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奇跡ノ種 (Miraculous Species)  作者: なみだいぬ
第三章 自分という存在
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第三章 自分という存在(3)

 膝ぐらいまでの長さの草が一面に生えている草原。天に届くほどの巨大な樹木が疎らに立っている。どこからか緩やかな風が吹いて草原がそよぎ、さらさらと風が流れる音を立てた。

 あっ、ここだわ。私、この場所に来た事がある。

 それは音の記憶と直感的な感覚からだった。

 雰囲気が少し違うのは確か…… 霧。

 その時は視界が見えないほどの霧が立ち込めていた。そして、歩いてきたショートカットの自分と遭遇した。

 確かこの辺りだと思う。やっぱり夢じゃなかったのね。

 今は霧が晴れて日陰の無く日傘が欲しいと思うほど暑い。砂利道の左右は見える限り草原地帯が続き、遠くには緩やかに丘陵した広大な景色が見える。心が洗われるような景色を眺めながら砂利道をペルソナと歩き出した。


 草原は常に微風が吹いていて心地が良い。

 この世界では不思議な事にどんなに歩いても疲れない。毎日、通勤では往復一キロメートルも歩いてないので、こんなに歩けば脚が痛くなってくるはずだ。ここでは確実に三キロメートル以上は歩いているけど、脚は全く痛くなっていない。ペルソナもコートを片手に砂利道では歩きにくいヒール付きの靴で歩いている。

 どこまで続いているのだろう。心配になりかけた頃にペルソナが声をかけてきた。

「そこがもう〝領域境界〟ですね」

「えっ でも〝意識の私〟はいなかったけど」

「ここ〝意識領域〟にはいなかったという事ですね」

「それじゃ何処にいるの?」

「たぶんですが、〝無意識領域〟におられるのではと思います」

「あっ 隣り合う領域だから〝意識の私〟は〝無意識領域〟にも行けるのね。なるほど」

「その通りです。〝ペルソナ領域〟と〝意識領域〟にいらっしゃらなかったという事は、〝無意識領域〟には必ずおられるはずです」

「うん、そうね。それじゃ探しに行きましょう」

「申し訳ございません。私は〝無意識領域〟には行く事ができないのです。〝拒絶障壁〟というのがあってここで弾かれてしまうと思います」

「あっ そうだった。ペルソナは行けないのだったね」

「はい、残念ながら」

 いつも笑顔だったペルソナは本当に残念な表情を見せた。

「ペルソナは行けないと思うけど、私は行けるのかな……」

「〝本体の自分〟が行けるかどうかは分からないです」

 私は髪をかき上げた。

「取り敢えず試してみるわ」

「貴方は〝意識の私〟に一番近い存在ですので〝無意識領域〟にも行けるのではと予想します」

 ペルソナは橋の方へ進んだが、まるで目に見えない大きなガラスがあるかのように弾かれて進めなかった。あれがさっき言っていた拒絶障壁というものね。

 私は一歩踏み出してみると、隔てるような障壁も無く先に進めた。その瞬間、フラッシュが起こって何も見えなくなった。

「わっ 真っ白で目が見えない」

 目をパチパチと何度も瞬きをしていると、ようやく視界が戻ってきた。後ろを振り返ったが、ペルソナの姿はなかった。

 私は大きな橋の上にいた。それは巨大な石を積み重ねてできた頑丈で簡単には壊れそうにない立派な橋だ。見た目には西洋のお城に掛かっている橋みたいな感じだ。その橋から下を覗いてみたが谷の底が見えない。それは雲海のような深い霧が橋の下に立ち込めていて風が吹く様子もなくどんよりと漂っている。

 もしかしたらかなり標高の高い山岳なのかな。

 ちょっと神秘的な光景に息を呑んで見とれていた。

 さて、のんびりするのもこのくらいにして橋の向こうまで歩き出した。

 太陽の光がさっきよりも穏やかになったみたいで肌に突き刺さるような照りの痛みがなくなっている。それに風が違う。湿り気の無い乾いた風に変わっていた。

 いくつもの石を並べてでできている橋なのでデコボコしているように思ったが、つまずく事もないほど平坦に整っている。

 こういうのは誰がどうやって造ったのだろう。

 ペルソナがいるとそんな事を話しながら歩けるけど、一人だと独り言になるので寂しいな。

 ちょうど橋の半分ぐらいに来た時、橋の手すりに黄色いインコがとまっているのに気がついた。

 近づくと逃げちゃうかな。

 何気なく気がついていないふりをしながら横を通り過ぎた。

 その時、黄色いインコはこちらを向いてキョロキョロと首を動かした。私は静かに語りかけてみた。

「こんにちは」

 インコはキョロキョロとしながら、まん丸い目でこちらを眺めている。

 何だか可愛い。

「かわいいね」

 インコは再びキョロキョロとこちらを眺めている。

 じっと見つめているとインコは振り返り、突然飛び立っていった。

「バイバイ……」

 ひと時の出来事だったが心が笑顔になった。

 引き続き橋の向こう岸に向かって足を進めた。

 すると、突然の向かい風が通り抜けた。進むスピードが遅くなり、誰かに押されているかと思うほどの風圧で一瞬、持っていたムートンの膝掛けが飛ばされそうになった。

「ふぅ」

 風が止むと膝掛けを脇に抱えて早足で歩いた。

〝意識の私〟がすぐに見つかれば良いけど。

 私にはペルソナのように精神人格が近くにいても分からないので、どっち方向を探せば良いのか分からない。何か良い方法はないかと考えてみたが何も良い案が出てこない。

 ひたすら探し回るしか方法はないのかな……。

 私の精神世界ってこんなに広かったのね……。

 やっぱり一人は心細い……。

 現実世界にちゃんと戻れるのかな……。

 次々と出てくる不安な事を考えているうちに橋の袂が近づいてきた。この辺でまたフラッシュがあるに違いない。

 目を瞑りながら踏み出すと瞼を通してピカッと光るのが分かった。それでも暫くは目が開けられず、顔をしかめていた。

 なんだか焦げ臭い匂いがする。田舎で野焼きをしているかのように草や木が焼け焦げた匂いだ。

 目を開くと見渡す限り焼け野原が広がっていて真っ黒な地面しか見えない。

 これ全部燃えた後の炭だ。そして、空が泣いているかのようにしとしとと雨が降っている。雨を凌ぐのに持っていた膝掛けを頭から被った。

 また一段と気温が下がった気がする。雨に濡れて体温が奪われただけでなく、秋の気候に似てひんやりとした風を肌で感じた。

 〝意識の私〟はどこにいるのだろう……。

 足元から細い一本道が続いているので、それに沿って進んだ。そして、できるだけ焼け野原を見渡しながら歩いた。〝意識の私〟を見逃さないために。

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