やつあたり
約一か月枚に更新していますが、目標は週二での更新です。
おっと、何やらうるせえと思ったんで目ぇ覚ましたら、早速こっちのもんにお嬢の事がばれちまってるじゃあねえか。
そして何やら髪の長い嬢ちゃんの方は今にも喧嘩吹っかけてきそうな勢いときたもんだ。こりゃあひと悶着あるかもなぁ。
鎌の嬢ちゃんは身構えてるだけ、耳の長い兄ちゃんもおんなじか。
赤い兄ちゃんにいたっちゃあどこぞの婆さんの手助けしてるじゃあねえか。いやいいねえ、あんな若いのはどこの世界にでもいるもんなんだねぇ。関心関心!
そうじゃねぇお嬢の方だ、なんかできることはねぇか……つってもこちとら呼び出してもらわにゃ役にはたてんしなぁ。
それに、わしを呼び出したらいいことばっかりてことでもないんだわなぁこれが。
はてさてどうなることやら。
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あの小柄な少女は今、何といった?
突然のことで自分の頭がもうどうにかなるくらいの衝撃を受けたような気がする、だが確かに少女はなんの迷いもなくシーニィを見て「あなたが別の世界から来た人?」といったのだ。
迷った末シーニィはもう一度聞き直す。
「………ごめんなさい、もう一回言ってみて、少し自分でも信じられないから」
願わくば、この出来事はむじゃきな少女たちのイタズラと思いたい。
だがこの願いが叶うはずもなく、送られてくる少女の言葉は嘘偽りの無いものと確信せざるを得なかった。
「うん、何度でもいうから。あなたは別の世界、異世界から来た人?」
「ふざけて言ってるわけじゃ、ないわよね?」
「もちろんだよ、ふざけてちゃこの職業勤まらないしね!」
そうやって笑顔で満足げに言う少女だった、職業が何かはわからないがその恰好がすでに遊んでいるような気がする。なにせお腹丸出しなのだ。
だが少なくともこの少女と、その横にいるまだ一言も喋っていない長い赤髪の大人しげな女も、遊びで言ってきている可能性は限りなく少なくなった。
高くはない、だが決してゼロではない可能性に、シーニィはただ平常を装い不安を隠すだけだった
そしてもちろんこの二人組への答えは。
「人違いよ。だいたいあんたたちは誰なの?」
かまをかけてみる。まだ嘘をついている可能性が0では無い。だがシーニィはそんな可能性は頭の済においておき、自分ではなぜかわからないのだが“これ以上問題を抱え込みたく無い”と言う気持ちが強かった。
「嘘、無駄」
ここで初めて赤髪の女が喋った。なぜ片言なのかはわからないが、敵意を向ける顔でこっちを見てきた。
「ちょっとアイナちゃんなんでそんなに攻撃的?!てゆうか嘘なんてついても無駄だからね、シーニィ・フランス!」
「シーニィ・ブランシュね?」
小柄な少女に盛大に突っ込んでしまった。
「おい、お前達は。どこでシーニィのことを知った?お前達は何者だ。何も知らない俺達が聞いてもいまいちピンとこないんだが?」
「話し合いするんならまず名乗らなきゃ、ね?」
すっかり自分の世界に入ってしまったシーニィは横にいたエスカとロサからの発言に少し遅れて気づいた。
エスカの疑問はごもっともで、ロサも横であの二人を睨んでいる。遠くからはお婆さんを送り届けたグオネスが異変に気づいてこちらに向かっていた。
二人組のうち、無口な方はアイナと呼ばれていた。今なおもシーニィただ一人を睨んでいる。
もう一人の小柄なほうがこちらの気を知ってか相方のフォローを入れながら苦笑いで名乗った。
「そっか、いきなり話しかけて名前言わないのはなんか悪いよね。私はティナ、ティナ・フレスコだよ! ごめんね〜、それでこっちの人は……」
「嫌」
「なんで?!」
片方は名乗るのを拒否した挙句、敵意むき出し。もう片方は相方が、なぜそんなに不機嫌なのか分からずあたふたしている。
「名乗る…嫌」
いちいち片言なのが腹が立つ。初対面の相手にここまで嫌われたのは(記憶が定かではないが)はじめての経験だ。
「いい加減に…!」
しびれを切らしたロサがいまにも飛びつかんばかりに叫んだ。事情を知っている故から来る怒りだろう。
しかし止めたのは以外にもシーニィだった。
「ロサっ!」
仲間の名前を呼んで、手をロサの前に出して止める。それに反応し、ロサは渋々引いてみせた。
「ロサ! 大丈夫? 何かされたの?」
「なんでも無い、ちょっとイラッときただけよ」
騒ぎに駆けつけたグオネスがロサを気遣う。こういう行動は今思えばロサに行為を寄せている由縁なのだろうか。
「男を取り合ってるのかい? お嬢ちゃん達!」
突如として野太い声が周りに響いた。
建物の隙間からぞろぞろと現れたのはガラの悪い男たちだった。髭はボウボウに伸ばしっぱなし、体は薄汚れている。ひと目で一般人ではないと分かる
「あんた達、昨日私達の部屋を覗いてた奴らでしょ」
「ご明察。てことはこれから起こることも想像できるよな〜?」
正体はどうやら昨日宿の部屋を覗いていた連中らしい。ざっと数えただけで10人以上いた。全員武器を持っている。どれも小振りで、そこら辺に売っている果物ナイフを持っているものもあった。
と、ここで囲まれた六人の反応はと言うと。
「「「「「「はぁ……」」」」」」
そしてならず者の質問に答えたのは、今一番イライラしているであろうシーニィだった、
「ええ、容易に想像できるわ」
皆一斉に武器を構えた。
正直、さっきの話の中で鬱憤が溜まっていたシーニィは、憂さ晴らしできる相手が出てきてくれたことが助かった。なにせいい加減イライラも限界だったから。
「みんな手を出さないで、あんたたちもよ」
「程々にしときなさいよ」
「わかってるわよ」
ロサからくぎを打たれた。元々そんな似暴れるつもりもないのだが。
「あの〜、ブランシュさん? 流石にこの人数を君一人でやるのは無理なんじゃないかな?」
ティナと言うやつが何か言っている。一人でやると言ったのはただの憂さ晴らしだ。いったい誰のせいでこんなにイライラしてると思ってるんだ。
「いいから、黙ってみてなさい」
あの夜、闘い方の記憶が吟醸から流れてきた。あとで事情を聞き出すと言ってあったのだが、あれから呼びかけてもうんともすんとも言わなくなった。どうゆう風の吹き回しだ、前は隠し事なんてしなかったように思える。記憶が曖昧なので定かではないが。
「おい姉ちゃん、あんまり息巻いてっと俺らの慰み者になっちまうぜ?」
周りの取り巻きが笑う。よし決まった、こんな外道共に手加減は不要だ。おとなしく技の確認の実験台になってもらう。
「つべこべ言ってないで早くきなさい…5秒だけ数えてあげるわ………5」
その言葉を聞いた男たちが一斉に笑い始めた。腹を抱えて笑うもの、笑いすぎてヒーヒー言っているもの。こいつらは笑い方も一つでもちゃんとできないものか。
一人の丸坊主の男が嘲笑うかのように言う。
「あひひひ、まじかよ姉ちゃん本気か!?」
「…4」
一人の小太りの男が少しイラついたかのように言う。
「ちっ、おい女ぁ、あんまり俺らなめてっと…!」
「…3」
周りの声がうるさいが、シーニィいたって冷静である。逆に自分の攻撃で家屋が吹き飛んでしまわないよう、力をコントロールすることに力を割いていた。
両手両足を意識する。今となっては、こんな技どこで習得したのだろうかと思うくらいバカげているのだが、記憶通りだとそこそこ格闘では使えそうなので試した。力を入れたと感に、両手両足がバチバチと音を立てて蒼い雷を放った。
一人の男が驚きを見せる。
「な、なんだありゃあ?! どうなってやがる?!」
「…2」
一人の男が叫ぶ。
「この女何かしでかすきだ! 今のうちにたたんじまえ!」
「…1」
四方八方から敵が襲いかかってくる。普通の女性ならこんな状態、立ってすらいられないだろう。
普通ならあり得ない。ありえないことなのだが、ことシーニィに至っては、この一対多の圧倒的不利の中で。
…………笑っていた。
恐怖からおかしくなっているのか。否
では傷つけあい、互いに殴り合えることを喜んでいるのだろうか。否
彼女は、この圧倒的不利の中で一方的に攻撃できると踏んだ。その余裕から出る笑みだった。
周りからは巨躯の男たち。立ち向かうのは自分ひとり、そこからの勝ちがシーニィには見えていた。
彼女が使っている技は四肢を強化する、いわば術式だ。両手が山雷、両足が野雷と言う術式だ。どこで覚えたかはこの際どうでもよかった。
そして、後にこの戦いを見たものは口をそろえてこう言った。
「…0……さて、楽しくいきましょうか」
あれは一方的な蹂躙だったと。
+++++
「アイナちゃん、あれなんだと思う? 魔法か魔術?」
ティナ・フレスコは疑問に思っていた。今目の前で繰り広げられている戦いは、一方的な展開になるだろう。何せシーニィ・ブランシュの姿がまともに見えているのは私達二人と、あとはあちらの連れの三人だけだろうから。動きが速すぎて見えない敵に、約20人くらいのならず者達が勝てるわけがない。彼らはそうゆう技術を持ち合わせていないからだ。
「違う。……少なくとも……術魔法じゃない」
術魔法とは、詠唱を必要とせず使用したい魔法の名前を叫べばすぐに発動できる軽い魔法の総称のことで、少し訓練しただけでも才が有れば誰でも使えるようになる。故に時間消費も少くすみ、すぐに行使できるのだが、弱点として威力が弱い。
「だよね〜、自己強化みたいなものだろうけどそれにしては威力が強すぎるし。…それに名前叫んでないしね。だとしたらやっぱり…」
頭に手を当てて思考するティナの横でアイナが頷きこう言った。
「異界の…術」
「だと思うよ、私も」
今目の前で暴れているシーニィ・ブランシュが異世界人と言うことはもはや確定したも同然だ。
さてどうやって連れて行くかだが、なぜか不機嫌にさせた現況が横にいる中で、とても「私たちと一緒に来てもらっていい?」なんて。
「言えっこないよ~」
「…何が?」
(アイナちゃん…そんなきょとんとした顔でこっち見ないで……今の悩みの種はアイナちゃんだよ?)
この密かな抗議は叶わない夢だろう。
+++++
「あれ、あの時の夜よりも格段に強くなってるわよね?」
ロサはシーニィと出会ってから何度か驚愕した回数を今日も一つ更新していた。
てっきりシーニィは長剣をもって戦うのかと思っていたが、まさかの肉弾戦も可能だったとは。
「それにしても手慣れてるね、シーニィは」
「ああ、多分あれもあいつらが言っていた異世界でのシーニィの姿なんだろうな」
グオネスとエスカが息をのむ。
「でしょうね。今のシーニィと差しでやったら、私も正直勝てるかわからないし」
この三人の中では、実はロサが一番の実力者だ。そのロサがここまで言うのだからおそらく遠距離専門のエスカは手も足も出まい。
それよりも八つ当たりをされている屈強な男たちには申し訳なくなる。
「エスカ、あの二人どう思う?」
ロサが初めから疑問に思っていたことをエスカに話した。シーニィのこの世界での出自を本当に知っているのだとしたら、それはシーニィにとっては自分に起きたことをきっと効かずにはいられないだろう。
「そうだな、まず前提としてあの二人がシーニィの事をすべて知っているとなれば、まずシーニィが話していたチャラ神とやらとの関係が疑われるな」
「違うそこじゃない」
ロサが聞きたかったのはそれじゃなかったらしい。
ロサは今も二人の方向をジッと見ている。正確には腰についている懐中時計に刻まれた模様だった。
盾の前で交差された二振りの剣、縦に彫られている槍。
ここからではあまりよく見えないがその模様は確かに。
「…! 義勇兵ギルドの紋章か」
と言うことはあの二人はギルドの人間と言うことになる。しかも相当強い、シーニィの動きをちゃんと目で追えている。
「謎は深まるばかりね」
ロサが言った言葉はギルドの二人組とシーニィ、双方に言えることだった。
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暴れた、目一杯暴れた。
目の前の光景は、うずくまる男たちと壊れた家屋だった。そういえば家屋に吹き飛ばした奴もいた気がする。
シーニィの周りには立っている人間は居なかった。少し慣らし運転のつもりだったが、思いのほかやりすぎたらしい。
「あんた達、もう終わり?」
無様に転がっているリーダーらしき男の前に立つ男はずっとおびえた目でこちらを見ている。
「ひっひい! 逃げろ~~~~!」
その言葉を境にならず者たちはどこかへと消え失せていった。
その場に残されたのは、ティナとアイナとか言う二人組と、ロサ達だけだった。
もういっそあの二人もやってしまおうか。いやいやいやそれはさすがにないな。
けど一応聞いておこう。
「どうするあんた達も暴れてみる」
「その必要はない」
帰ってきたのはアイナとか言う奴の返答と、鎖のお縄だったロサ達もやられている。
「な?! あんた達何する気!」
「ごめんちょっと大人しくしててね、ブランシュさん達」
「いい加減やっていいことと悪いことが…!」
「それブランシュさんには言われたくないよ!」
そういわれては口を紡ぐしかない。なにせ家を半壊させてしまった。
「くっ!はな…せっ!」
「無駄」
「あぐっ!」
「「グオネス!」」
鎖を操って縛っているのはアイナとか言う女か。心底むかつくやつだ。グオネスは抵抗むなしく縛り上げられ、ロサとエスカが叫ぶ。
「くっ…! あんた達!」
「ごめんねブランシュさん!」
ティナが腰にぶら下がってる大きめのナイフを取り出し地面に深々と突き刺した。
「転移魔法発動! 転移、ラグフォール!」
瞬間、目の前が真っ白になった。
最後まで読んでくださりありがとうございました。