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世界の歩き方  作者: 黄瀬 楓
序章
2/25

森の中のお人好し二人

どうも、記念すべき第二話です。(何が記念なのかはよくわかっておりません)

 これは、夢なのだろう。

 周りは草原、林になっているところまでは少し距離がある。

 夕暮れなのだろうか、遠くの山に隠れていく夕日があった。

 自分が居るところは草原の中にポツンとたたずむ木の木陰。その木にもたれかかる様にして座っていた。なんと穏やかな草原だろう、夢とはいえなかなかにいい。

 ただ、それとは別に周りを数頭の狼に囲まれもしていた。そして少し距離があるはずなのだが妙に大きい気がした。(うな)り声が聞こえてる、なかなかに凝った夢だ、美しい草原と唸り狂う狼、この二つが兼ね備えてある夢はなかなか見られないであろう。

 ……妙に、現実感あふれる夢だった。

 いやまあ確かに、頬にあたる風は冷たいし、座っている地面もひんやりする、もたれかかっている木から背中に伝わってくるごつごつ感も妙にリアルだ。少し、ほんのちょっとだけ疑って自分の頬をつねってみる。

 ……痛いの一言につきる。

 さっきまで程よく離れていた狼たちがジリジリと詰め寄ってくる。大きい気がした、ではなく実際に大きかった。

 ……何なのだ、この状況は。

 夢ではないと、はかば無理やり悟ったシーニィは、心の中で諦めたかのようにつぶやくのだった。


(流石に、このまま見過ごしては…)


 ちらりと一頭の巨大狼に視線を向ける、目が合ったとたんに歯をむき出しにして唸られた。因みによだれを垂らしてもいた。


(…くれないか。てゆうかあたしっていわゆる餌なのね…)


 はぁ、と言うため息とともに立ち上がる、不思議と怖くないのはなぜだ。だめだ、わからない。もちろんわからないと言う事は大体予想はついたのでそこまでは驚きもしない。

 そういえばと思い、あの自称神に一発ぶちかましたことを思い出す。実際普通の人間では不可能な距離を、あの自称神はものすごい勢いで飛んだ。そのあとの自称神の脅威の回復力に驚いてそれどころではなかったのだが、もしかしたらこの体は普通の人間のそれではないのかもしれない。


「まさかね……ふんっ、はえ?」


 間の抜けた声が思わず飛び出した。なぜか、半信半疑ながらも、それまで背もたれにしていた気に思いっきり拳を入れたら、バキッと音を立てて、反対側に倒れていったのだ。


「もしかしてこれ、戦えたりする?」


 と、後ろから狼が駆け出す音がしたのでとっさに振り向いた。案の定、狼たちが一斉にこちらに向かって猛ダッシュしてきていた。狼の数は全体で五匹、それなりの巨体なので軽く地面が揺れている。確かに自分は戦えるだけの力(少なくとも筋力)はあるかもしれない。だがあの狼の群れに勝てる保証はどこにもない。どこからともなく不安が襲ってくる。

 先頭の一匹が飛びかかってくる、単純な突進だった。その時だった、不思議とかきたてられていた不安がなくなった。それに代わる様に言われようのない高揚感が湧き出てくる。

 なぜだかはわからない。


「とりあえず、自分の事もわからないまま死ぬつもりはないし、あんた達の晩御飯になる気は全然ないから,タダで食べれるなんて思わないで!」


 最初に来る一匹目は少し手前でジャンプして噛みついてくる、なぜだかそう予測ができた。他にどうしようもないのでその予測にもとづき、どうするかを決める。 

 さて、どうしようか……数歩踏み込んでから空中で身動きが取れない狼の顎に向かって拳を突き上げる。よし、頭では考えた、あとはそれを実行できるかどうかだが、それについても今は失敗する気がしなかった。実行、そして木を殴った時とは数倍の力を狼の顎に叩き込む。

 狼は天高く後続の群れの後ろへ飛んで行き、そのまま地に激突し、動かなくなった。

 後続の狼たちは警戒したのかその場にとまり、こちらに向かって唸り声をあげている。

 …予想以上だった。踏み込みの速さといい、ジャンプ力、拳の威力までもが予想外に強かった。それは希望を見出せたと同時に、少し畏怖を抱きもした。

 最初にいた場所に振り替えると、踏み込んだあとがきっちりとわかる程度に、地にえぐれた跡があった。

 殴った獣は、顎の骨を粉々に砕かれたのか、見るも無残な形にゆがみ、今も絶えず赤い血があふれ出している。

 本当に何なのだ、この力は。あまりに大きな力なので少し躊躇(ためら)いそうになる。

  再び狼の方へ目を向ける。残りの四匹ともが警戒しているのか、その場に立ち止まって襲ってこない。あわよくばそのままお帰り願いたいのだが…。


「ガウッ!」


「グルルルルッ」


 と、八重歯ほむき出しにして吠えたり唸り声をあげているのだから、その願いは真っ先に潰えてしまった。


「ていうか、どんだけあたしを狙ってるの、あたしってそんなにおいしそうにみえるかな?!」


「グガァッ!」


 しびれを切らしたのか、四匹ともが一斉に襲い掛かってくる。反射的に拳を握り、構える。正面四方向から同じタイミングで噛みついてくる。それを大きく後ろにとんで回避し、すかさず真ん中左の狼に飛び蹴り。 


「!…なっ…くっ?!」


 飛び蹴りをしようとし、足を地に踏み込もうとした直前、猛烈な頭痛に襲われた。足に力が入らなくなりその場に崩れ落ちそうになるが、なんとか踏みとどまり、片膝立ちになる。

 ハッとなり前を向く、狼の牙がすぐそこまで迫ってきている、あと数十センチほどのところまで自分を殺しに来ている。避けられない、そう悟った。なんとなく覚悟を決めていたのでそれほど恐ろしくもない。ただ、正直やっぱり怖いので、目は瞑った。


(結局、なんにもわかんないまま死ぬのか)


「ギャンッ!」


 目を少し開けた、噛みつこうとしてきた狼は右後ろで倒れ伏していた。

 いや、切り伏せられていた。 


「頑張ったね、よく耐えた。あとは僕に任せて君はそこで寝てていいよ。もうすっかり夜だしね」


 声のした方に振り替える。目の前には、赤い服を夜風にたなびかせ、右手に剣、左手に鞘を持った男が立っていた。背中越しなのでわからないが声が若いことから青年と言ったところか。

 いつの間にか草原に横になっていた。目の前には赤い服を着た青年が、今も唸り声をあげている狼の方へ歩いていくのが見えた。

 その光景を最後にシーニィはゆっくりと、瞼を閉じた。



 +++++



 ヘイ、シーニィさっきぶり~!ひょっとして俺っちのこと忘れちゃった?神様だよ神様、崇めちゃってよ!奉っちゃってよ!崇め奉っちゃってよ!さあさあさあ!あ、言い忘れたけどこの声はシーニィの意識にダイレクトに話してっから、とりま聞くだけになると思うよ?そんでま本題に入っけど、実はもういっちょプレゼントがあって渡しそびれちゃったんだよ。目覚めたら手元を見てちょ!

 …あまり時間がない、手短に言おう。それは君の力になると同時に、君の重石にもなる。使い方はシーニィ、君次第だ。



 +++++



「ふざけるのか真面目に話すのかどっちかにしなさいよ!」


 少し。いや、すごく不愉快な夢を見てしまった。前半のくだらない話のせいで後半の大事な部分を聞き流してしまいそうになった。


(人の意識に直接語り掛けるって、すごいのかどうかはわからないけど、でもただの自称神様ってわけでもなさそうだし………わからないことだらけね、自分も含めて)


「だ、大丈夫かい?」


 あぐらをかいて物思いにふけっていると、不意に横からそう聞こえたので、声の主が居る方向へ振り返ってみる。

 そこには、少し大きい石に腰かけている赤い服の青年が心配そうな顔でこちらを見ていた。

 ついでに少しあたりを見まわしてみる。どうやら森と草原の境界線付近にいるらしい。


「だ丈夫じゃないだろうな。目を覚ますと同時に叫びだすなんてただ事じゃないぞ」


 もう一人、あぐらをかいて腕組をし、緑のマントを羽織り、こちらに冷静な顔を向けている一人の青年がいた。

 自分を入れて三人、焚き木をかこんで二人に見つめられる格好になっていた。


「赤い服…もしかしてあの時助けてくれた?」


 見覚えがあると思い、話しかけてみる。すると赤い服の青年は心配げな顔から一転して、優しく微笑んだ。


「ああ、あのとき君を助けたのは僕さ。まぁ、先に見つけたのはエスカだけどね。言い忘れてたけど僕の名前はグオネス、さっきも言ったけどこっちはエスカ、よろしくね」


 と緑のマントを羽織った長髪の青年がため息をひとつつき、口を開いた。


「すまない、エスカは略称だ。正しくはエスカトン。まぁ、エスカでいい。それより、なぜこんな時間に外を出歩いていた。それと、君はどこから来た?確かこの近くに村はなかったはずだが…」


 それはあたしが聞きたいくらいだ。


「えっと…ごめんなさい。目を覚ましたらあそこにいたの。その前のことは…思い出せない」


 実際その前に、奇妙な自称神様にあっているが、そいつにこの世界に送られて、気がついたら目の前に大きな狼がいた。それに、送られる前の記憶がない。

 …確実に信じてもらえないと、話す前にそう確信した。


「なるほど…ごめんね、辛いことを思い出させて。まずは生きていることを喜ぼうよ。それに、これも何かの縁だ。君が何かを思い出せるまで、僕達のところにいたらいいさ、それまでは君を知っている人を近くの村まで探しに行こうか」


 思ってもいないグオネスからの提案に、驚きを隠せなかった。

 グオネス自身がさも当たり前のようなことを言った顔でこちらをみている。

 まだ驚きをかくせない。だが、こう問わずにはいられなかった。


「…な、なんで?あたしは、あんた達とは関係ない赤の他人よ?助けてくれたことには感謝してるわ。だけど、そこまでしてくれる理由がない。それに、…あたしが言うのもなんだけど、記憶がないとか言ってる怪しいやつにそこまでするのも、その……変よ…」


 当然の疑問。誰もがそう思うであろう事を言葉にして投げつけた。

 そして、次にグオネスが発した言葉に、今度は唖然とせざるを得なかった。


「誰かを助けたいと思う気持ちに、理由がいるのかい?いるって言うなら、君に会ってほっとけなかったから。とかどうかな?」


「なっ?!」


 心底驚いた、これはお節介とかそう言った次元の話ではない。逆に何をする気なのだとか疑うレベルだ。

 すると、今までこの光景を見ているだけだったエスカトンと言う青年が苦笑いしながら口を開いた。


「ははっ、済まないな、あいつが誰かを助けたいと思うのはもう一種の病気みたいなものなんだ。まぁ俺としても、ここに女性一人を置き去りにして行くほど薄情でもないんだ。せめて近くの村までは送ってやるつもりだった。」



「怪しいとは…思わなかったの?」


「そりゃあ思ったよ、あの獣を1匹とはいえ仕留めてるんだ、しかも素手で。怪しむなっていうほうが無理な話だ」


 そういえば一匹、試しに攻撃して飛んでいった奴がいた。仕留めていたのか。


「だが、グオネスが言ったら聞かないやつでな、こうなった以上は、済まないがグオネスに付きやってやってくれ」


 グオネスが不服そうな顔でエスカトンに話しかけた。


「ちょっとエスカ!それじゃあまるで僕が自分勝手な事を言ってるみたいじゃないか!」


「そう言うふうに聞こえたなら、少しは俺の言う事も聞いてくれ…」


 と、急に言い合いを始めるものだから自分のひとりが置いていかれた。見ず知らずの自分にここまでしてくれるこの二人はなんだろう。考えたが分からない、この世界はわからない事だらけだ。

 …いや、違う。ひとつだけわからったことはこの二人はなんだか暖かい、一緒にいてて落ち着く存在。初めてあったはずなのに、こんな自分に世話をやいてくれる。

 ああ、そうだ。結局この二人は…。


「結局あんた達って、ただのお人好しなのね」


「まぁ、こいつにいたっては極度のお人好しだがな」


「ちょっ!ひどくないかいそれ!」


 なんて暖かい二人なんだ。しばらくはこの二人と一緒にいてもいいかもしれない。そんな気がした。


「グオネスの提案、受けさせてもらうわ。これからよろしく、グオネス、エスカトン」


「ああ、もちろんさ!」


「二度目だが、エスカでいい。聞くのが大分遅くなったが君の名前は?」


 自分の名前、あいつから貰った名前なので少々不服だが、今は名乗っておくとしよう。


「シーニィ、シーニィ・ブランシュよ。こっちもう遅くなったけど、助けてくれてありがとう。エスカ、グオネス」


 笑顔でそう言った。

 少し涙が出ているかもしれなかったので、隠すために夜空を見上げた。

 空に散らばる星々が、自分はここだと言わんばかりに光を放っていた。

 

 

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。感想などをいただければ幸いです。

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