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八枚目 打ち破れ、ラット軍団の罠

ネズミ退治後半戦の開始です。

 サポート班の朝は早い。この広間の一角にある泉から水を汲む。

 どうやら湧き水が染みだしており、小規模な泉となっているようだ。


 符の力でお目覚めさわやかなリリが持ってきていた薪に火をつけ、お湯を作る。

 そして調理。その間に寝ている人を起こし、準備を整えさせる。朝ごはんは干し肉と塩スープ。それと黒パン。

 全員が食べ終わるまでに奥への入口をチェックする。


「―――うーん、ソルジャーラットが五匹、コマンダーラットが一匹かな?」


 フェネ君式気配察知術が唸り、おそらく偵察のラット部隊を捉える。脳内のフェネ君曰く、奥にもっと大きな奴がいるとのこと。

 そのフェネ君は、おそらく魔力らしき光の塊をちびちび齧っている。


「中層から先は基本一本道で、奥に封印球が置いてあった広間がある。そこにラットの親玉が居るだろう」


 地図を広げ、マイスさんにヒースさん、リリに私で進行ペースを協議し、ここからはノンストップで攻めることを決める。

 時間をかけるとそれだけラットが増えるのと、ラット以外の生物を食べつくして洞窟の外へ溢れるのを防ぐためだ。


「途中の横穴からラットたちが奇襲してくるのを捌きつつ、直進ってのが上策か?」

「思ったよりもコマンダーラットの数が多いので確実に大物が待ち構えているでしょう」


 最悪道すがらの横道を結界で封印していくという手段もあるが、それはできれば最後の手段にしたい。


「残りの結界符は七枚、地図に載っている分岐は十を超えているし、今回も広い場所で札同士の配置を結ぶって技が出来たからの結界だし」

「便利だけどね、こっちも相応に符を消費していることを考慮してほしいな」


 わがままというあだ名の割には結構物事を冷静に見ている。実際は符の作成は技術料が大半なので、私の手間さえ考慮しなければ安上がりだ。


 白紙の符も百五十クレジで百枚くらいは買える。

 しかし、思ったよりも符の消耗が激しく、皆に支給した分含めて半数近く消費している。今度からはもう少し数をそろえておこう。


「しかし、リリとアケノが居なければこんなに快適かつスムーズに攻略は出来なかったな」

「同感だ。持久戦になりがちな戦いで安全地帯を確保できるのはありがたい話だ」


 リリが、にんまりと笑顔を浮かべる。


「そのためのサポーティアだからね」


 援護と後方支援ならお任せあれ。しかし、ここからの戦いは私たちが役に立つ部分はあるのだろうか?


「最低限私たちが後方でドンパチしてれば前線への影響は避けられるでしょ?」

「ま、そうでなくても二人とも有効な攻撃手段があるんだ。親玉と戦うときの援護でも問題ないはずだ」


 あ、なんかフラグたった。リリとマイスさんのせいだからね、サポーティアが最前線に立つことになるの。


「ともかく、ここから先は時間との勝負だ。全員の準備が整ったら一気に攻め込むぞ」

「はーい」

「りょうかーい」


「どうでもいいが軽いね君たち」


 ヒースさんの言葉が刺さるが気にしないことにする。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




「横道から五匹の集団!」

「爆破で吹っ飛ばせ!」


 おっさん魔導士が爆破呪文で横合いから出てくるラットを一網打尽にする。


「ああもう、数多いし援護忙しいし!」


 横でリリが指を銃の形にしてファイヤアローとサンダーアローを売っていた。さながら二丁拳銃の様相を呈している。


「さっきからすごいね、一発も外してない」

「まあ、これも練習してたからね! それよりも喋ってないで手を動かす!」


 リリに怒られながらも、私も狐火で前線の援護を行う。

 火力は低いが、精神ダメージが便利なのでひたすら狐火。どちらかというと二の足を踏ませるような使い方で青い炎を撒く。

 触れた敵は軒並み戦意を失って混乱するか、さもなくば後方へ逃げていくかのどっちかだ。

 突っ込んできた奴は前衛戦士が美味しく狩っていく。


「工程の半分まで進んだぞ! あと半分一気に行くぞ!」


 おー! と野太い声が上がる。ここから先は横道が減り、ひたすら前進あるのみになるため、正面の圧力がかなり高まる。


「危なくなったら中間まで下がれ! 中間の人たちは下がってきた人に符を使ってやるのを忘れるなよ!」


 ここが正念場と言わんばかりに支給しておいた『ばんそうこう』符が使われる。

 体力は消費するが傷の回復は早くなるので、怪我を負ったらこれと場合によっては『漢方配合』の解毒符で治療する。


 どうやらみなさんかなりの体力を持っているらしく、符の効果が切れる前に傷が治る様子。


 と言ったこともあり、実に『ガンガンいこうぜ』で突撃している。魔導士側は『呪文節約』と言った感じ。

 私たちは『前衛に任せろ』と言った感じでひたすら援護。


 とにかく数で押しつぶそうとするラット集団と、こちらの戦闘継続能力、どちらかが尽きるまでの勝負だ。


「今のうちに水分補給を!」


 全員に『栄養ドリンク』と書いた符を張った水筒を配りながら、前線に狐火を放つ。

 脳内花畑に中継をつなぐと、フェネ君が必死になって魔力を人の波に見立てた人員整理を行っていた。

 符に魔力を注ぎながら、狐火の行使だ。ありがとうフェネ君。


「見えた! 封印の間だ! あそこにボスが居ることは間違いない! 飛び込め!」


 その言葉に、なだれ込むようにして封印の間へ突入する。


「……ラットが追ってこない?」


 何匹かは無視して突入となったが、先ほどまで追いかけてきていたラットがぱたりといなくなった。


「とにかく、親玉を倒さないと」


 とつぶやいた瞬間に、リリが私を突き飛ばす。

 体勢を崩しながら、リリを見ると、コマンダーラットがその左肩に齧りついていた。


「リリ!」

「せやぁ!」


 マイスさんが即座にそのコマンダーラットを切り倒すが、リリの肩には大きな噛み跡と出血。

 次の瞬間に、フェネ君式気配察知術が無数のネズミを捉える。


「全員上! 降ってくる!」


 狐火を上に向けて放つ。幻想的な青い光が、天井近くの穴から降ってくるラットたちを照らす。


「総員防御! 急げ!」


 私とリリも大急ぎで降ってくるラット相手に狐火と魔法の矢を放つ。

 魔導士の人を盾を構えた前衛の人たちが守り、さらに炎の赤が洞窟天井を舐めるように染める。


「大きい気配が三つ、天井付近に一つ、部屋の中央に二つ!」

「紅蓮の腕よ、眼前を薙ぎ払え! フレイムライン!」


 ヒースさんのフレイムラインが前方に向かって走る。その炎に焼かれる数十体のソルジャーラット。

 その奥に構えているのは十は居るであろうコマンダーラットに、二メートルはあるであろう二匹の大ネズミ。


 視認できれば、こちらで存在を紐解くことはできる。


「注目の鑑定結果は!?」

「その発動ワードなんとかならないの?」


 肩の傷を押さえながら律儀に突っ込んでくるリリに、『ばんそうこう』の符を貼る。


『ジェネラルラット(増殖体) 特殊技能:増殖』

『アドミラルラット 状態:地脈直結 特殊技能:増殖』


 ―――地脈とは世界をめぐる力の流れです。接続すると魔力の消費を地脈からまかなうことができます。


 ―――増殖とは魔力を消費して自分の力の半分程度の存在を召喚する技能です。


 なるほど、ジェネラルラットはアドミラルラットの増殖体で、増殖速度は分からないけど地脈接続によってノーコストでトークンを増やすことができると。


「ジェネラルラットと、アドミラルラットだと……!」

「マズいぞ、マイス。一度引くべきだと思う」


 私もそう思うが、そうもいかない事情がある。


「なるほど、追ってこないんじゃなくて、タイミングを見計らっていたと」


 前線の人たちとアドミラルラットに背を向け、先ほど入ってきた方を向く。

 落下からの奇襲、奇襲後に落下したラットたちによる包囲、後方を洞窟内に散っていたラットを足して補強。


「提督ネズミとは大きく出たと思ったけど、なかなか戦上手じゃないかな」

「感心してる場合か!」


 だから叫ぶと体力消費するからやめなさい、リリ。


「さっき鑑定の魔法を使っていたが、何かわかったか?」

「アドミラルラットが元凶で、恐ろしい話をすると地脈接続してる。あれを倒さないとこのネズミを全滅させられない」


 ヒースさんの質問に答えると、一同が苦虫を噛み潰したような表情をする。


「撤退しようにも囲まれてたら意味ない、な」

「万事休す、か」


 私自身もこの状況に打つ手がない。


 ―――わけじゃない。




○- - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




―――脳内花畑にて。


「それでフェネ君、話って?」


 幼稚園児が絵に描いたような花畑にて、フェネ君が座っている。

 その後ろにはホワイトボードが置かれている。


 ホワイトボードには今現在の封印の間の見取り図が書かれている。

 少々いびつだが、おおよそ円形といった形だ。


「なになに、あのアドミラルラットはこの場に残っている地脈の上に立っているだけに過ぎないって?」


 さらにホワイトボードに書き足される。


「ほう、この場所に残っている魔法陣がただ立っているアドミラルラットに対して魔力を供給し続けていると」


 フェネ君が頷く。


「なので、今見通した際に見えた陣の形状から全体を想定してみる。宿主さん、ああ、私の記憶にある様々な魔法陣から形状を算定した、と」

 ホワイトボードに浮かぶのはゲームや本、イラストなどで見た魔法陣の数々。これ使えるのか。


「それで、これが一番近い形状、と」


 ひときわ大きく書かれた魔法陣は、昔プレイしたゲームの物だ。横に出典が書かれている。著作権は大事。

 その隣には洞窟のマップを並べており、この洞窟の通路を含めた全体が魔法陣であることを示している。

 随分と大規模な陣を引いていらっしゃる。


「これに対して残った結界符で制御部分に上書きの陣を敷く、と。現時点で保有している魔力分はどうしても残るけど、これで地脈接続は解除できる」


 フェネ君が一鳴き。ホワイトボードがひっくり返る。


「この形状であればどんな陣でも対応できる、と」


 基本に忠実な六芒星。実際の陣によってはこっちに地脈を接続できるし、

 できなかったとしても地脈のカット位はできる。

 ってフェネ君が言っている。


「でも、手数が足りないよ?」


 そこで、フェネ君がホワイトボードを除ける。その後ろには大きな魔力の塊。


「えっと、『アロマの香り』の回復分ごちそうさまでした、と」


 ピンハネされていた様子です。たくましい狐さんだと思いました。


「これがあれば問題ないってことなのは分かるけど……どうして?」


 すぐに憑依解除をしなかった理由を尋ねる。


「なになに、まだボス倒してないからもう少し粘りたかった?」


 魔力の塊のあたりにはゲーム機が散らばっていた。

 憑依している間、私の脳内花畑はゲーム用の空間になっていたらしい。


「ま、まあいいや。また森の時みたいに一緒に行こう?」


 コン、と一鳴き。


「わかった、ちゃんと定期的に通わせてあげるから」


 脳内花畑内で引き延ばしていた一瞬を解除する。

 花畑が遠ざかり、一気に現実へと意識が戻っていく。私たちみんなの戦場へと。

敵の奇襲に対するは我らが軍師フェネ君。

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