お父さん?、ロサの心情
どうも、これからテスト期間でいろいろやばい作者です。
「それで、あたしに用って何なんでしょうか?」
書斎を仄かに照らす光蝋燭(レイリーの部屋で見た蝋燭に付与魔法を掛けたもの)が揺れ、その瞬間だけフリージアの表情が曇った。
「話と言うのは、そのレイリーのことです」
フリージアさんの顔からは、出会った時からずっと向けてくれていた優しい笑顔が消えていた。
「まず、今から話すことは決して私があの子を嫌っているわけではないと、知っておいてください」
声音が緊張している。
「いいですかシーにィさん。あの子は、異世界からきたあなたを利用して、何かをしようと企んでいます」
あたしを使って何かを企んでいる。これはまぁ予想はしていた。レイリーもなにかを意図的に隠していそうだったし、何よりもこんなに手厚く迎えてくれるなんて怪しすぎる。まぁ招待にきた人は最悪だったが。
「それはまぁ分かっていました。だってあいつ、見るからに怪しい雰囲気醸し出してましたし」
「み…見るからにですか……。あの子、本当に何をしたのかしら……」
そりゃ、ろくな説明もせずに[世界の記憶]よ見ろなんて言われましたよ。
「それで、何でその話をフリージアさんが?」
「やはり、そこに行き着きますか。……実は私、ギルドのちょっとした重役なんです。あなたがこの世界に来ることも、ハイルの言葉をレイリーから言伝てで知っていました」
少しだが間が開いた、言うのを一瞬ためらったのか。
それとも……。
と言うかまたあいつか。
「あの……フリージアさんもあいつのこと知ってるんですか?」
「え? ああ、ハイルの事ですか。ハイルはギルドの中でも、私とレイリー、それとアイナしか存在を知りません。何せ神様ですから」
さも当然のようにフリージアさんは言うが、こちらからしたら神様ってそうほいほいと名乗っていいものなのだろうか。それとよく信じれたな。
「なんで神様って信じられたんですか? はっきり言って、あんなのに"自分は神様です"なんて言われても、ぶん殴って終わりだと思うんですけど」
現にそうしたし。
「シーニィさん、印象と違ってかなり好戦的なんですね……」
「時と場合はわきまえているつもりです」
苦笑いを浮かべるフリージアさんはどう反応したらいいか困っているようだ。
「で、でも……シーニィさんも見たのではないのですか? ハイルが行った所業を」
あいつが行った所業……か。
第一に、人の話を聞かない。第二に、ぶん殴られても気づいたらへらへらしていた。第三に、鏡でその時のあたしの姿を見させて、あたしを大いに狂わせた。第三に、勝手に名前を付けられた。第四に、あたしを知らない世界に送り飛ばした。第五に、プレゼント(吟醸)をくれた。
………。
あいつがあたしにした所業のどこに神様的な行いがあっただろうか。はっきり言って四番目くらいしかないんじゃないか。三番目と五番目に至っては、名前を付けてもらったりプレゼントをくれたりって、完全に普通のお父さんじゃないのか。もしくは……。
「もしくはあいつ、あたしのお父さん?」
「シーニィさん。え、本当に何があったんですか⁉」
ガタッと、フリージアさんが椅子から勢い良く立ち上がり、肩をつかんで揺らしてくる。
フリージアさんが今日初めて会った中で、一番真剣な顔をしている。これは洒落になってない。
「いえいえ、ちょっと頭の中で変な方向へ考えが行っちゃっただけです」
「そ、それならいいのですが。あ、それとハイルにも十分に注意しておいてください。普段おちゃらけてはいますが、頭では何を考えているのかわかりません。レイリーにシーニィさんの事を伝えた件もあります」
さらに伝えた本人は行方不明ときたものだ。注意しようにも、いつ姿を現すかわからない。まあ出会ったら確実に殴り飛ばすのは確定だが。
と、ここで扉が三回、コンコンコンと鳴る。
「フリージアさーん、エミーがお皿を割って指を切っちゃいましたー!」
扉の向こうからはシルの慌てた声が聞こえてくる。
「あらあら、いつも気をつけなさいって言ってるのに。ごめんなさい、このお話はまた後日と言うことで。とにかく、レイリーとハイルにはあまり深くかかわらないようにしてください。それでは、今日は疲れたでしょう? ゆっくりお休みになってください」
そういい終えると、フリージアさんは扉の向こう側に行き、トタトタと段々と小さくなる足音を聞き終えてから、椅子から腰を上げた。今築いたのだが、仄かな灯りに照らされた大量の本に囲まれた空間に一人でいると、なんだか落ち着かなくなる。
「今日はもう寝よう」
そう自分に言い聞かせ、書斎を出る。そこからは真っ直ぐにシルに教えてもらった、ロサとの相部屋に向かった。
部屋に戻ると、ロサはもうすでに床に伏していた。
布団からむくりと起き上がったロサは眠たそうな目をこちらに向けた。
「ごめんなさい、起こしちゃったわね」
「別にいいわ、お帰りシーニィ」
お帰り……か。言われて困る言葉でもないな。むしろいてくれる人がいると安心するくらいだ。
「で、シーニィはここにしばらく住む気なの?」
「そうね、悪くはないと思ってる。あんた達はいいの?」
話している間にあたし用のベッドに下着姿になって寝転がってしまう。お風呂は一瞬考えたが、今日はもう疲れたし明日にシルに頼んで使わしてもらうことにする。
「もともと私達の当面の目的はギルドに入ることだったのよ? なんだか面倒くさいことになったけど、入れるに越したことはないし、住むところを貸してもらえるっていうんなら正直助かるし。明日の朝にでもエスカがそのことフリージアさんに話してみるって」
「そっか」
寝転がって天井を仰ぐ。部屋に書斎のような光蝋燭はなく、照らすのは開けっ放しの窓から入ってくる月明りだけだった。
「ねえ、シーニィ」
ロサが喋りかけてくる。隣のベッドに振り返るが、ロサは壁の方向に体を横にしているため、顔は見えなかった。
「私がフリージアさんとうまく喋れなかった理由、教えてあげる」
それはずっと気になっていたことだが、まさかロサの方から話してくれるなんて思いもしなかった。
「なんで話す気になったの?」
「そういう気分なの」
そしてロサは、たっぷりと間を置いてから、震える声で言うのだ。
「お母さんにね…………似てたの」
もしかしたらロサはその時、泣いていたかもしれない。
耳に聞こえてくるのはどこかで鳴いている虫の声と、かすかに聞こえる嗚咽だった。
ご一読ありがとうございました。




