わからないことだらけ
最後中途半端になった気がします
「ティナの奴、しくじったわね」
ラグフォール王国の王都にある義勇兵ギルドの一室で、丸テーブルに備え付けられた椅子に座っている一人の少女がつぶやいた。
時刻はまだ昼下がり、昼食を食べていれば少し眠くなってくる頃合いの時間だが今日は少し違った。
ゲートが開かれたと3日前連絡が入った。しかも稀に開くゲートとは少し違う性質の物らしい。
「へぇー、ティナちゃんとアイナちゃん失敗しちゃったかぁ」
もう一人、こちらも同じく椅子に座り、丸テーブルの上に置いてあるお皿からクッキーを手に取り頬張る少女が居た。
「詠唱をはぶいて即席の転移魔法を使って帰ってきた。つまり、状況は芳しくない」
魔法と言うのは基本は大きく分けて三つで、無詠唱で使える術魔法、魔法陣を必要とする陣魔法、詠唱を必要とする詠唱魔法だ。他にもいくつかの魔法は存在する。
今回の転移魔法は魔法陣を必要とし、また詠唱しなければならないため、かなりの上級魔法だ。
ティナの場合、陣はナイフに仕込んであるため、転移したいところにあらかじめマーキングしておけばどこに行ってもすぐ戻れる優れものだ。だが詠唱はしなければならない。もし怠れば魔力の循環が悪化し、大量の魔力を使用し命を落としかねない。ティナであればそこらへんは大丈夫だろうが、それでも無理やりに転移しているため魔力を使いすぎただろう。
「多分アイナ。あいつ、ゲートが開いてからイライラしてた」
「…もぐっ……ごくん……私も同意見だよ、お姉」
クッキーを頬張っていた少女は、向かいに座る少女を姉と呼んだ。
そして、その部屋にいたのは二人だけではなかった。
窓側の大きな机がおいてある所に、窓から差し込む日の光を背に椅子に座っている少女がもう一人。
「僕の姉さんがごめんね、ユキノ」
「全くよ、説得できなかったティナもだけど」
「ははっ、ま〜ティナちゃんに話し合いは向かないよね〜」
会話が終わった頃を見計らい、窓際の少女はスクッと椅子から立ち上がりこう言った。
「それじゃあ三人、いや、六人を迎えに行こうか」
その言葉に答えたのはさっきまでクッキーを頬張っていた少女だった。
「あれ、増えたの?」
「多分、協力者がいると思う」
その言葉に答えたのはユキノと呼ばれた少女だった。彼女はこの件について少し疑問に思うことがあった。
「敵って事は? そもそも、今までゲートが開けば必ずそのことを考慮して来たはず。それをなんで今回はティナとアイナだけ? そもそもいつもならもっと…」
窓際に立っている少女はうっすら浮かべた笑みを崩さぬまま、さも当然のようにこういうのだった。
「感だよ」
「だと思った。けどレイリーが感で物を言う時はロクなこと起きない」
ユキノは窓際でうすら笑みを浮かべている少女の事をレイリーと呼んだ。彼女と付き合ってきた十数年を思い出す。「感」と言う言葉を口にしたなら、必ずと言っていいほどロクでもないことが起きた。例えば、レイリーが「明日は雨の気がする」と感で言ったなら、次の日は雨どころではなく、大きな嵐がここ、ラグフォール王国に到来した。しかも過去例を見ないぐらいのものがだ。その日はギルドのメンバー総出で街の人たちを避難させた。
またある時は、街の外れにレイリーと二人で近くの森に森林浴に行ったところ。「小型の獣が来るかも」と感で言った場合、山脈の奥深くでしか見かけないような大物の獣と出くわした。あの時はまだまだひよっこだったので倒すのに苦労した記憶がある。
「そんなことはないと思うけど。ソラノ? どうしたのそんなに汗かいて。今日はそんなに暑いかな?」
「あっはははは…………」
さっきまでむしゃむしゃとクッキーを頬張っていたユキノの妹のソラノは、苦笑いと冷や汗が止まらなかった。手に持ったティーカップの中身が軽く波打っている。どうやらソラノも昔のことを思う出してしまったらしい。
「さて、ソラノ、ユキノ。時間もないしそろそろ行こうか。今頃もうついてる頃だよ」
雑談の雰囲気とは打って変わって、三人は静かに目的の場所に足を向けた。
+++++
おかしかった。
周りの風景がまるっきり変わっている。
まず目を開けて飛び込んできたのが一本だけ生えている大樹だった。しばらく旅をしながらなんとなく目に入っていた大きな木とは比べるのもばかばかしいくらいの大きさだ。
地面を覆うのは草と野花。だがところどころに生えていないところがあり、そこにあったのは茶色い土の地面だった。
それと驚いたのが、ここは屋外ではなかった。見渡すと、ここは大樹がそびえたっていても、まだまだ天井までは余裕のあるような円筒の大きな空間だった。
差し込む明かりは、大樹の真上に位置する天井の部分がくりぬかれており、そこから差し込んでくる光だけだ。空間の中心から壁側に行くにつれて薄暗くなっていく。だがそれがかえって綺麗と思えた。
壁は無機質な灰色で、一面に色が変わることなく作られており、壁の細い線は繋ぎ目だとわかる。
しかしここはいいところだ、綺麗な野花が育ち円筒の中心に位置する大樹は真上から来る光が直接当たり、綺麗で、幻想的な世界がそこにはあった。広い空間をすこし見て回りたいとも思った。
まあ最も、こんな状況でなければの話だが。
「そろそろこれを解いてくれてもいいんじゃないかしら?」
シーニィがジャラ…と、腰に巻かれたままの鎖を揺らして見せる。話は戻るが、ここはさっきまでいたコメット村の大通りではない。ではここはどこなのか。それもわからない。
「転移魔法に………ラグフォール……ということは…!」
エスカが一人でこの状況に納得がいったようだ。頼むから順を追って説明してほしいのだが、そういうわけにもいかない状況だ。
「ア、アイナちゃ~ん、鎖解いてあげて~」
なぜか草原に寝転んで呼吸を整えているティナと言う少女。片割れの少女は、その言葉を聞くなり大人しく鎖を解かした。
解かしたのだが…。
「あたしのがまだ解けないってことは、あたしのだけほどき方忘れちゃった? それとも…」
シーニィの鎖だけ、ロサ、グオネス、エスカとは違いいまだきっちりと絞められたままだった。他を解いて一人に集中できるようになったのか、縛る力が少し強くなった。
「あなたは…だめ」
いったいシーニィにどんな恨み妬みがあるのか。前も言ったがなんでここまで嫌われているのだろうか。
「アイナちゃ~ん、ほどいてあ~げ~て~」
ティナが草原にうつ伏せになりながら言う。が結果は変わらず。
「嫌」
たった一言で仲間との会話を終わらせてしまった。
ティナは「そんな~」と言い残し、がくっとうつ伏せに寝そべった。どうやら相当疲れているようだ。
「シーニィ!」
グオネスが手に持った剣で鎖を断ち切り、ガキンと言う音がして巻き付いていた鎖が地面に落ちた。これでようやく自由に動けるようになる。
鎖を操っていたアイナが驚いている、ように見える。表情をあまり変えないのでわからない。
ともあれこちらは四人、相手はなぜか一人が倒れ、もう一人が残るだけ。
数的有利はこちらにあった。
「アイナと言ったか?」
不意にエスカがアイナに話しかけた。そういえば戦ってる中で小耳にはさんだ程度だが、ギルドがどうとか言っていたような気がする。
「…そう…名前は?」
不愛想に答えると、エスカの名前を聞く。
「エスカトン・ツァールトハイトだ。その腰に下げている懐中時計は本物か?」
これのこと? と言わんばかりに懐中時計を手に取り、前に突き出す。
開け閉め可能な蓋の上に、盾の前で交差する二本の剣、その真ん中に縦に彫り込まれた槍がかたどられていた。
「見間違えようもない、ギルドの紋章だ。だが何でシーニィの事に義勇兵ギルドが首を突っ込む? シーニィがこちらに来たと言う三日前は、近くにいた俺も膨大な魔力を感知しなかった。それが何で海の向こうの大陸から遠路はるばるギルドの使いが来る。それも迷いもせずに直接シーニィのところへだ」
「そのことは私が説明するよ~」
声の主の方向へ首を向けると、うつ伏せになったティナの姿があった。これから説明するというのにそんなので大丈夫だろうか。
すると、まあうつ伏せに説明するということはないらしく、起き上がってあぐらをかいた。
「まず魔力を感知できなかったについてだけど、まずそもそもブランシュさんを転移させた人が魔力を使ってないの。そもそも人じゃないっぽいんだけど、そこはあたしもよくわかんない」
「そこが重要だったりするんだが、それでは話が違う方向に言ってしまうな。ギルドが関与したのは何故だ?」
シーニィとしてはそっちの方が興味はあるが、今は個人を優先してはいけない時だと押し黙る。
「そうそこ! そこを説明すれば今のこの状況を説明できる!」
ティナがこちらに指さして笑顔で言う。このギスギスした空気が終わるのがうれしいんだろう。
だが残念なことにこの空気はしばらく続くことになりそうだった。
「ティナ、そこまで」
声をかけた人物は、いつの間にかティナの後ろに立ち、ティナを見下ろしていた。
そして腰に力をためて右手を振り上げ、ティナの頭に拳骨を落とした。
「痛ったい!? ユキノ、今のは痛ったいよ!? ていうか何で殴られたの!?」
「ティナが余計な事しゃべりそうだったから」
ティナはいつの間にか後ろに立っていた人をユキノと呼んだ。けっこうな威力の拳骨を落とされても冗談で済ましているところからして、相当仲がいいと見える。
そしてシーニィは気づかなかった。
いつの間にか横にいた小さな少女を。
いきなり不意を突かれ悪寒が走り、反射的に自分のいたところから飛び去る。
「いい判断だね、さすが戦いなれてるって聞くだけはある」
「いつの間に。それに、聞いたって誰に…」
「そうだね。はてさて何から話せばいいのやら、とりあえず僕の執務室へ行こうか」
言い終えると同時に指をぱちんと鳴らす。するとどうだろうか、又自分の周囲の景色が変わった。
目の前にいるのは自分達を飛ばしたと思われる小さな少女とアイナの二人だけ、丸テーブルが置かれ窓際には大きな机と椅子があった。
「また転移……」
一回目ほどの衝撃はなかったが、それでも驚かないのは無理がある。
「レイリー」
ガシッとアイナがレイリーと呼んだ小さな少女に抱き着く。身長に差があるためか、アイナが少しかがんでいる。いったいどういう関係なのかは気にならなくもない。
「あ、ユキノ、紅茶を飲まずに行っちゃってたか」
もう冷めちゃったろうな。などと今はなすことでもないような気がする。
アイナに至っては頬まですり合わせにかかっている。
「姉さん、そろそろ話がしたいからのこうか」
「嫌」
「はは~こまったな」
なんてのんきなことを言うものだから忘れ去られたのかと思っていた。
「やあ、シーニィ・ブランシュ。ハイルは元気だったかい?」
自分の姉そっちのけで話に入ろうとしている小さな少女をみて、シーニィは調子を狂わされてばかりだったが知らない人の名前が出たところで、やっと我に返った。
ご一読ありがとうございました




