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世界の歩き方  作者: 黄瀬 楓
ギルド強制転移編
12/25

入団試験2

キャラの気持ちを表現するのは難しいですね。頭が痛いです。

 復讐のため、血の滲むような鍛錬の中で、ただ相手を殺すことのみを考え、研鑽した末、一つの者を対象と定め、その動きを遅く見えるように動体視力を操れる能力。

 副作用として、使用した後はしばらくの間少し視力が低下するが、確実に相手を屠れると自信があるときのみ使用することで、利点のみを大きく生かす。

 それゆえ、使い時が大きく限られてくるが、ロサはこの能力には頼らずとも戦えるだけの力を身に着けた。

 進歩と挫折を繰り返し、ロサが編み出した固有能力。

 それが「マティ・アラクネー」だった。


(この子、急に動きが!)


 さっきまでは互いの攻撃を自身の武器でいなし合っていたが、ロサの動きが変わった途端、ソラノの攻撃はあたる寸前のところで交わされるようになっていた。加えて、ソラノが攻撃した直後の隙を的確についてくる。

 戦局は少しずつだがロサに傾きつつあった。


(さすがに硬いわね…)


 ロサはマティ・アラクネーを使えば簡単に相手の防御を崩せると踏んでいた。この能力を使って敗れたことは実戦では過去一度もないからだ。だが、崩れる気配が全くない。攻撃を見てから回避し、その隙を付いてはいるが、それでも崩せない。まるで自分の隙の位置がわかっているかのようにかわしてくる。


(――まさか本気じゃないの⁉)


 そう思いつつも、奥の手を切っているためにほかの手段が考えられない。

 押し切るしかないと、ロサは攻撃の手数を増やす。無理やり隙を作らせ大鎌を振るう。

 だが、拮抗していた状態もついに終わりを迎えた。


「見切ったー!」


 ソラノが身をよじり、大鎌を紙一重で避ける。そして、レイピアのギリギリの間合いに瞬時に移動し、突く。

 その刃はロサの胸めがけて飛んでいく。


「こんのぉー!」


 ロサも負けじと大鎌を振るう、だが――。


「今のはすごかったけど、お姉さんの勝ちよ!」


「クッ!」


 ソラノのレイピアはロサの胸わずか数センチのところでとまり、ロサの大鎌は振り上げられたまま。

 先に死ぬのはロサの方だ。


「ふふ、まぁ合格点ってとこかな。A級の人たちと互角くらいね」


「クッ! いったい何がだめだったの」


 ロサは大鎌を自分の入れ墨に戻し、拳を握り悔しそうな顔をする。ここにきて自分が負けていしまうという結果をにわかには信じられなかった。


「経験と力量の差かな、肝は据わってたし。世界の広さをしらないな~、若人わこうどよ~」


「そういうあんたも成人し立て、調子に乗るな」


 調子に乗ったソラノにユキノが頭に拳骨を入れる。


「いでっ、ごめんって~お姉ちゃん」


 ソラノが笑い、ユキノが困った顔をする。

 戦闘直後なのにすぐに息を整え、緊張を解いている。聞けば成人し立てだ。いったい何が彼女をそこまで強くしたのか。


「世界……か」


 未だ見ぬ強者。興味こそあったが、実際に戦ってみようとは思わなかった。

 

「お疲れ様、ロサ」


「見事な負けっぷりだったな、お前」


 エスカトンとグオネスがロサの方に駆け寄る。グオネスはねぎらってくれるが、エスカは冷やかしに来たのだろうか、腹が立つくらいの笑顔でこっちに来る。


「まぁ負けることはわかってたんだ、あれくらいがちょうどいいだろ」


 エスカトンはどうやらこの勝負の采配をわかっていたようだ。

 そのことにイライラしだすロサだが、グオネスが思いつめた顔でうつむいているのに気づく。


「グオネス?」


「あ、いや……何でもないんだ。あんまり無茶しちゃだめ駄目じゃないか、ただでさえロサの能力は使えば使うほど後が怖いんだから」


 おそらくグオネスはマティ・アラクネーを終えた後、視力低下の事を心配しているのだろう。そうでなくともグオネスは少し過保護だ。


「さては、グオネス君は彼女の事が心配なのかな?」


 さっきのやり取りを聞いていたソラノが茶化す。


「そ、そんなんじゃないですってば~」


 グオネスは顔を赤くして抗議する。言っては何だがもう少し自分の感情を抑えられないものか。

 ソラノもまんざらではないグオネスの反応を見て「ムッ……フフッ」と少し笑いをこらえていた。


「何言ってんの、私達三人は家族みたいなものなんだから、心配されるのは当然の事でしょ」


「お前はそういうところが玉に瑕だな~。いやまぁほかにもダメなところはあるんだが」


 エスカトンが悩ましい顔をしている横で、ロサは首をかしげている。


「なかなか面白い子たちが入ってきたね」


「ええ、男二人の方も戦ってみないとだけど、まだまだ伸びしろはあるわ」


 ユキノとソラノが、三人から少し離れたところで話す。


「ていうか、もう入団ってことでいいのかな?」


 ソラノが兼ねてより疑問に思っていたことをユキノに話す。さっきまでの戦いはロサが急にやる気になったせいで、前座もそこそこに勝手に始まってしまったものだ。


「レイリーからは『勝敗に関わらず、合否は君達に一任する』って言われた」


「私はいいよ?」


「バカ妹、すぐに決めるな。一応あの二人とも手合わせするわよ。あんたはしばらく休んでて」


「りょうか~い」


 ユキノは三人の方へ歩き、こう告げる。


「次は、私が相手をする」


「では俺が――」

 

 エスカトンが返事をしようとしたとき誰かの言葉が遮った。


「エスカ、ここは僕に行かせてくれ」


 声の主は隣にいるグオネスだった。さっきまでの優しい表情とは違い、戦う男の顔つきになっている。


「じゃあよろしく」


「こちらこそ」


 二人は軽く会釈をした後、互いの武器をさやから抜いた。

 グオネスは両刃の黒いロングソード。

 ユキノの武器は刀だ。


「ソラノ、号令」


「よし、それじゃあ……よーい」


 ソラノの左手が上がる。

 ユキノは刀を鞘に収めた。姿勢を低くし鞘を結んでいる左の腰を後ろに回す。


(げっ⁉ お姉ちゃんいきなり抜刀術⁉)


 ソラノが心の中で驚きの声を上げる。ソラノの記憶からすれば、ユキノの最も得意な戦法は、刀に魔法を付与し、その力で相手を薙ぎ払う。武術と魔法を組み合わせたものだ。

 ユキノは鞘の中身に、雷属性の魔法陣をかいている。雷の力で、抜刀のスピードを大きく上げるものだ。

 つまりユキノは、初手で決めにかかっている。

 対するグオネスは。


「――少し変わってるね」


 ユキノが正直な感想を話す。

 グオネスの構えは切っ先を相手に向け、中腰になり左足を引いた格好だ。


「その構えで私の抜刀をうけきれるの?」


「うけるんじゃない、いなすんです」


 そういったグオネスの表情は、先ほどまでとは一変していた。

 目は狩りをする狼のように研ぎすまされ、少しでも動けばそれに容易に対処してくることを、ユキノは感覚でわかった。


(間違いない、向こうも初撃で決めてくる。下手したら私が負ける)


 ユキノは、グオネスと言う男を少々見くびっていた。確実に、ソラノが戦ったロサよりも強い、別格だ。

 ユキノも気持ちを入れ替える。目の前の男を格下ではなく同等、もしくはそれ以上の相手と思うようにする。そう思うほどに、グオネスの気迫はこちらにプレッシャーを与えていた。




 エスカトンとロサは、これほどまでに集中したグオネスを見たことがなかった。

 いつも隣で戦っている、そばにいてくれているグオネスはそこには居なく、代わりにそこには狩りを線とする狼の姿があった。

 

「思えば、あいつは俺達との鍛錬中、ずっと俺達の身を案じて、その分鍛錬の質は下がっていたよな」


「ええ、そのくせ近接戦に至っていえば、私よりあいつの方が断然強い」


 エスカとロサは昔を振り返り、グオネスがどんなだったかを思い出す。そこには、ただ自分達のみを案じてくれる、困った人を見ると助けずにはいられない、やさしさの塊のようなやつがいた。それがグオネスと言う幼馴染の姿だった。

 では目の前にいる男は誰か。もちろんグオネスだ、グオネスのはずだ。だが、うなずけない気持ちがエスカトンとロサの心にあった。


「もしかしたら、あれがグオネス・ツァールトハイトの本気なのかもな。ここで自分の力が通じるのかどうかを試す気だろう」


「……もう、あの頃のグオネスじゃなくなったのね」


 ロサの顔はひつう悲痛の感情がにじみ出る。

 それはあの頃、まだ村が平和で、お父さんもお母さんも生きていた時、ロサ、エスカトン、グオネスの三人で朝から山へ行っては夕方に帰り、三人とも両親を心配させた。あの時のグオネスは、森のうっそうと茂った薄暗いところが嫌いで、よく早く帰ろうと二人にせがんでいた。


「……ああ」

 

 エスカトンも、その頃の事を思い出していた。エスカトンはとある事情で、グオネスの家に養子で越してきた。あの時は村の人達が信用できず、挨拶をされても執拗に無視していた。そんなエスカトンの心を開いたのは、半ベソをかきながらも、必死に話しかけてきたグオネスだった。


「……昔の話だ」


 エスカトンも暗い顔を見せる。


「……そうね、昔の話よね」


 ロサは、今ここにいるグオネスを作った原因を早く取り除かなければと思た。

 エスカトンも同様の気持ちだ。

 だがこの気持ちを喜んでいいものでもなく、この沈んだ気持ちを盛り返すには骨が折れそうだ。




 そしてついに、試験の火蓋が切られる





 





ご一読ありがとうございました。

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