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奇跡ノ種 (Miraculous Species)  作者: なみだいぬ
第四章 真実、そして現実
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第四章 真実、そして現実(2)

 ゆっくりと目を開くと、ベッドの上に寝ていた。

「ううっ……」

 身体に重力を感じる。現実世界に戻ってきたのね。

「チャロ……、トト……」

 〝ペルソナ〟、〝意識の私〟、〝シャドー〟、〝無意識の私〟、〝ノノ〟、そして〝トト〟。

 夢を見たように記憶されている出来事を一つ一つ思い出して泣いた。

 私は会いたい……。チャロであるトトに会いたい……。傍にいたい……。

 どうしようもない衝動が心の底から熱いものとして感じる。

 涙が止まらないのはどうしてなのだろう。

「そうね……」

 やっぱり私の中での気持ちは決まっていた。

 私はチャロに会いに行く!

 素早くスキニージーンズとセーターに着替えてオレンジ色のジャケットを羽織った。そして、一息つく前に部屋を出た。髪がボサボサになっていようが、化粧がくずれていようが、何も余計な事を考えてはいけない。ただ足を進めるのみ。

 二階には誰もいない。一階は食堂がざわざわと騒がしい。

 時計を見ると朝の八時を過ぎた時刻だった。朝食後に何かイベントを行なっているようだ。

 そのまま宿場の入口の扉を開こうとした時、受付の奥から突然声を掛けられた。

「ちょっとお客さん! 何をしているのですか! 勝手に開けてはいけませんよ。それに外は昨晩から吹雪いて本日は出られません」

「は、はい」

 私は下を向いて気の抜けた声で返事をした。

「おーい、今からこれ運ぶから手伝ってくれ」

 食堂の方から男の人の声がして、受付にいたスタッフはそっちに走っていった。

 私はそれを見届けてから、再び入口の扉に向かった。

 戻ってくるまでに早くしないと。

 扉の鍵は内側から簡単に外せる。後は開けるだけ。

「んんんっ!」

 普通に押しただけではビクともしない。体重を掛けて扉を押すとようやく少し開いた。

 雪が積もっているせいで開けにくくなっていた。

 ああっ、早くしないと。

 さらに体重を掛けて思いっきり扉を押すと、やっと自分が通れる隙間ができた。挟まれないようにすり抜けるように隙間を通って外へ出た。

 目の前は真っ白。昨日とは打って変わって、今まで見た事も無い豪雪地帯のような吹雪で何も見えない。私は雪に足を取られながらも進んだ。昨日歩いた道の方向を思い出しながら。


 豪雪と風を切る音が常に響いて何も聴こえない。

 ここまで雪を掻きながら進んできたので、手も足も冷えきって感覚が麻痺している。ジャケットではこれほどの雪の冷気を防げる事も無く体中が震えている。

 薄っすらと大きな山の黒い影が見えてきた。

 ようやく着いた、叶峠裾に。

 ここ願谷から叶峠を越えればチャロに会える。私はそう願っている。

 私は今から登る、チャロに会う為に。

 そして、ノノをトトに会わせる為に。

 この世の中にチャロのいない人生なんて…… こんな理不尽な世の中なんて…… 私はもういらない。

 それ以外は考える事ができない。もう正当な判断ができない状態になっていた。

 さらに深く積もった雪を掻き分けて叶峠へと進んでいく。


 ゆっくりと息を吐き出した。

 どれだけ進んだのかも分からない。

 どれだけ経ったのかも分からない。

 雪を掻く力も入らなくなり、深雪に埋もれたまま気が遠くなった。

 何も見えない、何も聴こえない、何も感じない。

 チャロ……。

 頭の中で一つの映像が浮かんできた。それはいわゆる走馬灯みたいなものなのかもしれない。



 平日の昼下がりに私はチャロと並木道を散歩していた。よく歩いて見覚えがあるような気がするが、どこの並木道か思い出しそうで出てこない。

 私達の他に誰もおらず、向こうの端までずっと見通せる。

 歩いているチャロを眺めていると、チャロもこちらを見ながら歩いていた。

 チャロと一緒にいる〝幸せ〟を感じるなぁ。

 普段は当たり前すぎて気がつかない事だけど、とても大切な幸せ。

 心が満ち足りると、足取りも軽くなった。

 所々に差し込んでいる木漏れ日と春の温暖な優しい風が心地良い。

 ちょっと眠たくなってきた。私は小さなあくびをして、天を仰ぐかのような大きな屈伸をした。

 気がつくと、さっきまで近くにいたチャロの姿が見当たらない。

 チャロは並木道の向こう端でしっぽを振りながらこっちを見ている。

 早いなぁ、チャロ。私を待っているのね。

 私はチャロの所へ並木道を駆け出した。

 チャロは嬉しそうに身体を動かしながら私の事を待っている。お互いの事を大切な存在として引き寄せられるような感覚だった。

 チャロと散歩しているこの幸せな世界が現実世界なのだと思う。

 大切な存在が亡くなってもなお、仕事をしなければいけない心の無い世界。仕事を人任せで成果のみ自分のものにする人間がいる冷血な世界。生きていても何の楽しみも無く気力を失う失望の世界。私はそんな世界で仕方なく生きるという酷い夢をみていたに違いない。

 あれは全て夢だったのね。

 ようやくこっちを向いて待っていたチャロの所に辿り着いた。

 その途端、映像が激しく乱れた。


 誰かが私の身体を揺すっている感覚があり、何故か意識が引き戻されたような気がした。

「…………りしろ!」

 吹雪の風音が鳴っている為、微かにしか声が聞こえない。

「……か! しっかりしろ!」

 誰かが私の顔を叩いているの?

「大丈夫か! しっかりしろ!」

 ゆっくりと目を半分ほど開いたが、視界がぼやけて何も見えない。グリーンとコバルトブルーの縞々があるだけ。どこかで見たことがある模様だった。スキーウェアかな……。

 何がどこだか分からない…。

 でも、どこかで聞いたことのある声。


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