全力を超えた全力、ユキノの本気
戦闘シーン難しい。
「もう一度だ!」
「へぇ、まだ来るんだ」
「当然ですッ!」
グオネスが立っている天井に剣を突き刺し、それと同時にユキノの重力魔法が解ける。
「…! やっぱり、あの魔法は厄介ね」
今グオネスの体重を支えているのは天井に刺さる黒いロングソードのみ、ゆっくりと天井にしゃがみ、そして飛ぶ。服や髪がたなびく。レグルスの恩恵に落下の加速も加わり、速度はかなりのものだ。そのまま宙を回転し、剣を振り下ろす。
振り下ろした先には刀を入れた鞘で防ごうとするユキノ。
瞬間、剣と鞘が激しくぶつかる。おおよそさやからは出ない音が甲高く響く。
「グッ……!」
ユキノは踏みとどまる。立っている地面にヒビが入り、陥没する。刀を支える両腕は痺れてしばらくは使い物にならない。あまりの衝撃で平衡感覚が保てなくなる。
グオネスも同じく手が痺れ、あまりの衝撃で吹き飛ぶ。だが何とか着地し耐える。
「まだだ、力を貸してくれ、おうし座の精霊ッ……タウラス!」
グオネス周囲から黄色い光が消え、代わりに灰色の光があふれる。
痺れて持てない剣を何とか鞘に戻す。ユキノがまだ完全に立ち直れていないのを好機とみる。
再びグオネスは足に力を溜め、そして飛ぶ。
剣が使えない。しかし相手はふらついている、ならば――。
「体当たりしかないだろッ!」
「カハッ――!」
ドムッ――とグオネスの肩がユキノのみぞおちに入る。ユキノを吹き飛ばした後、グオネスはバランスを崩しその場で倒れる。
ユキノの吹き飛ばされ方は尋常ではなく。遠くまで吹き飛ばされた後、二度三度土煙を上げながら地面を跳ね、そのまま転がり、ついには地下庭園の壁際まで転がる。
起きる気配はない。
「やった……のか」
起き上がりながらユキノの方を見る。手ごたえはあった。今グオネスが操れる精霊は獅子座のレオと、おうし座のタウラスだけ、他の精霊には力不足でまだ認めてもらえていない。つまりグオネスは現時点での自分の技術と力をめい一杯振り絞ったことになる。
故にグオネスの心はざわつき、怯える。ギルドのS級がこんな簡単に終わるはずがない、と。
(頼む、杞憂であってくれ……)
心の中で祈る。
だが、その祈りも虚しく、杞憂は現実のものとなる。
「まともに食らうもんじゃないわね。やっぱり、十二星座なんてろくなもんじゃない」
グオネスには信じられなかった。これまでの鍛錬は決して楽なものではなかった。擦り傷や切り傷は毎日のようにしたし、時には頭を打って気絶した。何度か死にかけたこともあった。ロサやエスカトンが眠ったのを確認してから、朝日が昇るまでひたすら森の獣と戦ったこともあった。とある人に魔法を教えてもらい、十二星座魔法を習得するのに三年、精霊のレオとタウラスを使役するのにさらに二年を費やした。
これまでの道のりを楽だったとは口が裂けても言えない。
しかし、前から歩いてくる若い女性は、そんなことはお構いなしに――。
「ん? どうしたの。S級になるって豪語しておいて、まさか今のが君の全力なわけないわよね?」
ユキノは、まったくダメージを受けていなかった。服は地面を跳ねた際多少汚れてはいる。だが、たかがその程度。かすり傷ひとつなく、その上体力の方も全く切れてはいなかった。
まったくといっていいほど、歯が立たない。今までの事は決して無駄ではなかっただろう。
もしかすると、ユキノからしてみればこれは茶番かもしれない。
だが、この程度で勝利を諦めるようないさぎの良いグオネスではなかった。
そこでグオネスは、一か八かの賭けに出る。
まだ体には負担が大きすぎるかもしれない。だが、自分の、いや………ロサとエスカトンの願いの為に、二人より倍の鍛錬を積んできた自分を、グオネスは信じた。
「――全力が駄目なら、ここで全力を……限界を超えればいい。もう誰も失いたくない、誰も死なせたくないんだ! そのためなら、奇跡でも何でも起こしてやるさ!」
グオネスは強い、なぜなら人のために強くなれるから、人を守れる心があるからだ。故に十二星座の精霊とも契約で来た。
全力を超えた全力。いわゆる限界を突破する行為は、最初は誰もが不安や焦りなどの感情が心を支配する。だがグオネスはそういった負の感情をまったく抱かなかった。先も述べたように自分を信じた。
そして守るべき人の顔を思い浮かべた。そうすると心が自然に澄んだ。
グオネスが立ち上がり、大きな深呼吸を一つ。それからしばらく目を瞑る。
腰の鞘からロングソードを引き抜き、両手で持ち、胸の前で掲げ、切っ先を上に向ける。
その姿はまるで騎士のようだった。
目を瞑ったまま、落ち着いた、澄んだ声で詠唱を唱える。
「レオよ、レグルスの光よ。契約に従い、汝の枷を解き放つ。我が身我が剣に宿れ、星々の威を示せ」
掲げられたロングソードが、黒い色とは裏腹に明るく、眩しく光る。
光はグオネスも包み、やがて地下庭園全体をも包み込んだ。
強く、それでいて優しい光。心が洗れるような光だ。
光が完全に満ちた時、グオネスは目を見開き、最後の詠文を叫ぶ。
「光れ、ベースティアエストレーヤ!」
叫んだ瞬間、輝きは一層増し、ゆっくりとロングソードとグオネスに集約される。
「へぇ~、君自身の限界を超えたか、案外やるのね。それにまさか精霊の枷を解くなんて正気の沙汰じゃないわね」
ユキノは苦笑い気味に感心の声を上げるが、同時に枷を解いた時の危険を危惧する。
本来の十二星座魔法は、黄道十二星座の精霊たちの力を部分的に宿らせ、自分の能力を増すものだ。自分のもともとの基礎が高いほど、魔法の効力も増す。それ故、精霊の枷を解くと、その精霊の力をほとんど注ぎ込まれてしまうため、体がもたないのだ。
「でもいいわね、他人のために振るう剣は。本当に騎士にでもなればいいのに」
ユキノの言葉に、ロングソードを構えなおすグオネスが柔らかい笑顔で答える。
「僕もそこまで堅苦しくないですよ。――――行きます」
グオネスが表情を変え、踏み込む。
「来なさい」
グオネスが動くのと、ユキノが動くのはほぼ同時だった。
剣と刀がぶつかり合い、鍔迫り合いになる。ユキノの方が早く反応、高く跳躍と同時に刀を鞘に戻す。
空中で回りながら抜刀の構え。詠唱を唱える。
「纏うは業火、たなびくは焔。アイゼングリュート」
ユキノが空中で刀を引き抜く。だがまだ刃の刃圏には到底届いていない。
グオネスは直感でその場を横に飛び去る。瞬間、先ほどまでグオネスのいた場所に火炎が降り注がれ、熱風が肌を痛める。
グオネスはユキノの姿を追う。だが見つからないということは……。
「上か!」
「ご明察ッ!」
とっさにユキノの刀を剣で受け止め流すように飛ぶ。逃がすまいと着地した途端グオネスの方に飛び、刀を横に振るうユキノ。それを予感して剣で受け止めるグオネス。
「――アイゼングリュート」
グオネスが剣で受け止める瞬間、ユキノは詠唱し刀身に火炎をまとわせる。
「グッ⁉」
「焼け焦げなさい!」
受け止めるのを止め、慌てて後ろへ飛ぼうとするが………あと一歩たりない。
「こんのッ!」
意を決してユキノの刀を蹴り上げるグオネス。火炎は軌道を変え、グオネスの上を飛んでいく。
そのままの勢いで後ろに一回転するグオネス、着地し前を見、ユキノに向かって剣を切り上げる。
対するユキノも刀の速度は殺さず横に一回転してもう一度切りかかる。
お互いの武器がぶつかり、弾き合う。それを合図に二人同時に離れる。
「正直見くびってたわ、君の事。その力があれば、今私に負けても一年くらい修行したら直ぐS級になれるわよ」
「ありがとうございます。けど、僕は今からなりたいんです」
ユキノが笑う。
「そういうと思ったわ。君に免じて本気を出してあげる」
ユキノがフードを取る。少し桃色の白く腰までとどく長い髪がフードの下から出てくる。少しクセッ毛なのか、ゆるくウェーブしている。鋭い目つき、右目の下にある模様のような赤い逆さにしたしずく模様が二つ。妹のソラノの方は顔立ちに若干の子供っぽさが見られるが、姉のユキノは正反対で、大人の女性と言った顔立ちだった。口には不敵な笑みが浮かんでいる。
「ソラノじゃないけど、今回は気分がいいから言ってあげる」
そして、鋭い目つきで、口に不敵な笑みを浮かべる大人な女性がこう言うのだ。
「お姉さんに勝てるかしら?」
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