1 運命の人
1と2の数行のみ残酷な表記がありますが、それを過ぎると恋愛の要素が強いです。
本日もう1話17時に予約アップしています。
キーン!
ガギャーン!
川辺の林の中で剣と剣がぶつかる音がする。
その林の中で戦闘が行われていた。
辺りには、ゴブリンなどの死体が多数転がっていた。
その中には弓を持った少女とプロテクターを纏った少女の死体も混じっている。
ザシュ!
「あぐぼっ!」
眼鏡を掛けた、三つ編みの18才くらいの少女が鉄の剣に串刺しにされた。
「沙希ー!」
と、全身が血だらけの冒険者の恰好をした少女が叫ぶ。
この冒険者風の恰好をした少女の名前は山根真美子、眼鏡を掛けた三つ編みの少女は三井沙紀という名前であった。
そして、鉄の剣の持ち主の魔物は、三つ編み少女から剣を引き抜き、その剣先を真美子へ向ける。
その魔物は、ゴブリンナイトと呼ばれていた。
真美子は、ゴブリンナイトを睨みつけ切りかかる。
「やー!」
ガツン!
バフーン!
とゴブリンナイトは真美子剣を受けそのまま弾き飛ばした。
ダン!ごろんごろん。びちゃ・・・・
真美子は、河原に弾き飛ばされ転がった。
その真美子の体は満身創痍で、もう動ける気力も残っていなかった。
・・・・・・・・・
□■□■□■□■
ここは通称、異世界と呼ばれる世界。
真美子は、4ケ月前に異世界クラス転移に巻き込まれた。
そのクラス全員の使命は、勇者になって魔王を倒すことであった。
しかし、勇者達への支援金は1ケ月で底をついた。召喚した国もまさか勇者が35人とは思っていなかったのだ。
また、国は弱小だったため支援は続かなかった。
クラスのみんなは生きるための資金稼ぎに冒険ギルドへ加入、魔物を狩って生計を立てることとなる。
その転移してきたクラスの仲間は、最初は共に戦っていたが、様々な理由で、いくつかのグループに分かれて行動するようになった。
そのグループの1つであるこのパーティは、真美子を含む女子4人で組んいた。
今日も、生きるための資金稼ぎに魔物を狩っていたのだ。
しかし、今日は運が悪くゴブリンの群れと遭遇してしまった。
最初は逃げたが逃げきれずに、林で戦闘になった。
真美子を含む女子4人は、奮戦した。
追ってきたゴブリンとゴブリンナイト合わせて、40匹余りを倒した。
その為、4人とも疲労してHPもMPも少なく、ポーションも使い果した。
そこに、このゴブリンナイトであった。このゴブリンナイトはレベルが違った。ゴブリンキングに匹敵する強さだった。
後から追ってきたこのゴブリンナトに、少女たちは次と倒されていった。
そして、今、河原に飛ばされたこの物語の主人公、真美子は・・・・・
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・・・・・・・
「ぐふっ!ごほ!」
と私は、河原の湿った場所に突っ込んだ顔を上げ、水を吐き出したの。
そして、周囲を見渡して、私を弾き飛ばしたゴブリンナトを確認したわ。
ゴブリンナトは足を引きずって、ゆっくりとこちらに歩いてくる。
私が与えたダメージだわ。
『後この1体だけだったのになぁ。みんなもやられちゃうし。私ももう駄目かな。』
と思いながら、私のこの先を考えていた。
私はこの世界に来てから、何人かのクラスメートが魔物に殺されたのをこの目で見ていた。
そう、4ケ月でこの世界の厳しさを私達は知っていた。
いつかは、殺される日が来るかもと覚悟していた。
しかし、殺されるだけならいい、ゴブリンに捕まったら、女性は、手足をもがれ繁殖のために、一生飼い殺しでゴブリンの子供を産まされる。
3人はどうなったのだろう?死んでしまった方が恐らく彼女らにとっては救いである。そうでなければ・・・・・
私の場合は、神様からもらった力がある。
神から貰った能力 真偽眼、光の剣、絶対貞操帯 勇者の腕輪
この絶対貞操帯があるかぎり、私の許可を得ないで、私を犯せるものはいない。
だからゴブリンによる飼い殺しは無い。しかし、この絶対貞操帯がばれるまでいたぶられる可能性はある。
ゴブリンに拷問とかされるのは嫌だ。いっそ、自害しようかとも考えている。なにせもう動けないから。
「なんかもう目が霞んできちゃった。」
と、ゴブリンナイトが歩いてくるのを見ていると、右の方で”ドサ”!っと物が落ちる音がした。
私もゴブリンナイトもその方向を見たの。
・・・「いてて!」
とそこには男が現れた。
中年くらいのおじさんだった。
弱そう。
ゴブリンナイトがそのおじさんを見て攻撃態勢に入る。
ゴブリンナイトは足を引きずっておじさんに走り向かう。
おじさんはキョロキョロしている。
「だすげほっ!」
私は声を出したが言葉に出来なかったの。
仮に助けを叫んでも、目の前の弱そうなおじさんは、殺されるだけかもしれないのにと思った。私はもうあきらめて、声を出すのを止めたわ。
ゴブリンナイトがおじさんに剣で切り掛った。おじさんは動かない。
ゴブリンナイトは足を痛めてるはずなのに、意外と速い!
ブン!
ゴブリンナイトの剣がおじさんの頭の上に降り注ぐ。
『もう駄目だわ。』と私は思ったの。
しかし、おじさんは一瞬でゴブリンナイトの後ろに立っていた。
ドサ!
倒れたのは、ゴブリンナイトだった。
・・・・・・
そして、おじさんは私のところに来てこう言った。
「酷いケガだな。今、回復魔法を掛けてあげるよ。」
しかし、私は首を横に振り言ったわ。
「げほげほ!た、助けてくれた見返りは何?お金?私の体?」
そう、この世界、タダより高いものは無いのよ、以前は体を要求されたこともあるわ。でも、その時はお金で済ませたけどね。
おじさんは、少し眉をしかめたが話を続けた。
「・・・ほう、死にそうなのに助けを断るのか。随分と気丈だな。まあいい。俺の要求は・・そうだな、食料と少しのお金。後、町まで連れて行ってくれ。キミの体は貰えるんだったもらうけど、無理やりはしない。」
私は、真偽眼で見たの。真偽眼は嘘か本当かだけわかる。嘘はなさそうだわ。
「わかったわ。お金と食料と、町までね、私の体はあげないから。」
「わかった。その条件で助けよう。」
私は、続けて真偽眼で見たわ。この返事も嘘はなさそうね。
「それでは、お願いします。」
と私が言ったら、そのおじさんは、私に手をかざし回復魔法を掛けた。しかも無詠唱で。
みるみる傷が治っていったのよ。良く見ると古傷と小指の欠損まで。
「おじさん!これって、最上級回復魔法じゃない!」
「ああそうだけど。なにか?」
「・・・・おじさん何者?」
「”おじさん”は酷いな、そうだな・・・・・”テツ”って呼んでくれ。」
「・・・・テツさん、で何者?」
「・・・旅の者だ。」
そろそろ私のMPが少ないので、真偽眼が使えないわ。あとでMPがあるとき聞いて確かめよう。
「・・・・テツさん食料とお金は荷物の中です。荷物は林の中に落としたから、一緒に探してくれませんか?あと、私の名前は”真美子”って言います。」
と私はテツさんと林の中に向かった。