表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/56

九枚目 眼前ノ勝利ヲ最優先トス―――

今回は覚醒回です。

「策は、ある。ここの広間一帯に形成されている陣を別の陣で上書きすれば、地脈から奴を分離できる、はず」


 ヒースの顔が驚愕の色に染まる。


「待て、こっちには専用の道具もないぞ? それに上書きと言ってもここに陣なんて存在するのか? 確かに何か線のような名残はあるが」


「存在します。この部屋を中心に、横穴などを含んだ洞窟の構造自体が陣になっているんです」


 フェネ君曰くおそらくだが。


 それに加えて、この部屋の消えてしまった魔法陣を合わせて一つの魔法陣にしている。


「どうも地脈を利用した巨大な陣なんですけど、制御するための部分が消えてしまっています。だからこっちで上書きして


機能を一時封印します」


 手持ちの結界符を取り出す。

 同時に地図を取り出し、封印球の部屋の部分を見せる。

 円状に書かれている壁部分に六ケ所点を打ち、七か所目を部屋の中心に打つ。


「全部で七枚。これを六芒星を描くようにして貼ります。七枚目は部屋の中心に貼ることで陣を安定化させます」


 これは即席の応急処置だ。時間は持って三十分程度。

 だが、私たちにとってはのどから手が出るほど欲しい三十分だ。


「地脈と切り離しさえできればこいつはかなり弱体化します」

「なるほど、後方援護、補助のことならほぼ万能。サポーティアの特色は援護攻撃だけではないというわけか」


 マイスさんが剣を構える。


「これで攻略の目途は立ったが、手数が足りんぞ?」


 ヒースさんが杖を構え、先端に魔力を集中させる。


「役割分担すると、アドミラルラットとジェネラルラットの足止め、符を貼りに行く人で二チームに分ける」


 リリが指先に魔力を集中し、私も符を取り出す。


「野郎ども! 俺らの半分であのでかい親玉たちを足止めするぞ! 全員もらった符を使え! 出し惜しみした奴はあとで


張り飛ばすぞ!」


 マイスさんが声を張り上げ、強面の戦士集団が野太い声を上げる。符の手には私の字で『プロテイン』と書かれた札が握


られている。


 あわよくば使わなかった札を持って帰るつもりだったんですね。わかります。


「それでは、符をもらいますよ。無事に帰れたらその符の作り方教えてくださいよ!」


 ヒースさんと魔導士の人たち、それと援護を行う戦士たちが一斉に散る。


「リリ、まだ行ける?」

「誰に向かって言っているのよ!」


 左腕は動いていないが、血は止まった様子。しかし、顔色があまりよくない。


「とにかく、符で陣を書き換えてあいつをぶちのめす、それだけで十分でしょう?」


 確かに十分だ。


「ごもっともで。じゃあ、生きて帰ろう」


 リリは答えない。でも、その右手は敵に向けられている。


「私たちも行きますか!」




○- - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ 




まったく、本当にいい拾い物をした。『ばんそうこう』という名前の治癒符を押さえながらアケノの提案する作戦を聞いて


いた。


「まったく、先輩面も出来ないかもね」


 と言っても、私もフィアナと領地を逃げ出したのは二年前だ。自分でも場数を踏んできたつもりだけど、まだまだという


ことだ。


「さて、私も戦いますか」


 もう一枚の符を取り出す。『漢方配合』と書かれた物。先ほどから毒のせいで少し気持ち悪いので解毒を行う。

 符の欠点は即効性がないことだけど、今は少しでも解毒を行う事が重要だ。


「リリ、まだ行ける?」

「誰に向かって言ってるのよ!」


「ごもっともで。じゃあ、生きて帰ろうか」

 そう、正直な話をしよう。私はいつ死んでもいいと思っている。フィアナと一緒に生きられない世界になんか未練はない



 つい先ほどまでそう思っていたけど、理由が出来た。

 アケノがどうなるのかを見てみたい。その上で、フィアナも助け出せばいい。


 きっと、彼女が私たちの突破口になってくれると信じている。


 私は右手を構える。ハートラ家の初代当主、ドライ・ハートラが最も好んだ魔法の発動方法。

 人差し指と親指以外折り畳み、人差し指の先端から魔法の矢を放つ方法。彼は日記でこの指の形をモーゼルと呼んでいた



「私たちも行きますか!」


 ここからは遠慮はいらないだろう。


「妖精の視線、アクティブ」


 私の中のスイッチを入れる。その瞬間に視界がグリーンに染まる、そしてその視界の中に数字が躍る。

 ハートラ家当主にのみ引き継がれる魔眼。視界に入る物事を捉え、即座に距離や自身に対する脅威度を算定する魔眼。


 ドライ・ハートラはこの目のことを『備え付け機能』と呼んでいた。


「炎の矢、コンプレス」


 今までただの炎の塊として射出していた矢を圧縮、先端を尖らせた円錐状に固める。

 自身の中で矢の待機を行う。ストック数は十発。現在の実力だとこれが精いっぱい。

 前を走るアケノの進路を確保するように、ソルジャーラットとコマンダーラットに向けてそれらを放つ。


「どいたどいた! ここはサポーティアの通り道だ!」




○- - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 私たちが目指すのは、入口のポイント。一番奥はすでにヒースさんが向かってくれており、そのほかの遠い個所も札を持


った人たちが向かっている。

 入口付近にはジェネラルラットが陣取っているが、それでも負傷したリリのことを考慮するとこの距離の近さはありがた


い。


 迫りくるソルジャーラットを狐火で焼き払いながら、前進。狩りに近接の間合いに入られたとしても、


「お嬢さん方を守れ! 少しでも傷つけたら暁の剣士団の名に泥を塗るぞ!」


 強面さんたちが防いでくれる。

 リリは今までの長い炎の矢ではなく、弾丸状の炎の矢を放っている。それも、精度が先ほどよりも格段に増している。


「思ったよりも、ソルジャーラットの増え方が早い!」

「どーするのよ、これじゃ追いつめられるわよ!?」


 ごもっとも。このままではジリ貧だ。


「足りない手は私が補う!」


 なので、こちらも切り札を切ろう。


「カモン、フェネ君!」


 手を掲げ、指を慣らす。初めてうまくいった指パッチンは、小気味いい音を立てる。

 そして、私の目の前に一メートルは有ろう体躯を持ったフェネ君が現れる。


「フェネック!?」

「キツネツキを解除したの!?」

「ってフェネ君成長しすぎ!」


 私も含め全員が一斉に驚きの声を上げる。


「ってあんたも驚くの!?」

「いや、この間までは肩に乗るくらいの子供だったから」


 慌ててフェネ君に向かって鑑定を駆けると、


『フェネク疑似成体 状態:健康』


 ―――疑似成体とは、体が一時的に成体の形状を取り、増えすぎた魔力に対応するために発生します。

    余剰魔力が無くなると元に戻ります。


 なるほど、『アロマの香り』は大成功だったのか。何枚か後で書いておこう。あ、謎ボイスさんありがとうございます。


 全身を見やるとモフモフな毛並みは変わらないけど、整った顔立ちをしていらっしゃる。銀の毛並み美しいです。


「ま、まあいいや、フェネ君ゴー!」


 掛け声とともに跳びかかるフェネ君。その立派な牙と爪でソルジャーラットとコマンダーラットを駆逐していく。


「さて、負けてられないな、ファイヤストーム!」


 私も魔法を使い始める。フェネ君のおかげで純粋に前衛が一人増えた形になる。しかもフェネ君は狐火で周りの敵を焼き


払っている。


「これで大分楽になるはず」

「って魔導士だったのか!?」

「使えないとは言っていないよ?」


 とりあえず後で説教ね、とつぶやくリリ。できればお手柔らかにお願いします。


「ともかく前進! 目標はジェネラルラットを排除して符を貼ること!」


 フェネ君と私の魔法が広げた傷を広げるように全員で攻撃を仕掛ける。

 先ほどから結構な数のソルジャーラットとコマンダーラットを吹き飛ばしているが、なかなか数が減らない。

 よく見ると奥のジェネラルラットがコマンダーラットを生み出し続けており、そのコマンダーラットがひたすらソルジャ


ーラットを生み出している。


 物量戦を仕掛けてきている。今のところ、ソルジャーラットを生み出す速度とこちらの殲滅速度は釣り合っている。


「アケノ、両翼に氷の魔法行ける!?」

「任せて、アイスストーム!」


 ひとまず右側に向けてアイスストームで凍結を図る。同時に左手から符を取り出して、両手同時のアイスストームを起動


 吹きすさぶ冷気の中であっという間に氷のオブジェと氷柱が出来上がる。


 これでジェネラルラットまで一直線。全員で一斉に駆け込み、強面戦士さんとフェネ君が飛び込んで一撃をお見舞いする



「ギシャアアア!!」


 暴れるジェネラルラットがあたりにソルジャーラットをまき散らす。それを私がサンダーストームで駆除を行う。

 リリも同じようにラットの脳点だけをきれいに射抜いている。いや、あれはもう撃ち抜いていると言っていいだろう。


「この、しぶとい!」


 フェネ君も狐火を身に纏いながら齧りついているものの、一向に倒れない。なんて生命力の高いネズミだ。


「注目の、鑑定結果は!?」


『ジェネラルラット(増殖体) 状態:怒り 地脈接続(弱)』


 なんだと?


「こいつ! 増えるペースが速く!」

「気を付けて! こいつ地脈と接続始めてる!」


 ここにきて戦力増強とかふざけるなと叫びたい。


「こいつら、舐めるな!」


 まとめてサンダーストームで薙ぎ払う。三度ほど繰り返してようやく一掃できたと思った瞬間、死体の陰から飛び出した


ラットがリリに齧りつく。


「リリ!」


 すぐさま焼き払い、リリの傷を見る。思いのほか深くはないが、解毒符が足りない。カード化で作ることもできるが、今


そちらに意識を割くと無限に湧き出そうとするラットの処理が追い付かなくなる。


「……ここが、正念場。ほかの場所の設置は、終わっている。これ以上の遅延は全員の危機」


 毒が回っているせいか、土気色の顔色をしているリリが、何かをつぶやいた。




○- - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 毒が回る。意識が定まらない。でも、やるべきことは見える。

 妖精の目を使うと、自分の体を度外視に考えることができるようだ。自身の魔力の目を広げ、結界符の位置を確認する。


 中央部はなんとか場所を確保、ヒースさんが結界符の設置を完了させたが、少し押され気味だ。

 それ以外の部分も設置を完了。今は結界符の力を使って猛攻をしのいでいる。


「……ここが、正念場。ほかの場所の設置は、終わっている。これ以上の遅延は全員の危機」


 そう、ここが正念場なのだ。ここを早いうちに抑えないと、全員がやられてしまう。


 ―――起動しますか?


 視界の端に出た文字。読めないが、何かの同意を求める物だろう。きっと、勝利を求めるものであるのだろう。


「起動、します」


 ―――シーケンスH2R起動。以降の動作をシーケンスに則りオートリアクションで対処。


『眼前ノ勝利ヲ、最優先トス―――』


誰もフェネ君だけとは言っていないです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ