦「さぁ立って」
嫁「や、やだ」
男「ちょっと、やめましょって」
旦「これは僕とゆりの問題です、ご迷惑をおかけしたのは謝りますが口を出さないでください!」
嫁「やめて、そんな言い方しないでよ。お2人を巻き込んだのはこっちなんだよ?」
旦「君が式を投げ出したりしなければこうはならなかっただろう!?責任転嫁も程々にしなよ!」
嫁「やめて、離して!私いかない!」
旦「ゆり!子供みたいな事言わないでくれ!」
女「その位にしときな」
女、旦那の手を取り制する。
旦「何なんですか、口を出さないでくださいって言ったでしょう!」
女「ここはあたしらの家だ、これ以上騒ぐってなら出てってもらう。但し、あんた一人でね」
旦「自分は彼女を連れ戻しに来たんですよ!自分だけ出てってなんになるんですか!」
女「そんなのは知ったこっちゃないよ、誰をこの家に残すも追い出すもあたしの勝手だ」
旦「……離してください」
女「それは返答次第」
旦「いいから離してください!」
女「…そんな子供みたいに喚かないでよ」
女、手を離す。
女「涙ぐんでもいいけど涙は流しちゃだめよ、せっかくのメイクが落ちるから」
嫁「…はい」
女「ティッシュ、奥にあるから持ってきてあげて」
男「わかった」
男、上手に退場。(それなりの所で戻ってくる)
女「そんなんじゃ、前ほど好きじゃないって言われたって文句言えないでしょ。あんた本当にこの子の事大切にしてるの?」
旦「はぁ?もちろん、大切にしてるに決まってるじゃないですか!」
女「あんたの気持ちじゃなくて、ちゃんとこの子の事見てあげてんのかって話」
旦「もちろんですよ、結婚までしようとしてる相手ですよ?ゆりの事は僕が1番」
女「驕るのも大概にしな。あんた余裕無さすぎ。さっきからこの子のドレス、踏んでるよ」
旦「なっ…」
旦那、ドレスから足を退ける。
女「自分でも分からないって言ってる気持ちに、他人のあんたが勝手に形作ったって意味ないでしょ。被害妄想で暴走しないで、きちんと話をしなよ」
旦「そんな事言ったって時間が無いんです、悠長に話なんて」
女「そんなにこの子と別れたいの?」
旦「は!?」
女「ここで話さなきゃ結論なんて見えてるでしょ。ねぇ?」
旦那、嫁の顔を見る。
嫁「私、迷ってる」
旦「ゆ、ゆり」
嫁「迷ってるよ」
旦「……なぁゆり、頼むって。普段はもっと聞き分けのいいはずだろ?もっとちゃんとしてるのに、どうして急にそんな大人げない事言うんだよ」
女「…大人じゃないからでしょ」
旦「はい?」
女「この子は、まだ子供だよ」
旦「何言ってるんですか、社会に出て働いてもう十分大人でしょう」
女「この子はずっと大人のふりをしてきたの。分かんない?1人で自分を育ててくれた母親に迷惑かけらんないってずっと気を張って、大人のあんたに迷惑かけないようにって背伸びしてさ」
女、嫁の頭を撫でる。
女「この子は子供だった時が無かったんじゃないの?社会に出て無理に高いヒール履かされて頑張って。まだこんなに若いのに、この子の足ぼろぼろだよ。知らないでしょ?」
男「よく見てるね」
女「たまたま見えただけ。…ねぇ、あんたの言う大人ってなに?20歳になったら大人?働いたら大人?」
旦「それは…」
女「…結婚式飛び出したわいいけど怖くなって、近くのアパートに駆け込んで片っ端からチャイム鳴らして。飛び込んだ家の2人を困らせた事に何度も何度も頭下げてさ。まだ慣れない敬語で必死にうちらの仲取り持とうとして。自分が1番不安だったはずなのに、しっかりしたいい子だよ。…でもさ、メロンソーダにアイスが乗ってるだけで目きらきらさせて幸せそうに頬張ってるんだよ、この子」
嫁「す、すみません」
嫁、少し恥ずかしそうに俯く。
女、嫁を撫でる。
女「いいの。ちゃんとよく見なよ。あんたが大切にしてるって言った女は、聞き分けがよくて社会を知りきってる、全てに責任が取れるあんたと同い年の大人に見える?」
旦那、嫁をじっと見る。
旦「……年下の、まだ幼い女性、です」
女「そう。そんな子が、泣きそうな顔で知らない男の家に飛び込んで、いの一番こいつになんて言ったと思う?」
旦「匿ってください、とかですか」
女「『私と結婚しませんか』だよ。今扉開けて初めて顔突き合せた素性も知らない男に。自分の一生を差し出すような事を言ったの」
旦「…まさかゆりが、そんな事を言えるような子だったと思わなくて」
女「ばかだね、あんたが言わせたんだよ」
旦「僕が?」
女「あんたがちゃんと向き合ってあげないから。この子は自分で自分と向き合う時間を作る為に言ったんだよ」
旦「でもだからってそんな、冗談でもそんな事を言うなんて」
女「いけない事だね、危ないし自分を蔑ろにしすぎだ。…まだ幼くてあどけなくて自分の気持ちも形に出来ないような、やっと20歳になったくらいの子に、あんたはそんな事を言わせたんだよ。この重さが、いい大人のあんたなら分かるんじゃないの」
旦「……はい」
女「ん、そんで、どうすんの?」
旦「僕は……」
旦那、嫁に近寄る。
旦「ゆり、ごめん。本当にごめん。僕は君の事を本当の意味で大切に出来てなかった」
嫁「智さん…」
旦「謝って済むような事じゃないけど、本当にごめん」
嫁「…私ね、ずっと怖かったの。智さん、本当に私の事好きかなって」
旦「そんな…」
嫁「ごめんなさい、一人で考えて不安になって、でも確認するのも怖くて……。私なんて若いくらいしか取り柄もないし、少しでもいい子のフリしてないと嫌がられるんじゃないかって思って」
旦「違う、そんな事ひとつもない!」
嫁「頭では分かってたんだけど、どうしても不安で…」
旦「……は、初めてだったんだよ」
嫁「初めて?」
旦「初めてこんなに好きになったんだ。自分から女性にアタックしたのも君が初めてだった。君は本当に魅力的で、毎日話す度に惹かれてっていつ誰かのものになってしまうかってヒヤヒヤしてた」
嫁「智さん」
旦「好きで愛おしくて堪らなくて、こんなに誰かを守りたい、一緒にいて幸せにしてあげたいと思ったのは初めてだったんだ。だからつい全部の結論を焦ってしまって…一番大事な君を置いてけぼりにしてしまってた、本当にごめん」
嫁「さ、智さん、あの、待って」
旦「どうした?また僕は何か…」
嫁「ち、違くて、あの、恥ずかしいから、そんな面と向かってさ」
嫁、顔を隠す。
旦「あっ、いや、違っ違くないけど!」
男「一体何を見せられているんだろうか」
女「黙ってなさい」
嫁「私こそ、急に沢山わがまま言ってごめんなさい」
旦「いいんだよ、僕が君を無理に大人にさせてしまったから…これからはもっとわがまま言ってほしい」
嫁「でも、困らせるかもしれないよ」
旦「いいよ、きっとそれも僕は嬉しいと感じる」
嫁「……ありがとう」
旦「本当は、式の後に渡そうと思っていたんだけど」
旦那、懐から箱を取り出す。
旦「これ…」
嫁「なに?」
旦「今日、誕生日だろ?20歳の…だから、記念に」
嫁「うそ…」
中からネックレス。
嫁「覚えててくれたの…?」
旦「当たり前だろ、君の誕生日を忘れるわけないじゃないか」
嫁「ご、ごめんなさい、てっきり私の事興味なくて忘れてるのかなって」
旦「そんなわけないだろ。…でもいつもは、恥ずかしくてこういう事出来ないし、言葉にも余り出来なくて不安にさせてたかもしれない。本当にごめんな。結婚式も君の誕生日に挙げたくて結構無理言ったんだ」
嫁「そうだったんだ…嬉しい、今までで1番嬉しい」
旦「良かった、誕生日なのに嫌な思いさせてごめん。でも僕は本当に君の事を愛してるよ。今すぐじゃなくてもいい、君が心の底からそう思えた時には、僕と結婚してくれませんか?」
嫁「……智さん!」
嫁、旦那に抱きつく。
旦「ゆ、ゆり!?」
嫁「智さん、智さんありがとう、私も愛してます、私なんかで良かったら結婚してください」
旦那、嫁を引き剥がして顔を見る。
旦「ほ、本当か?」
嫁「本当」
旦「本当に本当か?」
嫁「本当に本当!」
旦「や、やった、良かった!」
嫁「でも、今から戻って間に合うかな…?」
旦「大丈夫だよ、2人でちゃんと謝れば、きっと皆許してくれるさ」
嫁「2人で一緒に?」
旦「そうだよ、一緒に」
嫁「…ありがとう」
男「お2人とも、仲直り出来て良かったですね」
旦「本当にありがとうございました、貴方達が居なかったら今頃大切な人を失ってたかもしれません。本当にありがとうございました」
嫁「ご迷惑おかけしてごめんなさい、ありがとうございました!」
男「丸く納まってよかった」
女「ほら、早く行った行った」
旦「で、ですが流石にお礼のひとつもなしと言うのは」
男「いいんですよ、そんなのは。早く式に戻ってください」
嫁「そんなわけには」
女「…じゃあさ、たまに顔見せにおいで」
嫁「え?」
女「元気な報告でもいいし旦那の愚痴でもいいし、たまにお茶飲みにおいで。あんたもね」
旦「あ、ありがとうございます!」
女「それから、いつか子供ができたら会わせてよ。色々手助けもするし…と言っても、子供もいないアラサーだけどさ」
嫁「本当にいいんですか?これ以上何かお手を煩わせたりして…」
女「むしろ大歓迎だよ、こうみえて子供好きだからさ。ゆりさん妹みたいで構いたくなるしね」
嫁「わ、私も慧さんお姉ちゃんみたいって思ってました!!」
女「おや嬉しい。という訳だからさ、2人とも時々おいで。お茶しながら話でもしよう」
旦「はい、ぜひお願いします!」
男「はいこれ、これからヒールでしょ?足に貼っておきな、痛いだろうから」
嫁「あ…ありがとうございます!」
旦「何から何まで、本当にありがとうございました。また近いうちにきちんとご挨拶に伺わせていただきます!」
女「待ってるよ」
男「式場まで、くれぐれも気をつけて」
嫁「はい!」
旦「それでは失礼します!」
男「お幸せに!!」
女「お幸せに」
2人手を取りでていく。
扉の閉まるSE。
沈黙。
男「……あ、嵐みたいだったな」
女「そうだね」
女、ソファに座って煙草に火をつける。
男「……あの、さ」
女「なに?」
男「その、」
女「結婚の話?あの二人に触発でもされた?いいよ無理しないで」
男「無理って言うか」
女「ごめんね、変に気使わせて。気にしないで」
男「慧」
男、女としっかり目を合わせる。
男「俺、慧に話さないといけない事がある。俺が結婚を躊躇ってた理由、たくさん待たせてごめん。聞いて欲しいんだ」
女、少し姿勢を正す。
女「……なに?本当は浮気してました、とかだったら困るんだけど」
男「それは本当に神に誓ってないから!そうじゃないんだ」
女「うん、分かったよ。ごめん」
男「でも、謝らないといけなくて」
女「うん」
男「その……あのな」
女「うん」
男「慧はさ、」
女「うん」
男「子供、好きじゃん」
女「まぁ、そうだね」
男「結構出かけたりしてもさ、ちっちゃい子とか見ると、愛おしそうな顔とかしててさ」
女「うん」
男「すごい、子供好きだよな」
女「……そうだね」
男「子供、育てたいと思う?欲しいと思う?」
女「いずれ、そう出来たらいいなとは思うよ」
男「……あのね」
女「……うん」
男「子供、出来ないかもしれないんだ」
女「できない…?」
男「原因は、俺なんだけど」
女「不妊、って事?」
男「そう、なんかそう言う病気?みたいな。精子の量が少なくて、自然妊娠しにくいって言われて」
女「……うん」
男「この前さ、友達とそういう話になって、慧子供好きだし念の為って思って調べたらそう言われて」
女「うん」
男「望めないわけじゃないけど、確率は低いって」
女「うん」
男「出来ない可能性の方が全然高いって言われて」
女「うん」
男「でも慧、子供好きだから。俺も好きだし、いつか慧と子供と俺とで一緒に生きてけたらって何回も考えてたから」
女「うん」
男「自分でもショックで、信じられなかったし」
女「うん」
男「俺ずっと結婚考えてたんだよ、本当は一生慧を守ってくつもりで準備もしてて、浮かれて式場調べたりもして」
女「…うん」
男「でも、子供出来ないかもって言われてさ、話さないとって思って」
女「うん」
男「慧に、子供無理かもしれないけど結婚して欲しいなんて身勝手な事言えなくて。慧には幸せになって欲しいのにって思って、でも」
女「うん」
男「俺怖くって。俺じゃ幸せに出来ないなら、手放すしかないって分かってるのに、慧とお別れって考えたら言えなくて。慧の事、俺が幸せにしたいのにって辛くて」
女「うん」
男「だから結婚の話されて、焦っちゃって、変な言い方しかできなくて結局慧の事傷つけた。本当にごめん、でも俺、慧の事本当に大切で結婚だって考えてたんだよ、それは嘘じゃないから」
女「うん」
男「いっぱい待たせてごめん、慧の方から結婚の事とか言わせて、時間使わせてごめんな。もっと早く、慧を自由にしてあげるべきだったのに、ごめん」
間。
女「……確率は?」
男「え?」
女「0って訳じゃないんでしょ。確率が低いってだけで」
男「え、うん、かなり低いけど0じゃない」
女「妊娠なんてそれこそ授かりものだし、元から100%のもんじゃないし」
男「それは、まぁ」
女「どうしてもってなれば養子って手だってある」
男「慧?」
女「あのね、私は子供が欲しいんじゃなくて、あんたとの子供だから欲しいと思ったの。分かる?」
男「……」
女「そりゃ子供は好きだけど、好きと育てられるかはまた別だろうしね。私にとって大切なのは、あんたがいるかいないか、それだけだよ。勝手に手放すとか別れるとか言ってんじゃないよ」
男「慧、本当にいいの?無理してない?」
女「する訳ない、あたしが生粋の自由人だってあんたが一番分かってるでしょ。ぐだぐだ言ってないで、言うことあるんじゃないの?」
男「……慧、俺、慧のこと本当に好き」
女「うん」
男「家に押し入って来た知らない花嫁さんに対して、飲み物の心配したり妊娠してないかに気を使ったりドレスが汚れるからって煙草の本数減らしてた優しいとことか、全員の話聞いて答えに導ける賢さとか俺の話にそう言ってくれる人として器がでかいとことか、本当に全部全部欲しいすき、愛してる!」
女「うん、」
男「慧、こんな頼りない俺だけど、絶対幸せにするから。俺と結婚してください!」
女「…はい、喜んで」
2人で喜び合い抱きしめる。
暗転。
男「慧ー!」
明かりがつく。
女ソファに。男、下手から出てくる。
女「どうしたの」
男「ゆりさん達から手紙入ってたよ、2人とも仲良くやってるみたい」
女「そっか、よかったよかった」
男「俺らも早く式場決めないとね」
女「あんたが入念に調べすぎて候補が多くなりすぎてるのが悪い」
男「だって1生に1回だよ!?大事じゃん!」
女「はいはい」
男「あ、慧、俺にも煙草1本頂戴」
女「あーごめん切らしてる」
女、くわえてた飴を見せる。
男「え?慧が煙草切らすなんて珍し、しかも飴嫌いじゃなかった?煙草の味と混ざって不味いとか何とか」
女「嫌いだったね」
男「俺買い物行くついでに買ってきてあげよっか?」
女「あぁいいよ、しばらく吸わないから」
男「え!?慧禁煙なんて3分と持たないでしょ!」
女「失礼じゃない?」
男「どうしたの急に、健康診断でも引っかかった?」
女「いいや?すこぶる健康だったよ」
男「じゃあどうしたの」
女「んー……」
女、下腹部に片手を添えていたずらっぽく微笑む。
女「さて、どうしてだろうね?」
男「えっ…それって!」
女「何でとは言わないけど、あんたもここではしばらく吸えないと思ってた方いいよ」
男「慧!ねぇ!慧!!本当に!?」
女「うるさいうるさい、本当だよ!」
話しながら喜び合う2人。
閉幕。