実は兄弟、胃が……
どうも、なんか調子悪いなーと思って病院行ったらインフルエンザでした。
医者の人達も言い慣れてるんでしょうね、流れ作業みたいに「はい、あなたインフルね~」って言われました。
~シーニィ・ブランシュ~
早朝から迎えに来た馬車に乗りギルドへ向かう。途中の道はあまり舗装されていないので、ガタガタとくる揺れで段々と目を覚ましていく。
届いた手紙の内容を、昨日エスカが読んでくれた。
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シーニィ・ブランシュ、ロサ・エンハンブレ、グオネス・ツァールトハイト、エスカトン・ツァールトハイト以上四名は、早朝にギルドの団長室まで。
受付の人には話を通しているからね、待ってるよ。
義勇兵ギルド[アート]団長 レイリー・イコルシアより。
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「とりあえずどういう経緯で俺たちの名字を調べたのかが気になるところだな」
気になるところはそこなのか。
向かいの席に座るエスカは本気で考え込んでる。なぜこんな朝早くから割とどうでもいいことを、そんなに真剣に考えられるのか。
エスカの隣に座っているグオネスはコクリコクリと首を落としたり持ち上げたりしている。きっと朝に弱いんだな。
突然、ガタンと馬車が大きく揺れた。
「ふにゃ……」
うたた寝をしていたロサが、振動であたしの膝に頭から乗っかってきた。
起き上がると思ったが、何やら膝の上でもぞもぞと頭を動かしている。
「ちょっとロサ起きて、くすぐったいったら」
しばらくすると何やらシックリ来たのか、頭を膝の上で固定してピタリと動きが止まる。
「スー………スー………」
ああ、これは完全に寝息だな。ロサはあたしの膝を枕代わりにするつもりだ。
「すまない、諦めてやってくれ。そうなったロサはてこでも動かん」
エスカも少々困った顔していた。
だが、普段はそっけない態度を取っているロサが、寝ているときは幼い子どものような寝顔をしているので、このままかわいい顔を堪能するのも悪くない。
「て言うか、あんた達って年いくつなのよ。ロサなんか10歳って言われても信じるわよ?」
実際ロサはそこまで幼く見える。
「ははっ、冗談はよしてくれ、ロサはこう見えても今年で16歳になった。俺は今年で20歳で、グオネスは18歳だ。因みに、国によっては違うが、大体が20歳で成人だ」
「じゃあこの中で成人しているのはエスカだけって事ね」
「ま、そうなるな」
なるほど最年長か。だから旅の金銭管理や他の決め事もエスカが努めていたのか。一言で言うと苦労人だな。
「ロサが16歳っていうのはいささか驚いたわね」
「ああ、流石に幼子までは行かないが、それでも一人で街を歩いたら迷子と間違われるときがある。本人はそのことにご立腹らしい」
エスカが困ったような顔でロサを見る。膝に当たっている髪の感触がくすぐったい。
「そういえば、昨日の夜は眠くて気にならなかったんだけど、エスカとグオネスって兄弟なの? ほら、確かどっちもツァールトハイトって…」
するとエスカは、今頃かみたいな意味なのだろうか。少し苦笑いを浮かべる。
「最近思うんだが、ロサもそうなんだがシーニィも大分マイペースだな…」
エスカはコホンと咳払いをし、話を続ける。
「俺は幼い頃、両親が死んで路頭に迷っていたところをグオネスの両親に拾われたんだ。以来俺は、ツァールトハイト家の養子になった。いい思い出だよ、家族というのは温かいんだって実感できた」
しまった、と思った。エスカが話していくに連れ、段々と、悲しい顔になってくる。それでもあたしを心配させまいとしているのか、無理矢理に作り笑いをしていた。
「ごめんなさい、辛いこと思い出させちゃったわね」
「いや、構わない。昔はそうでもなかったが、今は大部楽になったよ」
すごい思い空気になった。こんな重い空気の中で寝られる二人はすごいな。グオネスはただ目を瞑っている感があるが、ロサに至っては文句なしの熟睡だ。
何か話題を変えなければ。
「そ、そういえばギルドはまだなのかしら。歩いてこれたんだからそんなに時間は掛からないと思うんだけど」
すると馬車の窓をコンコンと叩く音が聞こえた。
馬車の窓にかけていたカーテンをペラッとめくる。
底には今朝から今まで馬車を走らせていた、白くて長いあごひげが特徴のやせ細った初老の男が立っていた。
「ついたぞ、お前さんら。ギルド[アーラ]の正門前だ」
窓際でも聞こえるくらいの声を張り上げた初老の男が、そのまま後ろに振り返る。
底には、昨日シーニィが通った大きなレンガ作りの門があった。
ただ違うのは、その門を出入りする人達の多さとその格好にあった。
さすが義勇兵と言ったところか、様々な武器や魔法の杖を持っている。きっとこれから仕事を受ける人や、今から仕事を探す人たちばかりだろう。
ギルドの仕組みは昨日、簡単にフリージアさんに話してもらった。
ギルドは言わば仲介屋で、各々各方面から依頼を受け、それをギルド加入者の義勇兵に提供すると言うものだ。義勇兵は報酬の一部をギルドに納めることによってギルドからの様々な支援を得られと言うわけだ。
ロサとグオネスを起こして馬車を降りる。流石に馬車を降りて日の光をあびれば自然と目が冷めてくる。ロサは両手を空に上げ、グッと背伸びをする。グオネスも同じことを知る。
「お前さんら、ギルドは初めてかい?」
初老の男が話しかけてくる。初めてかは微妙なところだが、取り敢えず話を合わせておく。
「ええ、初めてよ? それがどうかしたの?」
「今、ギルドは少々荒れておるらしい。おぬしら新参者じゃろう? 少々辛かろうがしっかりやれよ」
それだけ言うと、初老の男は馬車を走らせ街の人混みに消えた。
「今の何だったのかな?」
「さあね、あいつが団長っていうのだけでまともじゃないんだろうなとは思っていたけれど。そう言うグオネスは襟、立ってるわよ」
「おっと」
グオネスは慌てて赤い上着の襟を直した。
「へぇ、ここがギルド[アート]の総本部なの。初めてだけどいかにもって感じよね」
「怖気づいたのロサ?」
あたしは意地悪そうに笑うが、ロサはこちらにも見向きもせず、正門の上に飾ってあるギルドの看板を無表情で見つめていた。
「まさか。ここまで来たのよ? いろいろと予定は狂ったけど、後戻りはできないわ」
「行くぞ、二人とも」
ロサと一緒になって看板を見つめていると、エスカとグオネスはいつの間にか先に進もうとしていた。
~エスカ・ツァールトハイト~
困ったことになった。
いや、打開しようと思えばできるのだろう。だが何分こちらにも事情と言うものがある。
昨日俺が呼んだ手紙の内容が正しいなら、ギルドの受付まで行けば、あとはお任せで団長室とやらに案内してくれるものと思っていた。
「まさか受付までの道のりが遠いとは……」
受付までの距離が常識はずれに遠いというわけではない。
ギルドの中が入り組んでいて迷子になったと言うわけでもない。
「お~う、すまんねお嬢ちゃん達とお兄ちゃん達。こっから先は、おじさん達の通せんぼだ」
目の前には短い顎鬚にぼさぼさな髪の毛、さび付いたアーマープレートを着た小汚いおっさんがわんさか目の前に立っていた。
「ガキどもはお家に帰って………ほんとにガキもいるじゃねえか!」
そう言ってゲラゲラと下品に笑う声は後ろから聞こえてくる。
周りを見渡すと、働かずに朝から飲んだくれている奴がわんさかと集まってきた。
まずい。非常にまずい。
このままでは奴らが……奴らが動いてしまう。
いかん、胃がキリキリしてきた。
「おい飲んだくれども、ひとつ言っておくぞ。即刻この場から去れ、これは忠告だ」
「おうおう兄ちゃん、どうしたんだ。そんなブルっちまった顔してよお?」
確かに俺はブルっているだろう。だがこれはお前たちにではない。
「忠告はしたぞ……」
こちらに近づいてくる男にもう一度行ってみるが、それでも男はこちらに歩いてくる。
「俺がなんでブルっているのかって? ……だったら教えてやろう。それは……」
「おおぜひとも教えてゴッファッ‼」
俺に近づいてきた男は言葉を言い終えることなく、決して軽くではないであろうその巨体を宙に浮かせ、ギルドの正門を飛び出して大通りの反対側まで一度も地に着かず飛んで行った。
遠くの方でガシャンと大きな音が鳴った。
……場が騒然と静まり返る。
それまで男が立っていた場所には、たなびく蒼黒い長い髪に、さわやかな白に青のラインが入った服とショートパンツを着こなす女性が一人。あと今顔が怖い。
「ゴチャゴチャとうるさいのよあんた達……。さあ、次は誰が飛びたいのかしら?」
ああ、一番手はお前か……シーニィ。
バキッと言う音がしたのでそちらに振り返って見ると、木製の床に頭を埋め込んでいる男が一人と、傍らに立っているのはふわっとしたクセッ毛の金髪に、上下黒い服で揃え、おへそ丸出しのミニスカートをひらひらさせている可憐な少女が一人。あと今顔が怖い。
「今私の事ガキって言ったの、誰?」
ああ、お前はそのことで怒ると思っていたよ……ロサ。
「グオネス、行こう。ここはもういろんな意味でどうしようもならん」
グオネスと一緒にそそくさと早足でこの場を切り抜ける。後ろからは悲鳴やら怒号やらが入り混じって聞こえてくる。それと同時にバキッだったり、ドカンだったりと何かが壊れる音も……。
「エスカ、大丈夫かい? 顔色が悪いよ?」
グオネスが心配してくれている。ああ、お前は飯のこと以外は問題がなくて助かる。
「グオネス、俺がなぜブルっっていたのか教えてやろう」
「なんとなくわかるよ」
グオネスが苦笑いをして肩をたたいてくる。
「お察しの通り、これから俺に降りかかってくるであろう事後処理とそれのストレスに対してだ……」
朝食もまだな朝。本日も胃が……キリキリと……。
冬休みなのでできる限り投稿ペース上げたいと思っています。
ご一読ありがとうございました。




