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近代落語  作者: 杜屋亭
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節分縁起 短尺版

 本日4日は節分でございまして、おそらく皆さんが生きている間では最後であろう遅れ節分というので、様々な商戦が街を賑わせております。縁起は演技にも通じますから、節分・立春といった節目に験を担ぐのは、我々噺家にとっても大変重要であります。こと縁起といえば杜屋亭はアメリカ人から帰化した父 杜屋亭捨出 《もりやてい すていつ》の代に始まりますが、私は生まれも育ちもここ日本でございます。もちろん日本食が舌に馴染んでおりますから、私の縁起の一つである「米」の字が雄大さそのまま、お腹に詰まっている訳でございます。

 とはいえ日本人も縁起物と呑み食いにかける情熱は昔からすさまじいものがありまして、この時期の恵方巻き、恵方呑みなどは縁起からして胡散臭いにもかかわらず、愛されて長くになります。私の友人にも胡散臭い縁起物を追い求める物好きがおりまして、ある年明けに、



「正月はおせち、お屠蘇とみな言うが、やっぱり正月はカレーだよ。これに限る」

「どうしたヤベさん、お正月からヤケに庶民的な食べ物じゃないか」

「いやさ、暮れに体調崩しかけておせちの用意とかできなかったもんだから、何か元気の出るものを食おうって近くのカレー屋さんに行ったのさ。スパイスたっぷりで薬膳みたいなもんだから、年明けから体ポッカポカで早速霊験あらたかというわけだ」

「なるほど?でもわざわざ正月早々に張り切って食うほどのものでもあるまい」

「ところがどっこい、これが張り切って食うほどのめちゃくちゃな縁起物よ。カレーといえば福神漬け、七口食べればそれだけでお手軽七福神詣だ。となりゃ福神の付いたカレーは立派な縁起物だろう?」

「たしかに」

「しかも美味い。一説では八福神と言うこところもあるから、当然八口目が入る。美味い。さらにだ。信仰される福神は海外にもいるし、正月に詣でる神様は他にもたくさんいると気づいてな?思いつく限りを挙げていったら壺が空

「べらぼうめ二度とやるんじゃないよそんなこと」

「ま、それで東に福神漬けと来りゃ西にらっきょうだ。こちらもラッキーよ、と係って良いときたもんだから壺だ」

「お店の方に謝ってきなさい」


といった話でその場は終わったものの、爾来カレーを食べるたびに福神漬けを盛って験を担ごうとするのはもはや性といって良く、まことに仕方のないことでございます。

 ところが今年、このヤベさんに久方ぶりに会いまして曰く、


「正月はおせち、お屠蘇とみな言うが、やっぱり正月はラーメンだよ。これに限る」

「どうしたいヤベさん、この前はカレーに七福神とか言ってなかったか?」

「言った。言ったんだけど年の瀬にラーメン食ってたとき、あー美味えなぁ、こんな美味いもん発明した人は天才だ、と思って調べてみたんだ。そしたら日清食品創業の安藤百福は百の福で縁起物、しかも今年百周年ときた。こら目出度いと思ってその日のうちに100袋買って二年参りという算段よ」

「・・・飽きない?」

「飽きる」

「・・・塩分ヤバくない?」

「ヤバい」

「・・・もしかしてその鞄がパンパンに膨れてるのって」

「幸せのおすそ分けってやつだ」

「・・・」

「5袋で、どうだ?」

「5袋ならまあ、家族で食べれば良いか」

言うなり奴さん、ホッとした顔になって鞄からラーメンの袋を1つ、2つ・・・

「待て待て待て大袋5じゃないんだよ1つで小袋5食分だろが」

「お前なら食べれるじゃん」

「家族全員が俺体型じゃないんだよ」

「でも俺が買ったのってこれ100」

「三年参れ」



そんな話のあったのを思い出して、今朝はラーメンを家族で食べながら福の話をしましたところ、愛煙家父、食後おもむろにタバコを取り出して、

「はー、至福の時」

「父さん、喉に悪いんだからタバコそろそろ止めようよ」

「食後に一服って言うだろう?それに初夢口上に五煙草とあるくらいの縁起物だ、これに勝る福はない」

そら一服違い、一服盛る方だってんで、杜屋亭福縁起となっております。

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