天使、可愛い夕食
先日、感想の方で一人称と三人称がごっちゃになっていると言うご指摘を受けました。
これを受けまして、いろいろ悩んだ末すべて一人称で書くことに決めました。
まだまだ未熟ものですが、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします。
「着きましたよシーニィさん、ここがこれからシーニィさんとお仲間さんが住む[孤児院モーティナス]です。我が家へようこそです」
あたしの目の前でニコッと笑うのは、ギルドに案内人としてやってきた、シル・ハーツフィールと言う、髪の毛をツインテールにしている小柄な少女だった。
(………やっぱり可愛いわね)
ギルドからの道すがら、暗くなってたくさんの灯りがともっている街を案内し、少しでもこの街を知ってもらいたいという健気な少女は、緊張しているのか、時々言葉をかんだりしながらも、それでも謙虚にしゃべりかけてくれた。その姿はなんとも可愛らしいという言葉に尽きる。
「まだあたし達が住むって決めたわけじゃないけどね」
「え……な、なにかご不満があるんでしょうか……?」
少し涙目になりながら上目遣いで見つめてくる。シルは気が弱いのか。
(……可愛いわね)
邪念を瞬時に取り払い、言葉を選んで優しく話す。
「まだ住んでもないのに不満があるかないかなんてわからないでしょう? だからそんな顔しないで、シルみたいな子が住んでるんだからきっと気に入るはずよ?」
「そ、そうですか? シル、気に入られるように頑張ります!」
泣き顔から笑顔になり、胸の前で小さくガッツポーズをする。やっぱり可愛い。
それからシルに連れられ、もう晩御飯中だというのでありがたくご相伴に与るべく家の中に入ると、孤児院ゆえか食事をしている部屋からはたくさんの子供たちの話声が聞こえてくる。
シルの後ろについていき食堂に入る。そこには朝以来顔を見ていなかった仲間がいた。
「ロサとエスカじゃない! で、二人とも何をやってるの?」
「シーニィ、見ての通り御守りだ」
エスカトンの体には幼い子供が三人張り付いており、一人は右足、もう一人は左足、最後の一人はエスカトンが肩車をしていた。子供たちは笑い、その様子にエスカトンもまんざらではない様子だ。
ロサの方はというと――。
「ぷぎゅっ……」
今しがた子供にノックアウトされ、床に膝から崩れ落ちる。
「今すごい倒れ方したけど大丈夫なの……?」
「何回もああなっているから心配はいらないだろ」
いやいや何回もって……。
「お姉ちゃんだあれ?」
声の方向、下に目を向けると小さな女の子が一人。
上から目線でしゃべりかけるのも何なので、しゃがんで女の子の目線に合わせる。
「お姉ちゃんはね、あっちのお兄ちゃんと、そこに倒れてるお姉ちゃんのお友達よ?」
小さい子だし、こんなくらいの口調でいいか。
「じゃあ、あっちのお兄ちゃんは、ふりん? してるの?」
「ちょっと待ってどこで覚えたのそんな言葉」
女の子の年齢は見た目からして四、五歳だろう。その無垢な笑顔でまさかの言葉を発するとは……。
「え、なに? こっちの世界じゃ普通の事なの?」
エスカトンの方を見ると当然違うとでも言いたげに、大げさに首を左右に振る。
「その子が特殊なだけだ。ロサが何度も倒れているのもその子のせいだ」
本当にロサは何があったんだろうか。
「ごめんなさ~い‼」
後ろの扉からトタトタとシルが入ってくる。そして目の前にいた女の子を抱き上げる。
「駄目じゃないエミー。すみませんシーニィさん、この子ちょっとおませちゃんで」
シルが抱えているエミーと言う小さな女の子を叱り、申し訳なさそうに誤ってくる。
「ちょっとどころか、趣向がとんでもない方向に行ってるけどね」
気を取り直して部屋を見渡す。と言っても長机と椅子が数セット置いてあるだけのそこそこ広い部屋だ。
長机を挟んだ向こうの壁に扉が一つ開け放たれており、ここからでもいい匂いが香ってくる。
「みんなご飯ですよ~。自分の分を取りに来てくださ~い」
扉の奥の部屋から何やら包容力が抜群な声が聞こえてくる。
子供たちはお呼びがかかるとドタドタと走りながら奥の部屋に入っていく。
「シル~、皆さんの分も持って行ってあげて~」
「はいです! 今行きます!」
シルも奥の部屋に消え、この部屋にはロサとエスカトンとあたしの三人だけになった。
「……やっと解放された。最近の子は進んでるのね……」
ロサが起き上がり、げっそりした表情でこっちに歩いてくる。足取りがもうフラフラだ。
一体どんなことを言われたらあんな倒れ方をするんだろうか……。
「あの子だけだと願いたいわね」
また子供たちがこっちの部屋に入ってくる。向こうに行く前と違うのは子供たちがシチューの入ったお皿とスプーンを手に持っていることだ。なるほどあのいい匂いの正体はこれか。
「皆さん、こっちに座ってください!」
どうやらあたしたち三人分のシチューを持ってきてくれたようだ。だが三人分、一人足りなかった。それは今もなお姿を現さないグオネスだった。
「グオネスは?」
横に座ったロサに聞く。ロサはハァ、とため息をつきいてから少し困った表情になる。
「あいつなら模擬戦での疲れで、もう起きないんじゃないかっていうくらいぐーすか寝てるわよ」
「え? なに、あたしがいなくなった後に何があったの?」
「それは後で話す、とにかく心配は無用よ。それよりも……」
ロサはシチューを食べたくて待ちどうしそうになっている。仲間より飯なのか。そんなにお腹がすいてたのか。
「あなたがシーニィさんですね」
声がする方を向けば机の向かいに立っている。きれいな銀髪の女の人が立っていた。
……なんだろう、不思議と緊張する。
「えっええ、あなたは?」
「私はフリージア、この孤児院の院長をしております。まあでも、詳しいお話は食事のあとで」
そういってから、フリージアと言う銀髪の女性は、シーニィの向かいの席に座り、机の上に自分のシチューとスプーンを置く。そして謎の包容力が満ちている笑顔で子供たちの座っている方向を見る。
「それではみんな、ちゃんと上手に食べるのよ?」
子供たちが一斉にいただきますの声を上げ、シチューを飲み始める。ロサも飲み始める。
「ふふっ、ロサさんそんなに急がずに食べなくてもお変わりはたくさんありますよ?」
「は……はい」
フリージアの笑みを見た途端、ロサの食べる勢いが収まり、顔が赤らむ。そして先ほどのように豪快にではなく、つつくようにシチューの中に入っているお肉や野菜のブロックをちびちびと食べる。
「ロサが食べるペースを落としただと⁉ 一体どんな魔法を⁉」
エスカトンが過剰に反応する。そこまで驚く……いや、ここ数日しか見てこなかったあたしでも今のロサには違和感を覚える。
「どうしちゃったのロサ?」
「食べるペースが落ちたぐらいで、お二人とも大げさすぎます……」
シルが苦笑いを浮かべる。
ロサはちびちびと食べ、その横でエスカトンは頭を抱えていて、これまでのあれは何だったんだのとブツブツつぶやき始めてしまっている。いやもうほんと、今のエスカトンはどうしようもなく悲しいものを見るような目になってしまう。不憫だ。
「シーニィさん食べないんですか? 今日のシチューはシルも下ごしらえを手伝ったんですよ!」
そういってシルはシチューを進めてくる。
"下ごしらえを手伝った"ということは、手伝った後で迎えに来てくれたんだろう。その姿が健気と言うか可愛げがあるというか。
もしかしたらあたしは、案外可愛いものが好きなのかもしれない。[世界の記憶]とやらで出会った少女もそれはまあ可愛らしかった。あとで吟醸に聞いてみよう。
なにかよからぬことを考えるのは終わりにして、シルと、おそらくフリージアさんが作ってくれたシチューを食べるとする。
「……うん、美味しい」
ホクホクとしたお肉と野菜たち、クリーミーなシチューが合わさってもう美味しい以外の言葉が浮かばない。
「よかったです! フリージアさん、シーニィさんが喜んでくれたです!」
手をたたいて喜ぶシルの姿は天使のようだ。シルが作ってくれた料理なら何杯でも行けてしまいそうになる。何せ作ってくれる人が天使だから。
駄目だ、何を考えているんだろうかあたしは……。
そうこうして、孤児院モーティナスでの夕食は続く。
ご一読ありがとうございました。




