記憶なのか夢なのか
こんばんにちは。
書いてる途中に間違って保存せずに消しちゃって「うわぁ……」てなりました。
街頭ともる公園の歩道。
風に揺れる木の葉の掠れる音。
時々聞こえるフクロウの鳴き声。
目の前に続く石造りの一本道。
その道をゆっくりと歩く、コツコツと響く足音が二つ。
「やっぱりこの季節は冷えるね~」
横を歩く小柄な少女は、小さな両手を口元に近づけ「ハァー」と吐息をかける。
相当冷えるらしく大きめの白いコートを着ており、背中まで伸びている少しウェーブした髪を巻き込んでマフラーをしている。下は長めのスカートにお洒落な茶色のブーツだ。
おそらくこの女の子は自分に話しかけているのだろうが、例によって言葉は喋れないし体も自由には動かせない。この体は少女と歩幅を合わせ、ゆっくりと公園の道を歩いているだけだ。
「…………。……………。」
今何か口がもごもごと動いた気がしたが、声と言う声は聞こえない。
「そうだね~。今の季節はやっぱりお鍋かな」
横の少女が言葉を返してきた。と言うことはこの口は何かを喋ったが、自分だけ聞き取れなかったと言うことになる。
この状況に苦悶している最中でも、会話は続く。
「あ、そういえばエイラムさんとヴァルクくんが今度闇鍋やろうって言ってたよ」
「…? ……………………………………」
「ふふっ、そうだね。けど、いっつも思っちゃうんだ。今楽しいならそれでいいのかなって」
少女は幸せそうに笑っている。この口は少女を笑わせるようなことでも言ったのだろうか。
「そうそう、杏ちゃんも一緒にどうかな? きっと楽しいよ?」
「……? …………」
「あはは、確かにそうだね。それはちょっとまずいかも」
今度は困った顔をして笑った。だがそれもどこか楽しげだ。
どうやらそこそこ楽しい会話らしい。体の自由がないこちらとしては、名も知らない小柄な少女の言葉に聞き耳を立てるばかりだ。
視界に入ってきているのは、何も少女の顔だけではない。その後ろの景色、ビルやマンションといった建物が見えている。
[ビル]と[マンション]、この二つの言葉を思い出したのは建物が視界に入り、(あれはなんだったっけ?)と考え込んでからだ。
明らかに元いたであろう世界の、常識的な知識まで忘れている。だがそのほとんどが[ビル]や[マンション]のように、目に入ったものは何だろうと少し思考を凝らしてみれば答えが出てくる範囲で、自分の記憶ほどではなかった。[街頭]だってそうだ、少し考えて夜の暗い道を照らす明かりだと分かった。
次に少女の口から出てきた名前と思しきものについてだが、[エイラム][ヴァルク][杏]このどれにも心当たりはなかった。もちろん目の前にいる少女の名前など見当もつかない。見知らぬだれかだ。
と、ここで目の前が段々暗くなっていく。どうやら時間切れのようだ。
……あの時の自由の利かない体は、自分の体だったのだろうか?
「じゃあ、……ちゃん。そろそろお別れだね。明日は頑張ろう!」
今少女は誰の名を呼んだ?
+++++
全身を包むほのかな温かさを感じながら、シーニィ・ブランシュは目を覚ました。
見回すと、窓側にある大きな机、部屋の中央にある丸テーブルと椅子が四つ。今自分が寝かされているのは、長椅子だった。辺りはほんのり暗く。そこそこ広い部屋は、壁に備え付けられている明り(後で知ったが明りの正体は付与魔法の一種で、蠟燭にともされた火の光を丁度いいくらいの明るさにしたものらしい)で照らされていた。窓の外を見るといつの間にか夜だと分かる。
意識が覚醒して来ると同時に、寝かされる前の記憶がよみがえってくる。
「確か、元いた世界の記憶をみるとかで……」
「大方正解だよ、おはようシーニィ。と言ってももう夜だけどね」
長椅子の横に椅子を置いて座っていたのは、前と変わらずニコニコしているレイリーだった。因みにアイナは先に家に帰ったらしい。
かけられていた毛布をのけ、体を起こして窓の方を見ると、日の出ていた内に見えていた街並みが、今は明かりが点々とした綺麗な夜景に変貌していた。
「あたし、そんなに寝てた覚えはないけど。せいぜい五分くらいのような」
「記憶を見るっていうのは、それだけでも体力を消耗するからね。実際、初めてすぐに吟醸が「疲ちまったんであとはよろしく」って言って消えた後、そのままシーニィが目を覚まさずに今まで寝てたんだよ」
「そう、そういう事。ていうかあいつ、主人ほっぽり出しといて勝手に消えるって何なのよ?」
「はは、本当にお疲れ様だねシーニィからしてみれば夢を見た感覚なのかな?」
夢……夢か。確かにこんな状況でもなければ、二人で他愛もない話をし合うなんて光景は、夢として胸の内に秘めたことだろう。実際、あの光景は一つの[幸せ]の形だったと思う。
「……けれど、あれは夢なんて優しいものじゃない」
「そう、記憶って言う、夢なんて言葉じゃ軽すぎるものだ。それで、その記憶はどんなのだったの?」
「そこよ。世界の記憶なんて言われるから、てっきり想像もつかないもの見せられるのかななんて思ったけど、実際に見たものは一個人の記憶だったわ」
「なるほど、因みにその記憶はシーニィ自身の物だったりするの?」
シーニィは一瞬うつむいて考えてから、首を横に振った。
「正直、もし自分のって言われても実感が持てないの。一回目の時とはずいぶんと風景が変わってるし」
一回目、つまりロサと会った時は、一面焼け野原で一人歩き、目の前に現れた瀕死の男の死を見届けただけだった。
「……なるほど、まだ例が少ないからなんとも言えないけどね。でもそうか……ふむ……」
それからレイリーはしばらく考え込むと、読みかけの本のページに手早く栞を挟み、ポンッと本を閉じると。
「話は変わるんだけどシーニィ。君、ギルドに入りなよ。女性専用兵舎有りの三食昼寝付き、おまけに兵舎には大浴場完備! これはもう加入するしかないでしょう!」
レイリーが真面目な話をしていたにもかかわらず、大きな声でそんなことを言い出した。
だがもともと、ロサ達とはギルドに入るために行動するはずだった。願ったりかなったりと言う奴では………ん?
「ちょっとまって、ここどこ?」
ギルドに入るそれはいい。だが肝心なことをシーニィは知らなかった。
シーニィの問いにレイリーは一層笑顔を輝かせて…。
「ここはラグフォール王国の王都にある義勇兵ギルド[アート]の総本部さ」
「え、うそ」
「ほんとほんと」
「ここがギルド?」
「そうそう」
「あの魔獣討伐や護衛なんかもやるっていう?」
「よく知ってるね」
この瞬間、シーニィは自分の愚かさに悶絶しそうになった。
必死に感情を抑え込むが、それでも体が変な動きをしてしまった。
「なんで目的地に一瞬でついちゃってるのよ…」
「転移魔法使ったからだね。あと君は感情が高ぶると面白くなるんだね」
新しい発見をしたらしくレイリーは上機嫌だ。
ようやく葛藤を終えたシーニィは、加入目的で来るはずだった三人の事について聞く
「あの三人はどうしてるの? 本当にギルドに加入従ってるのはあの三人のはずだけど」
「君の仲間たちはソラノとユキノが相手してくれてるはずだよ。ギルドに加入させるように言ってあるから、本人たちがよければ今日にでも契約書にサインしてるんじゃないかな」
自分たちの目的のためにギルドに加入すると言っていたのに、自分のせいでできないんじゃ顔の合わせようがないと思っていたが、そうゆう事なら安心した。
「それで、シーニィは入らないの? ギルドに」
決まっている。答えは一つだ。
「もちろんはいるわ、一人で生きていくにも無理があるし。それに、嫌って言っても聞いてくれないんでしょう?」
「まあね」
最初から選択肢はなかったということだ。
「そうと決まったら、今日はお開きとしようか、今日泊まってもらうところは僕が用意したから。迎えに案内させるよ」
長椅子から立ち上がりグッと背伸びをした後、毛布をたたみんで長椅子の上に置いた。
とりあえず今日の事を振り返ると、まあ疲れたの一言だ。
こちらの世界での職業が決まったのでしばらくは一安心と言ったところか。これでエスカの懐事情も解消するだろう。
案内が来たと言うので建物の外に出ることにした。
夜なのにいまだ人通りが多い出入り口から外に出て建物の方に振り替えると、6メートルはありそうなレンガ造りの大きなアーチ状の門の上に大きな看板が掲げてあった。文字は読めないので案内人の人に教えてもらうと、[ギルド・アート]と書いてあるらしい。
白いレンガ造りの建物も軽く7階はありそうだった。
そこからは案内人の人についていき目的地に着くまで、町の夜景を見渡した。
ご一読ありがとうございました。