40.慟哭
知られたくなかった。知って欲しいと願いながら何処かで思っていた。お前にだけは、知られたくないと。矛盾し続ける感情を制御できない。けれど俺は、やはりお前には、知られたくなかったのだろう。
俺という存在の異端性を、お前にだけは、知られたくなかった。
「……フーア、お前……。」
「……ばれたか。」
驚いた顔をするアズルを見て、俺は肩を竦めた。うっかりしてた。沐浴をするのは結構好きだが、見られる事を失念してた。それとも俺は、何処かで知られても良いと思ってたんだろうか。……そうなのかもしれない。
ばさりと羽織っていたタオルを身体から落とす。陽に灼けない体質の所為か、肌の色は白い。鍛えてきたから、筋肉はしっかりと付いてるだろう。アズルが呆然として俺の身体を見ている。そう、あるべきモノがない。
「お前は、一体……。」
「世間体が悪いから男だっていってるだけで、俺は無性体だ。」
「……馬鹿な……。無性体は禁忌の交わりによって生まれると……。」
「そ。呪いを受けている者との交わりや、ありがちな近親相姦だな。俺がどの場合だったかは、ま、気にするな。それでも俺は俺だ。」
なるべくサラリといってやる。その方が、負担も小さいだろう。アズルの沈黙を無視して、俺はさっさと服を着る。顔立ちが中性的な事も、無性体と関係あるんだろう。ただ、声は少年で通る声だったから、まだ良かった。そうやって俺は、少年として生きてきた。
不意に、肩に掌が触れる。顔半分だけで振り返ると、アズルが俺を見ていた。真っ直ぐな瞳だった。そこに憐れみがなかった事は、俺にとって救いだった。
「哀しくはないのか?」
「哀しい?俺は生まれた時からこの身体だぞ?確かに結婚したところで子供は望めない。だが、別に良い。」
「…………泣きたい時は泣けばいい。」
「…………ッ。」
耳を、塞いでしまいたかった。言うな。その言葉を俺に聞かせるな。俺は、そんなに弱くない。弱くなんて、ない…………ッ!
喉を嗚咽が走り抜ける。身体の力が抜けて、押し寄せてくる感情に翻弄される。こんな身体に生んだ親を恨んだ事はない。けれど、見て貰えないのはこの所為なのかと思った事はあった。俺は自分が嫌いだった。大嫌いだった。
背後から、抱きしめてくれる腕を感じた。長身のアズルの胸に頭が当たり、鼓動を感じる。頬を、涙が伝った。何故泣いているのかすら解らない。哀しかったのか、苦しかったのか、それとも嬉しかったのか。何一つ解らないままに、俺は泣いていた。
「お前は何一つ悪くはない。罪など無い。」
「……違う、俺は……。」
「たとえそうであったとしても、お前は今生きている。生きているんだ、フーア……。」
「…………ぁ。」
俺は罪の証として生まれた人間だった。だから母親は俺を愛してくれなかった。だから父親は俺が生まれる前に死んでしまった。だから祖父は俺を見てくれなかった。俺を肯定してくれる存在など、いなかった。
お前が、肯定してくれるのか。俺が生きている事を認めてくれるのか。俺を個人として認識してくれるのか。邪神である、お前が。
喜びでもなく、哀しみでもないこの感情を、何と表現して良いのか、俺には解らないんだ…………。




