3 お姫様抱っこで町へ 1
私が起きたらもう朝になっていた。
瞼をこすりながら周りを見ると、テツさんが朝食の準備をしていた。
「あ、テツさん起こしてくれればよかったのに。」
「あ、おはよう。真美子さん。」
とニッコリとテツさんは挨拶をしてくれた。
なんかイケメンじゃないけど、この雰囲気いいわ。
などと思ってしまったけど、
とりあえず、私も挨拶を返したの。
「おはよう。テツさん。」
「朝食を食べたら俺ちょっと寝るわ。いいかな?真美子さん。」
「あ、はい。」
と2人で朝食を食べた後、眠そうにテツさんは寝てしまった。
でも、なにかテツさんの周りには、魔力の自動結界みたいのが出ていた。
もしかすると、1人でもテツさんは野営できたかもしれないわ。
私はそんなことを考えながら、テツさんの寝顔をぼんやり眺めていた。
そして、ふと結界の外をみると、何か山のように積みあがっているものがあった。
近づくとそれは、魔物の死骸であった。
「え?何これ、ナイトサバレーレトラトラとかもいるじゃない。まさか?テツさんが?」
・・・・ナイトサバレーレトラトラとは夜行性の虎似た魔物で、危険度A級と言われている。・・・・・
しかし、寝ているテツさんを起こすわけにもいかないので、起きてから話を聞くことにしたの。
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
お昼頃になってテツさんが目覚めたので、さっきの魔物の死骸の山について聞いたら、「夜、結界の外で五月蠅いので倒した。」と言われたの。
私は口が開きっぱなしになったわ。
その後お昼を食べてから、町に向かう事にしたわ。
◇
てけてけと、2人は山道を歩いていた。
2人とも、大きな荷物を背負っている。魔物の素材よ。町でお金に変えるためなの。
「真美子さん。町までどのくらいかかるの?」
「歩きだと、あと4日って所かな、走れば2日半かな。」
「そんなに遠いのか?」
「ええ、だって、昨日のようなゴブリンのいた場所の近くに人は住めないわよ。」
「そりゃそうだ。」
・・・そうよね。そうすると、テツさんと私、最低でもあと2晩は野営するのよね。・・・・間違いが起きちゃうわね。
「ねえ、真美子さん。飛んで行ったらどのくらい?」
「え?飛ぶ?」
「飛行魔法だよ。」
飛行魔法って、ここらへんじゃ出来る人少ないから。
「そんな魔法私出来ないわよ。テツさんもしかして出来るの?」
「・・・・・そうか、出来ないのか。・・・・・」
なにかテツさん考えてるわ。
「ねぇ!聞いてる?」
「俺が真美子さんを抱えて、町まで飛ぶっていうのはどうだ?目立つか?」
「え?テツさんてやっぱり、飛べるの?」
「・・・・ああ、内緒にした方が良いのか?」
「ううん。ただ飛べる人ってこの辺は珍しいの。」
「そうか。」
そうすると、テツさんに負んぶしてもらって、飛んでいくって事ね。
荷物はどうするのかしら?両手にぶら下げかしら?重そうね。最悪、片方の魔物の素材は置いて行けばいいわ。
まあ、恥ずかしいけど、これ以上、野営で二人っきりでいると、なんかどうにかなっちゃいそうだし。
「・・・わかったわ。でも、そうね。目立つわ。」
「それじゃ。真美子さん、町の人に見つからない様にルートを指示してくれ。目立ちたくない。」
「はい、テツさん。」
「方向はどっち?」
「あっちの方よ。」
と指をさして言ったら、テツさんは荷物を2つ背負い、私をお姫様抱っこしたの。
うわ!お姫様抱っこ初めてだわ。
「ほら、しっかり捕まってくれないと駄目だ。俺の首に手を回してくれ!」
「ひゃい。」
と言われるまま私はテツさんの首に手をまわしたの。
顔が近い。ちょっとむせ返る男の匂いがする。
私の顔が火照り、心臓の音が早くなる。
テツさんの手が私の腰に当たってる。やだ!
と思っていたのも束の間。
ものすごいGががかった。
空を高速で飛んでいる。目が痛い。くびが痛い。
としばらくして、風が止んだ。
「あそこに町みたいのが見えるけど、そろそろ降りた方が良いかな?」
と私は言われた方向を見たわ。
町があった。そう、空から見下ろした町が!
「あ、はい。あそこです。」
「そうか。じゃあ、降りるぞ。」
と近くの森の中へ降りて行った。
私はもうドキドキが止まらなかったわよ。
森から二人は出て、一緒に町まで歩いた。
なんか意識しちゃう。こっれって”吊り橋効果”よね。そうよ、テツさんを好きになったわけじゃないんだから。
・・・・・・・・
そして、その日の夕方、町に着いた。
もうテツさんとお別れね。
ちょっと早いわ。なんかもっと野営とかしていたかったかも・・・・。
◇
町に着くと、早速3人の死亡届と魔物の素材の売却のために、テツさんと冒険者ギルドへ向かった。
冒険者ギルドの受付には、美人の職員が出てきた。
「3人の死亡届を出したいです。」
「はい。それでは、ギルドカードに書類を付けて出してください。」
と私は書類を書いて3人のギルドカードを出した。
私にとって、もうこの作業は2回目だった。
しかし、息が詰まる様な感覚がまた私を襲う。
『慣れないものね。』と思いながら、私は話を続けた。
「あと魔物の素材を換金したいのですけど」
「はい。こちらに出してください。」
と言われたので、受付脇の空白スペースに置いた。美人の職員はビックリした。
なにせ、ナイトサバレーレトラトラの素材がまじっていたから。
美人の職員はブロンドで肩までの長さの髪、スカートは長いのだけど、体のラインがクッキリ出ている。胸も大きい。一緒に並ぶと・・・、悔しいわ。
テツさんを見たら、美人の職員をじっくり上から下まで舐めまわして見てるじゃないの。なんかいやらしい。
「おほん!テツさんそんなに見たら失礼ですよ。」
と私はテツさんに咳払いをして言ったのよ。
テツさんは、気まずそうに美人の職員を見るのを止めたわ。
美人の職員はそれでもテツさんにニッコリ笑って
「暫らくお待ちください。」
と奥に行って計算を始めた。
くっ!あれで男どもを何人勘違いさせれば気が済むのよ!女狐め。
って、やだ、これじゃやきもちじゃない。・・・・・
「それじゃ、金貨9枚と銀貨4枚になります。」
わあすごいわ。テツさんが持ってくれたから、いつもより量も多いし、あと普通は逃げ帰る様な強い魔物も狩ったからだわ。
「あの、俺、冒険者登録したいのだけど。」
とテツさんが言った。
え?冒険者登録もして無かったの?今までどうやって生きてきたのよ?
と私が呆然とテツさんを見てると、美人の職員は書類を差し出した。
「はい、それではここに必要な事項を書いて、銀貨1枚を添えて出してください。」
「ああ、分かった。」
と言って、テツさんは書き始めた。
私は、テツさんに小声で言った。
「テツさん冒険者登録もして無かったの?」
「ああそうだよ。それがなにか?」
「なにかじゃないわよ。もう。後で色々聞くから覚悟してね。」
「・・・・そりゃ、真美子さんがこの世界にいる訳を教えてくれるならね。」
「・・・・ずるいわ。」
「いや、ずるくない。ギブアンドテイクでいこう。真美子さん。」
「・・・・・・」
・・・・・・・・・
という事で、魔物の素材の換金とテツさんの冒険者登録が終わったので、お金はテツさんと山分けしたわ。
もう夜なので、宿屋に行くに事になるのだけれど、問題があるわ。
そう、私のパーティは全滅してしまったの。
一緒にクラス転移で来た人の大きいパーティに入ればいいのだけど私には合わなかったのよ。
また、ここでテツさんという強い人材から縁を遠ざけるのは勿体ないわ。
そうあくまでも、強いからよ。気になるからじゃないんだから。
「テツさん、冒険者登録して、これからどうするの?」
「そうだな。適当に魔物を狩って生活するよ。」
目的とかないのかな?真偽眼でも本当だし。
「いつまで、この町にいるの?」
「飽きるまでかな。」
「パーティとか誰かと組むの?」
「・・・・ソロかな。」
ぼっち宣言キタわー!
「あ、あの、私と組まない?」
「真美子さんと?」
「そう、だって私のパーティ全滅しちゃったから・・・・・・」
「・・・・・そうだな。いいよ。」
「ありがとう。テツさん」
と言って私は、テツさんの手を掴んでしまったの。
「お!」
「あ!」
私はすぐ手を離しうつむいてしまったわ。たぶん私、赤くなっている、ほほが熱いから。
「それじゃ明日、宿屋の部屋に迎えに行くから、そこの掲示板のクエスト一緒にしましょうね。テツさん。」
「ああ、分かった。真美子さん。ところで宿屋も教えてくれ。」
「ええ、付いて来て。私も宿屋だから。」
そう、勇者なのになんで宿屋?と思うかもしれない。
城に勇者の部屋も確かにあるの。
だけど、以前も言った通り、魔族なんか来た日には、レベル的にまだ全然対抗できないのでもう死ぬしかない。
だから、雲隠れの代わりに宿屋へ泊ってるのよ。
と宿屋に着き、その日はようやく温かいベットに寝れたわ。
もちろん、テツさんとは違う部屋よ。私ビッチじゃないもの。