グオネスの思い
本当は夕方あたりで更新したかった…。
「始め!」
ソラノの合図とともにユキノは地面を蹴る。グオネスとの間合いはそこそこ離れている。足の速い奴でも5秒はかかりそうな距離だ。それをユキノは自分の足だけで、数歩で距離を詰めた。そしてすぐに刀の間合いにグオネスをとらえる。その間わずか1秒もかからなかっただろう。
刀を横薙ぎに抜く、狙うはグオネスの腹部。防げないようなら寸止めだったが、この斬撃をグオネスは受け止める。金属と金属がぶつかり甲高い音が鳴る。
不発に終わった初撃の事は考えず、ユキノはすぐさまグオネスの後方へ走り抜き、振り返って両手で刀を構える。すぐに追撃が来るように思いもしたが、グオネスはこちらに向いて、肩幅まで足を広げ、剣を前にかまえていた。一般的によく見る構えだ。
「へぇ、面白い戦い方するのね、君」
さっきのグオネスの受け止め方は、刀を地面に刺し、固定させてユキノの刀を流した。つまりは、刀と自分の腹部とに間に障害物を置いたわけだ。
「我流です、慣れないうちはご注意を」
グオネスは先ほどまでとは打って変わって真剣な表情だ。それに、何か気迫のようなものもユキノは感じ取れるた。
「さっきまでの君じゃないね。さっきのを防げたのならもう合格よ。だから無理にやる必要はないのよ」
ユキノの言葉にグオネスは首を横に振る。
「いいえ」
断りの言葉と同時に、グオネスの背後に大きな魔法陣が現れる。それは金色に輝く聖属性の魔法陣だった。
「十二角形の聖属性の魔法陣、十二星座魔法か。ギルドのお歴々でも数十年かけてやっと数人が会得する代物を、君が扱えるのね……」
「まだ制限付きですけどね」
十二星座魔法。星座魔法の頂点ともいえるべき陣魔法。十二の精霊が使用者に憑き、恩恵を与える魔法だ。だがこれには膨大な魔力と、強い心を持つものにしか宿らないとされる。この魔法を習得するのは主に歴戦の聖騎士などだ、それでもごく一部の者しか扱えないのに、ましてや成人前の少年が、不完全とはいえ扱っているのをユキノは見たことがなかった。
「……何が君をそこまでそうさせるの? いっちゃあなんだけど、これは模擬戦よ?」
するとグオネスは少しうつむき、やがて何かを決意した顔になる。
ユキノをまっすぐ見つめ、とんでもない事を言い出した。
「自分の今の本気が、ギルドのS級相手にどこまで通じるのかを試してみたいんです。それと、僕が勝ったら、ギルドのS級義勇兵にしてくれませんか?」
これに最初に驚いたのは、少し離れたところで見ていたソラノとロサとグオネスの三人だった。
特に、自身がS級のソラノにとっては忌々しき事態だった。
「無茶だよ、グオネス君。私やお姉ちゃんでやっとS級だよ⁉ そんなことできるわけないよ⁉」
ロサとエスカトンも、普段とまるで違うグオネスの発言に戸惑いを隠せない。
「グオネス、どうしちゃったの! いつものあんたならここまでしないでしょ!」
「……あいつ…」
この無理難題を押し付けられたユキノはしばらく顎に手を当てて考え込む、そして一つため息をつき。
「いいよ、私に勝ったら団長とマスターに掛け合ってあげる」
まさかのグオネスの条件をのんだ。これにソラノはさらに驚く。
「なっ⁉ いいのお姉ちゃん! そんな前例今までないよ⁉」
「ないなら作っちゃえばいいのよ」
「んなっ⁉」
ソラノは唖然、自分の姉は大雑把な面倒くさがりで、さらに言えば見知らぬ人物には冷たく、おおよそ嫁の貰い手のない性格だったことを、時すでに遅くも思い出していた。
「ねぇ、あれっていいの⁉」
ロサの問いにソラノが思い切り首を横に振る。
「いいわけないじゃない~、少なくとも両方本気っぽいし、もし万が一お姉ちゃんが負けちゃったらグオネス君飛び級しちゃうよ~」
「飛び級にもほどがあるだろう、あのバカ……」
ユキノが再び刀を鞘に戻し、構える。
「じゃあ行くわよ。そうそう君確か、「僕が勝ったら」なんて言ってたわよね」
ユキノが再び地面を蹴る。
今度は横ではなく縦に切ろうとするユキノ。それを阻止すべく剣の腹で受けるグオネス。
前の一撃離脱ではなく、受けられたとみるやユキノは体をひねり、刀をグオネスの脚へ。
それをグオネスは飛んで回避、一回転しそこから下に剣を振り下ろす。だが読まれていたのか、ユキノに真下へ滑り込まれ、逆立ちの要領で上へ蹴り上げられた。
「がっ!」
それを間一髪で手のひらで受け止めるグオネス。だが今度は魔法で全身を強化していた。地下庭園の天井は、道に生えているそこらの気よりも本分はダントツで大きい。ゆえに天井までの距離も相当あるはずだ。だが魔法で強化された蹴りの衝撃は尋常ではなく、すごい勢いで天井が近づいてくる。
(早くっ……体勢をっ‼)
「誰に物を言ったか、分からせてあげる」
ユキノはその場に立ち、刀を鞘に戻す。そして鞘に入れた刀をユキノは自分の胸の前に構え、手にグッと力を込める。
「まさか……駄目、お姉ちゃん!」
ソラノの静止の声も虚しく、ユキノは魔法の詠唱を始める。
「――手枷となりて足枷となれ、鎖となりてその場に縛れ、重力魔法、グラビティ・テン・タイムズ、抜刀!」
詠唱するにつれて、ユキノの刀に紫色の靄がかかる。そしてユキノが詠唱を終えると同時に刀を勢いよく抜く。その刀身は紫色の靄がかかり禍々しく見える。
「グッ……アアアアアアァァァッ!」
グオネスが天井にものすごい勢いで衝突。それと同時にグオネスの周囲にヒビが入る。
「今君が居る天井に重力場を展開したわ。今の君にとって、そこが地面よ」
ユキノの声は聞こえているだろうが、返事がないのでわからない。否、グオネスは返事が出来なかった。
「最も、そこはいつもの十倍の体重になるんだけどね」
「ガッ! くっそ……!」
「S級になるんでしょ? だったら死ぬ気でかかってきなさい。十二星座はどうしたの? その魔法はまだまだそんなもんじゃないでしょ」
グオネスも半端な覚悟ではない。だが力の差は歴然だった。
それでもグオネスは己を鼓舞する。勝ってS級になると決めたから。
(仕方がない、使うか)
「出しっ……惜しみはっ…………しないっ!」
グオネスが膝に手を置いてやっとの思いで天井に立つ。
呼吸をできる限り整える。
「へえ、立つんだ。なかなか根性あるじゃない。さらに五倍、上乗せしてあげる。グラビティ・フィフティーン・タイムズ」
「グッ! ガッアッ!」
必死の思いでこらえるグオネス、剣を天井に差し支えにしてなおも耐える。
十二星座魔法の恩恵のおかげで幾分かは楽だろう。そのままくらっていたらと思うとゾッとする。
「力をッ……貸してくれッ……獅子座の精霊ッ……レオッ!」
グオネスの体が温かい光に包まれる。やがてグオネスは二本の足で直立し、まっすぐにユキノの方を見つめる。
グオネス自身も、黄道十二星座の精霊の内、一体の直接の精霊憑きがこんなに恩恵が得られるものとは知らず、内心驚く。
体の状態を軽く確かめてから、天井に刺してある自分の剣を引き抜き、切っ先をユキノに向ける。
「もう一度だ!」
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