自称神様
投稿始めました、まったくの初心者です。
よろしくお願いします。
追記:第一章から描写が主に一人称になります。序章は一部三人称の所もあるのでコロコロ変わってすみません。未定ですが、全て新しく一人称で通す予定です。
「っどもー!神でーす!」
………。
……………。
…………………。
………………………は?
「ちょいちょいチミチミー、ちゃんと声届いてるー?」
いや、え、は?
「ちょっとちょっと~、聞いてるなら返事くらいしてもいいじゃん~、ん?…あっ!そっかそっか神様納得、略して神得!急に目の前に神様出てきたからびっくりしたんでしょ~?でも大丈夫!俺っちもこうして鬼と話すのは初めてだから俺っちもちょい緊張してるよー!はっはっはっー!」
なんてことを笑いながら言うのだから、何なのだこいつは…。
まずこの目の前の自称神は何なのだ。それからこの部屋。見渡す限りの、足の踏み場もないくらいのぬいぐるみの量、大きいのから小さいのまで、さまざまなぬいぐるみがこれでもかと言うほど床に山積みになっていた。しかし自分と自称神の周りだけは、赤と茶色のチェック柄の絨毯が敷かれているのが見える。その中で自称神は、ソファーに座りながら高らかに笑っている(腹立つ)。
革ジャン着てて、ジーンズ履いてて、おまけに髪の毛はロン毛ときた。ヘアサロンにでも行ってきたのかと言うほど肌も真っ黒だ。
「あたし、なんでこん……」
「いやーまいったなー、女の子と話すの何百年ぶりかな~?いやいやでもでも、経験がないわけじゃないんだよ~?。ただちっとおひさなだけであって別にないがしろにするわけじゃなくてね?」
なんでこんなところにいるの。と言おうとしたらこれだ。人の話聞かないタイプだ絶対。
「いやだから、なんであたしこん……!」
「いや、言わなくていい!急にこんなところに来て心細くなる気持ちはすごくわかる!だから僕の胸に飛びこんで…!」
何かがはじけた音が、心の中でした。
「人の話を!」
まっすぐに自称神がいるソファーに駆け出す。狙うは奴の顔面。
「えっちょっま!?」
「聞けーーーーー!」
「どぅふっ!?」
きれいに、そして鮮やかに右ストレートが入った。スカッとした。それから自称神は後ろのぬいぐるみの山へ頭から突っ込んでいった。
「ごふっ、ごれがら大事だ馬刺しずるどごだっだにびぃ!(これから大事な話するとこだったのに)」
少々やりすぎたのか、馬刺し?言っていることがまかふしぎだ。顔も左頬が完全に腫れている。すごく痛そうだ、やったのあたしなんだけど。
「あーもー、言ってることわかんないしここどこだか分んないしついでに自称神まで吹っ飛んでいくし何なのここ。てか出口どこ……って、出口ないし」
見渡す限りない、ぬいぐるみの山で隠れているのかと一瞬思いもしたが、人が一人通れる扉を隠せるほどぬいぐるみが積もっている場所もない。さらに言えば、上を見上げてみると、そこにあるはずの天井がなかった。あるのはどこまでも続いてそうな真っ黒な闇。なんなんだこれは。
「いや~やっと自分の状況理解出来ちゃった~?」
声の方向に目をやるとソファーにいつの間にやらあぐらをかき、腕組みしながらニヤついている自称神。そして、さっき殴り飛ばしたはずの奴の頬は、やはりいつの間にか腫れが引いていた。おかしい、いまさらながらにそんな感情がわいてきた。
「あんた一体何なのよ」
「人のことを聞いちゃうときは、まず自分から名乗るのが礼儀なんじゃなくなくない?」
と、ニヤけながら言うものだから腹立つ。
「質問してるのはこっちよ、早く答えて」
自然と握り拳ができる、いっそのこともう一度殴り飛ばしてしまおうか。
「おっとごめん、むやみに刺激してしまったね、謝るよ。すまないけど、ここからは真面目な話だ」
とか言う事を急に真顔で言うものだから調子がくるう。だが自然と気持ちは落ち着いた。誰のせいでと思うとイライラが再びこみあげてきそうだが。
「ひとつ、君に言いたいことがある」
「だから、質問してるのは!」
次の瞬間、自称神の言い放った一言でこの言い争いは終わることになる。
「君、自分が誰だかわかるかい?」
「そんなこと当たり前じゃない!そんなこと…より………あれ?」
そんなまさか、あるはずの記憶が、ない。
あたしって、だれ………わからない。
あたしの顔………わからない。
あたしの名前………わからない
あたしって、なに………わからない。
わからない。わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない。
「…………なんの冗談よ、これ」
膝に力が入らなくなり、その場にペタンと座り込んでそのまま頭を抱える。本当になんの冗談だこれは、自分の名前がわからない、顔がわからない。なんなんだこれは…。
「せめて、自分の姿だけでも見せてあげるよ」
自称神が、自分の座りこんでいる逆の方向を指さす。そこには大きな立て鏡があった。そこに写っているのは、腰が抜けたようにペタンと座り込んでいる、一人の少女だった。まず、ひどい恰好だった、ボロボロの半袖の服、腹部が大きく裂けてしまっている。同じくボロボロのフレアスカート、こちらは右太股あたりの生地が下から股関節あたりまで裂けてしまっていて右足太ももがすべて見えてしまっていた。加えて、よく見ると全身、擦り傷や切り傷だらけだ。自分はなぜこんなにもボロボロなのか………それさえも分からない。容姿の方は、青い瞳、それにこちらも、腰ぐらいまである青みがかった黒い髪。ひどい顔だ、困惑や恐怖といった表情がよく見てとれる。
「これで自分の姿は、わかったかな?」
自称神がソファーで腕組をしながら真剣な声のトーンで問う。少女はふるえる声で、その問いに答える。
「ふざけ…ないで………本当に…あんた……いったい何なの?」
少女がふるえる声ではなった問いを、自称神は透き通った声ではっきりとこう答えた。
「おれは神だ。もっとも、持たされたいる権限はごく一部だが」
またそれかとは思ったが、もはやなにが嘘で、なにが本当かすらもうどうでもいいと感じていた。
「あたしを………どうする気?」
「別の世界へ送る。それが俺に与えられた使命だからね」
ああ、もうどうでもいいや。どうとでもなればいい。
「すまないけど、時間がない。すぐにでも君を転送させてもらうよ」
「そう、もう勝手にして」
少女が力なく言い放つ。その声からは、もはや生気が感じられなかった。
「ははっ、元気出して、俺を殴り飛ばした君はどこにいったんだい?」
無責任なことを言う、記憶がない状態でどう元気を出せというのか。知らなかった、わからないということが、こんなに怖かったなんて。
あれ、なんだか意識が………まぶたが重く……。
「むこうに行く前に、君に一つプレゼントをあげるよ、非礼のお詫びだ」
「君の名は………」
「シーニィ、シーニィ・ブランシュだ、あっちでそう名乗るといい」
「最後に君の無事を、祈っているよ」
その最後の言葉とともに意識は完全に途絶え、シーニィと名付けられた少女はその場に倒れ伏した。
ご一読ありがとうございました。