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1.原初のことば

 それが始まりの言葉だったのだと、後に彼は理解する。自らに呼びかけた、幼い少年の声。その声が全ての引き金を引き、全ての始まりを告げたのだと。即ち、己の、この現状さえも。



——…………見つけた、最強の邪神……。



 その呼び声に導かれるように、彼は目覚めた。長きにわたる封印よりの解放は、けだるい眠気を伴っている。さながら、冬眠から目覚めた動物たちのように。

 目を開けた彼の視界に映ったのは、天使の微笑を浮かべる美少年。見るモノ全てを魅了するだろうと思える甘いマスクに、その美貌を最大限に引き出す優しくとろけそうな微笑み。一瞬邪神である彼が見惚れる程、少年は美しかった。



 だがしかし、その感動は、次の瞬間に覆される。



「よっしゃー、てめぇ今日から俺の下僕なv」

「…………は?」

「初めまして邪神。俺の名前はフーア・セルフィーア。寝てた所為で脳味噌動いてねぇだろうから言っておくが、お前の目の前にいる俺は正真正銘の勇者サマだ。んでもって、お前の封印を解いたのは俺。即ち、お前は俺の下僕だv」

「………………クソガキ、寝言は寝てから言え。」

「俺は大真面目だ。それに、拒絶する権利はねーぜ。」


 ニヤリ、とフーアは笑った。その笑みがこいつの本性に違いないと、邪神・アズルは確信する。一瞬でも天使のようだと思った自分の愚かさを、彼は呪った。これは悪魔の化身である。邪神である彼よりも、余程凶悪な性格が染みついているに違いない。


「この世界は崩壊を迎えている。それを防ぐのが俺の役目。んでもって、一人じゃ大変だから、お前も連れて行く。」

「……崩壊、だと?『オリジン』の崩壊が始まっているというのか?」

「そもそも、緩やかに崩壊への道を辿っていた世界だろう?それが終盤に差し掛かって、危険が身近に迫ってきただけだ。とはいえ世界に滅ばれても困るから、一応救済のすることにした。断るわけはないよな、最強の邪神・アズル?」

「……ッ。」


 邪神といえど、この世界が崩壊してしまっては只ではいられない。そもそも彼等は、『オリジン』に隣接する平行異世界から、その世界の創造主たる精霊神達によって追い出されて封印された。そんな彼等に居場所があるわけが無く、あるとすればこの世界だけ。その状況が解っているので、フーアはニッコリと笑う。

 邪神は、舌打ちを一つ。そんな彼を見て、勇者は笑う。金髪青眼、白銀の甲冑のよく似合う、端正な美少年。絵に描いたような勇者がそこにいるのを見て、アズルはこめかみを長い爪で押さえた。

 そもそも、よりによって何故自分がこんな目に合うのか。そんなことを思ったが、勇者に自分を解放する気はなさそうだった。長い白銀の髪を掻き上げ、苛立ちを堪えるように呻く。潰れた右目を前髪で隠し、残った左の深紅の瞳で彼を見る。冗談を言っているわけではないというのが、解る。


「仕方ない。貴様の旅に同行してやる。」

「だから、お前は俺の下僕だって言ってるだろう?」

「だがな、俺は貴様の下僕になるつもりはない。覚えておけ。」

「いや、だからお前下僕決定。却下不可能。」

「横暴ぬかすな、小僧!」

「だって、俺が決めたことだし?それにお前、俺から逃げられないぜ?何せ俺は、お前の封印を解いた時に魔力の一部を接続させた。俺から離れたら、そこから力が根こそぎ抜けてくんだけどなぁ……?」


 可愛らしく笑うフーアの、瞳だけが笑っていなかった。なんて凶悪な笑顔だろうか。そんなことを想いながらアズルは、こんな物騒な勇者に掴まってしまった自分の身を、哀れに思った。




 とりあえず、そんなこんなで、勇者と邪神の旅が、始まった……。


過去サイトにて掲載していたオリジナル作品となります。

作者の好きな要素を放り込んだ、厨二病満載の作品です。性格の悪い勇者とそれに振り回される最強の邪神の珍道中。途中から最初のギャグどこ行ったレベルのシリアスに突入しますので、その辺もお気をつけください。

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