グオネスと精霊、家族
少し期間が空いてしまいました。
グオネスの十二星座魔法から流れが変わった。ユキノもフードを取り本気を出す腹積もりのようだ。
だがしかし、ロサにはユキノに物申したいことがあった。
これは模擬戦だ――と。
「あなたのお姉さん、私んとこの仲間殺そうとしてるわよね⁉ ね⁉」
「痛い痛い! ロサちゃんそんなに揺すらないで~‼」
あまりの展開にロサが平常心をなくし、ソラノの胸倉をつかみグラグラと揺らす。
そしてロサはふとあるものを見つけた。それはソラノの胸にある二つのふくらみだった。
ソラノのそれは――――――――――揺れていた。
「そのうえ妹の方は私を惨めな気持ちにしてー! どうしてそんなに育つのよ! ねぇ⁉ それともなに! それは服をボロボロにした私への当てつけか!」
涙目になりつつもさらに揺らす。
ソラノのそれは決して大きくはないだろう、平均と言っていい。だが問題はロサの方にあった。
ロサのそれは―――――――――――侘しかった。
「言ってる事がよくわからないし痛いよ~」
ロサのよくわからない言動に加えて、自分自身のよくわからない状況に、もう何が何だかわからないソラノは涙目を浮かべてただ、揺らされていた。
「おいロサ、その辺にしておけ。そういうのは、その………どうにもならんだろう? 虚しいだけだぞ……」
端から見ていたエスカトンがロサにフォローを入れようとするが……。
「いらない気を使うなー!」
「だ~か~ら~激しく揺らさないでって~……」
ロサはパッと手を放し、少し離れたところで子供がいじけるようにしゃがみ込む。
その間にも向こう側からは剣戟と轟音が鳴り響き、土が跳ね、地面にひびが入り、壁は衝撃で亀裂が入っている。
そして今も全身全霊でしのぎを削り合うのは、精霊の枷を放ったグオネスと、フードを脱いだユキノ。
二人にはかすり傷や切り傷、グオネスに至っては小さな火傷の跡が目立つ。
ソラノは姉であるユキノの戦う姿を見た。
そして、何か言いにくそうに見をよじりながら、苦笑いになり、エスカトンに、さっきのロサからの言葉に答えた。
「お姉ちゃんはね、その~……敵をいじめるのが好きな人なの」
……しばしの間、時が止まり、剣戟が鳴り響く。
「いや……それ駄目だろ」
何秒かして立ち直れたエスカトンが言う事は、それはそれは至極真っ当なことだった。
「いやでも、そこまで変な人じゃないんだよ⁉」
ソラノも無駄とはわかっているだろう。だが自分の姉だからか、フォローを入れずにはいられない。
「いや、明らかに変人だ! 俺の知る限りでは、一人で何十人も何百人もできる相手は、大抵曲者なんだよ!」
その言葉にカチンときたのか、ソラノも声を荒げて対抗心を燃やす。
「じゃあ今戦ってるグオネス君も、お姉ちゃんと渡り合えてる所を見ると変人なのよね⁉」
「ああそうだ! あいつはな、困ってる赤の他人をほっとけないとか何とかですぐどこかへ行くし、店で食事を取ったら一人分ではありえない金額を腹に収める! ついでに言うと好きな奴に告白もできないとんだヘタレだ!」
「うぐっ!」
否定して来ると思っていたエスカトンからまさかの反撃をくらったことでソラノは口をつぐむ。
そして、ソラノはコホンと咳ばらいをし、真面目な表情になってエスカの顔を見る。
「でも、何でグオネス君に精霊が……」
「そんなに珍しいのか? 仲間であった俺も気づかなかったわけだが」
ソラノは顎に手を当ててうつむき、少し考えるそぶりを見せた。そして何やら思いつめた顔になりエスカトンに言葉を返す。
「はっきり言って少し………いいえ、かなり異常ね。普通、精霊を宿すには聖騎士に入ってそれ相応の訓練を積まないと無理ね。うちのギルドみたいにかなり実力があって性格の方も気性の荒くない人たちが宿すこともあるけど、本人たちは偶然って言ってるし。それにそれ相応の年月を積まなきゃだから、若くてもグオネス君よりは二回りくらいの年齢の人達よ」
ソラノの言葉からは緊張が感じ取れる。ギルドのトップ集団であるS級から見ても、今のグオネスはそれだけ異常なのだろう。
「あいつはね、小さい頃から精霊に懐かれていたのよ」
いつの間にか立ち直っていたロサがソラノの横に立つ。ソラノはさっきの件もあり、半歩ロサから遠ざかる。
「もう何もしないわよ。それとも何、もがれたいの?」
「ヒッ……な、なにを?」
笑顔を引きつらせながら自分の体を抱きしめるソラノには目もくれず、話を続ける。
「これはまだエスカが、私達の村に来るよりも前の話よ。私とグオネスは近くの湖にたまに遊びに行っていたの。そこに行くとグオネスはよくふわふわした光の玉に囲まれてて、グオネスも光の玉に触れて笑っていたわ。私が触れようとしても光の玉はすぐ消えちゃうのにね。後になって村の精霊に詳しいおじさんにに聞いたら、そこは精霊がよく生まれる[精霊の庭]だってわかった。小さい子供が精霊に好かれることはたまによくあることなんだって、おじさんが言ってたわ」
ロサの言葉に、ソラノとエスカトンは耳を傾ける。
ロサは一瞬思いつめた顔になるが、すぐに話を再開する。
「ある日の事よ。湖の畔で遊んでたら、私が足を滑らしちゃって、湖に落ちちゃったの。畔から水面までの高さは、大人は登れるけど子供には厳しかった。私はびっくりしてて、泳ぎは得意なはずなのにおぼれてたわ、もうじたばたもがく体力もなくなってきたときよ。体の周りにたくさんの光の玉が飛んできて、優しく体を包んでくれたの。そしたら体がふわっと浮いたの。グオネスの方を見たら、両手を握って目を瞑って"精霊さん達ロサを助けてお願い"ってずっと叫んでたわ」
「まさか、その頃から精霊を操れてたの?」
ソラノは驚く表情を隠せないでいた。
「多分あの時は偶然だったんだろうけど、その頃から素質はあったのかもね」
ロサが答えると、横から「違う」とソラノの声。ソラノの目は戦っているグオネスに釘付けだった。
「それは素質なんて優しいものじゃないと思う。多分その湖にいたのは、準精霊って言う精霊の赤ちゃんだと思うわ。魔力を供給してくれる相手を見つけないと直ぐにその存在は消えちゃうの。存在が曖昧な準精霊がたくさんいたってことは、その周りに魔力を供給してくれる何かがあったはず。ロサちゃん、心あたりは?」
しばらくうつむいたロサはソラノの方を向き、首を横に振る。
「ないわ、あの辺りは確か獣が出ないことで知られていたし、村には魔法師の人なんていなかったわ」
「決まりね、魔力を供給していたのはグオネス君よ。じゃないと、準精霊が溺れてるロサちゃんを助けられるわけないもの。きっとその頃には成体になってたんだわ。そして自分達を成体にしてくれたグオネス君を主とした……」
ここでエスカトンはあることに気づく
「まさか、あいつの十二星座魔法の精霊たちは……」
ロサもエスカトンの言わんとしていることに気づき、戦っているグオネスの背中に浮かぶ十二星座魔法陣を見る。
「あの時からずっと……グオネスの傍らにいた……片時も、主の傍を離れずに」
ロサの言葉に、ソラノが続く。
「それも、あんなに強力な精霊になるなんて………グオネス君はいわば、精霊の申し子よ」
「はっは、申し子か。随分なものになってたんだなあいつ」
「笑い事じゃないわよエスカ君、こんな事例今までは――」
ソラノが見た時、エスカトンの口元は笑っていた。だが代わりに、悲しい目をしてグオネスを見ていた。
しまいには涙まで流れてきそうなほどに、グオネスの表情は悲しかった。
自分の顔をソラノに見られていることに気づいたエスカトンは、慌ててごまかして見せる。
「あいつ、苦労したんだろうな。気づいてはいたんだ、俺とロサが寝付いた後も、自分の剣を持ってふらっと出て行って。日が昇るまでには戻ってきた。あいつの事だから、俺達に負担がいかないように強くなろうとか思ってたんだろうな。まったく、あのあの野郎……これが終わったらひねってやる」
「ええ、そうね」
ロサもこれまでの事を思い出す。
「なんでS級にさせろなんて言い出したのかはわからないけれど、あいつなりに考えての事なのよね」
エスカトンとロサは思う。これまでグオネスが自分の為に動いたことなんて果たしてあったのか。答えは否だ。どんな時も、たとえ赤の他人でさえも明るい笑顔で包み込み、みんなを笑顔にする。いつもいつも人の事しか考えられないお人よしのバカだ。
「やはり、一人で十人も百人も相手にする奴に、ロクな奴はいないな、ロサ」
「ええ、そうね」
今までずっと一緒に過ごしてきたからこそ、少しは頼ってほしかったという気持ちも二人にはあった。何にも相談に乗ってやれず、グオネスが一人で先走った結果がこれだからだ。
これからは三人で……いや、シーニィと言う新しい家族も入れて四人でこれからの道を踏みしめ、まずは目の前の家族から拳骨を落とさねばと思う二人だった。
そしてソラノは思う。
(あれ、なんだか私だけ置いてけぼり感が……………)
あと一部くらいでこの場面おわれたらなと……。




