六枚目 それぞれの一日
現状の解説回と言った感じでしょうか?
翌日、私はギルドの建物の奥にいた。訓練場があるとのことなので、練習のためにやってきたのだが、
「ええと、これをこうして……」
ギルドの奥の一室、私はそこで符を書いている。
端的に言うと、依頼だ。
隣では暇を持て余したリリが札の作成に挑戦している。
とりあえず腕力強化の札を書いているが、果たしてうまくいくか。
「はい、回復力強化の符。例によって軽く魔力を通さないと起動しないから注意ね」
「おう、済まねぇな」
本来であればギルド裏手の訓練場で符の試し撃ちをしようとしたのだが、
使用許可を取りに行く際にシェーブさんに会い、符の納品を頼まれた。
「今日納品される予定の符が、符術士が倒れて納品されない。符が作れるなら金は払うから作ってもらえないか?」
決して、高い依頼料に目がくらんだわけじゃない。くらんだのはリリだ。
ともかく依頼の品は身体強化に解毒、回復力強化の符。それぞれ十枚で千五百クレジ。
食事代が大体1パン1つが10クレジくらいとなるので、大まかに10クレジ100円くらいの換算で行こう。
で、ギルドの購買に並んでいた符の値段は大体1枚で150クレジ。身体強化は200クレジで売られているので、符自
体はかなりの値で売れることがわかる。
「職人の一点物だから値段もそれ相応ね」
「これ作れれば大分お金の工面が……」
欲深いことをつぶやきながらリリが符を作成しているが、どんな符になるか怖い。
ともかく、『漢方配合』と『ばんそうこう』に加えて『プロテイン』を書き上げてしまう。余った時間でさらに何か作れ
ないかを模索する。
「式神、とか作れないかな?」
おお、前鬼と後鬼とかカッコいい。
「式神?」
「符を使った使役獣、まあ、使い魔みたいなものかな?」
唸りながら一枚完成させたリリに答えると、すごくかわいそうなものを見る目で見られた。
「どったの?」
「いや、ファミリアマジックって下位魔法だし、専用の符があったとしても売れ残るのが関の山じゃない?」
ドラゴンでも使役できれば別だけどねー、と笑うリリ。
なんか急にやる気が出てきた。こうなったらいつか式神作成してやろう。そう決意を固めた。
「あ、シェーブさん。依頼の品出来上がりました」
○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
目の前には丸太で作られた標的。私の手には新たに作成した『みなぎるパワー』という名前の符。
魔力を込めて胸に当てるようにする。
「み・な・ぎ・る・パワー!」
全身に巡る魔力、それが全身から目に見える色で放出される。
「フェネ君パワー全開! 狐火モード!」
両方の掌から、というか全身から溢れ出す青白い炎。自分自身熱くないから怖くないけど、これは結構アカン!
慌てて魔力を絞り、両手の掌からのみ炎を出すように調整する。
ただ、それでもみなぎるパワーの影響で両手からはガスバーナーのように、すさまじい勢いで狐火が噴き出ている。
「燃えろ!」
目標として置いておいた丸太に向かって手を突き出す。瞬間、狐火が丸太に向かって殺到し、そのまま丸太を焦がす。
しばらくそのままにすると、完全に炭化して黒こげになった丸太が炎の奥から現れる。
それと同時にみなぎるパワーの効果が切れる。襲い掛かる虚脱感、おそらく魔力が切れたことによるものだろう。
「随分すごい魔法ね。それなら確かに北の大森林を抜けれたのも納得するわ?」
「いや、これは魔力を強制的に吐き出させるためのブースターだからこれ使った後ってMPがすっからかんになるの」
これを使うのは最後の手段として考えよう。わずかに回復した魔力を使って、『アロマの香り』の符を使用。
きっと精神的な回復で魔力も回復するだろうという考察の元作成した。さもなきゃ時間で回復するだろうけど。
改めて、このカード化と符術作成について考えると、チート気味な能力だ。
物体をカード化はできないものの利便性は高く、符術も新たな符を作成するという点では便利だ。
加えて符術作成は消費自体が少なく、イメージ次第でなんでもできそうなところが怖い。
一度能力の底を見るために、限界まで試さないと。
とりあえずはここからまた符を増やして、明後日の戦いに備えよう。
静かに増えている魔力を感じながら、私は符を書くことにする。
「フェネ君、回復の状態はどうかな?」
脳内花畑で毛繕いをしていたフェネ君が、なになに? と言わんばかりに小首をかしげている。かわゆい。
しかしまだ少し動いては休みを繰り返している感じで、完全回復とはいかない様子。
こればっかりは時間が解決する問題だろうから、ゆっくりしていこう。
「ところでフェネ君や、合成魔法使った時って手伝ってくれた?」
小首を傾げるフェネ君に、脳内にテレビ設置。あの時の『混沌の海』を再生する。
自分のイメージが最大限に仕える空間だからって滅茶苦茶である。
見終わった後のフェネ君が頷く。
「そっかー、やっぱり難しいか…」
魔力を両手に集中。右手に炎を、左手に氷を呼び出して手の中で合わせる。
そうすると黒い物体が出来上がる。
魂に影響を与える闇属性。闇を圧縮して作られたシャドウボールが掌に転がる。
作っている最中、脳内花畑にてフェネ君が魔力の誘導を行っていた。
その時は何でか交通整理のコスプレだった。
「ありがとね、フェネ君」
コスプレ衣装からいつもの毛皮に戻って一鳴き、そしてそのまま眠ってしまった。
どうやら回復は完全ではないよう。早いところ回復して、前のように肩に乗っててほしい。
空は快晴、少し離れた場所でリリがマジックアローの練習をしている。明日も頑張ろう。
○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
「通してもらうよ」
北方都市レマ、その闇を司る東区画の屋敷。悪名高いテラ家の屋敷。
「なんだよ、また来たのか?」
その揶揄する顔めがけて50クレジを投げつける。
「あんたはあんたの仕事をすればいいの。私はこの先に用事があるだけ」
そう、こんな小物に構っている暇はない。そのまま屋敷の地下に降り、悪趣味な地下通路を通る。
奥にある一室、その扉の前で身なり確認。少し呼吸を整え、ノックしてから扉を開ける。
「やっほ、フィアナ」
「ごきげんよう、リリ様」
整った顔立ちに青み掛かった黒い髪。よく手入れされたそれは、一種の芸術作品のように見える。
「様は良いって言ってるっしょ?」
この子はフィアナ。言ってしまえテラ家の抱える商品で、いわゆる奴隷である。現在は買い手がつかないのでここに軟禁
されている。
買い手がつかないのはテラ家が値段のつり上げを行い、金を出させるためだ。
「ところでリリ様。歯は毎日磨いてますか? 三食バランスよく食べていますか? お怪我はありませんか?」
「気にしないの。ちゃんと食べてるし、歯も磨いてる。人の心配する前に、あんた自身の方が大変なんだからさ」
まったく、より私を優先する癖は何とかならないものか。
きっと無駄だろう。何度言っても治らなかったから。
「私は大丈夫です。それにリリ様を奴隷になんかできないですし。リリ様は栄えある」
「ストップ。もう終わったことだから。あんたも私に尽くさないで暇もらった時に出てけばよかったのに」
○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
言ってしまえば、私は没落貴族だ。家柄ばかり古くてカビの生えたような家。父はメイドの母に無理やり関係を迫り、私
が出来た。
それから私を生んで数年で母が亡くなり、正妻との間に子を成すことができなかった父が後継ぎとして育てられた。
結局は正妻との子、弟が出来てからは軟禁生活に変わったが。
そんな中で、ずっと私と一緒に付き添ってくれていたのがフィアナだ。
従者の家の子で、曾祖父の代から家に仕えていた。両親は父を魔物から守るために死んだとのこと。
それ以来、私に付き従うように教育を施されていた。ほとんど姉妹扱いで育てられている。
弟が生まれてから五年ほど後、弟付きにという話が出た際も、なぜか断ったらしい。
「彼は面白くありません」とは理由を聞いた時に放ったフィアナの言葉だが、どこまで本当化は彼女のみが知る。
しばらくして父は領地の経営に失敗し、家は取り潰されて散り散りになった。
妾腹の子と正妻から嫌われていた私は追い出されるようにして領地を逃げた。
持ち出せたのは、母のくれた小さな宝石の腕輪。それと着いてくるなと言ってもずっと着いてきたフィアナ。
「私はリリ様の従者ですから」
その言葉に、私は勝手にすれば、と言いながら笑っていた。様付けはやめろと釘は刺しておいたが。
私たちは三年ほど旅を続けた。初めて見るものに、満天の星空の下で眠る。
時には魔物に囲まれたりもして、先輩冒険者に助けられたりもした。
事の起こりはひと月前のことだ。森での薬草採集依頼の最中、野盗に遭遇してしまった。
こちらが二人に対し、相手は十人。倍くらいの人数なら相手取れるけど、多勢に無勢のあの状況では逃げに徹するほかな
く、追い込まれて最終的には囲まれてしまった。
「しょーがない、か……じゃあフィアナ。私から君に暇を申しつけるよ」
これも止む無しと思う。まあ、落ちるばかりだったけど、私自身は楽しんだ。
だから、フィアナにも楽しんでほしい。私という鎖はもう必要ないだろう。
「君はもう行くといいや。ちょうど右側の列が浅いからそこを抜けるといいよ」
彼女自身は投擲槍が一番得意だが、普通に槍を使うこともまた上手である。
ほんの少しだけ魔法が使え、体力もそんなにない私とじゃ生き残れる確率が違う。今まで散々縛りつけたんだ。ちゃんと
解放してやらないと。
「そうですか、お暇ですか……それではリリには私から最後の贈り物を」
そっと触られた胸に当てられたのは、ワープストーン。
それに先祖代々伝わったと言っていたミスリル製の槍。
これ一つで一生を慎ましく生活できるぐらいの値段のする石。
―――効果は、対象の転移。
「それではお元気で、リリ様。槍はいつか返してくださいね」
次の瞬間には、三日前に立ち寄った街道の宿場町。
そこから飲まず食わずの大移動で野盗に襲われた場所にたどり着いたが、当然ながら彼女の姿はない。
あたりには七人分の死体。そのすべてが胸か頭を貫かれていた。
つまり、彼女はほとんどの奴等を仕留めて逃げ出したのだろう。
無論、希望的観測だ。何かしらのアクシデントは有ってもおかしくない。
だけれど、そこに彼女の特徴を持った死体はなかった。
だから周辺を捜した後に近くの町で情報を集めた。諦めきれなかった。
あの子の外見はとにかく注目を集める。その癖自身の外見に無頓着だからいろいろと話題になる。
そして二週間前。町を三つほど渡り歩いて情報収集をしている時に、噂を聞いた。
『テラ家の売りに出す奴隷がやたら美人だ。髪の毛は青み掛かった黒で、どこかの貴族の子じゃないか?』
その噂話に一も二もなく食いつくことにした。
○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
そんなこんなで、今この場に至る。
「ところでリリ様、何か良いことがあったんですか?」
「むう、何で判るのかな?」
このなんでもお見通しという感じがすごいと思う。それだけ付き合いが長いんだろうけど。お互いに癖位わかっている。
「だって、三つ編み触ってるんですもの」
この通り、意識していない私の癖を理解している。
「そ、今日さ、ここに来るとき拾ってきた子と訓練したんだけどさ……」
アケノを拾ったときは正直死ぬかと思った。
隊商を護衛しながらこの町に来たのだが、北の大森林沿いに歩くルートの最中、馬車の進路をふさぐような形で飛び出し
てきた。三匹のオークを引き連れて、だ。
護衛と一緒にオークをなんとか退治し、倒れていたアケノを見た時に思った。
―――この子をここで手放すと後悔する。
即座に隊商の人と交渉してこの子ごと運んでもらうことにしてもらい、町に着いてからは簡単なマジックアイテム作成を
こなしながら看病をした。
「符術士なのが残念だけど、それでもなかなか特殊な札とか使えるみたいだし、いい拾い物したなってね」
「リリ様の見立ては外れたことないですからね。でも、これで安心しました」
その先の言葉を、聞きたくない。
でも、私の口はそれを促してしまう。
「まさかフィリア」
「そうです。買い手が決まりました。この町の貴族様だそうで」
頭の中が真っ白になった。
今度の仕事でようやく貯まる予定だった一万クレジ。それがフィリアの売値。
私がお金を溜めきるのが先か、売れるのが先かの勝負だった。
―――どうやら私は勝負に負けたようだ。
「大丈夫です、リリ様。世界はちゃんと繋がっています。ちゃんと巡り合えますよ」
「でも! その時にはフィリアがボロボロになってるかも!」
無意識のうちに、涙がこぼれる。
「それでもです。だって、私にはリリ様との思い出と、親譲りの槍術があるんですよ?そう簡単に死にませんって」
だから泣かないでください、せっかくの美人が台無しです。と私の涙を拭ってくれる。
その優しさが、今は悔しい。所詮私は唯の小娘だって実感させられる。
「でも、本当に危なかったら助けて、って呼びますから」
だからその時には来てくれるとうれしいな。そう彼女が笑いながら言った。
私は知っている。涙も浮かべていなかったけど、あの子が恐怖と戦っているのを。
涙を拭った手が震えていたことを。そして彼女が無理をしている時ほど、周りの人に笑顔を向けることを。
―――私は、無力だ。
全てを得ることはできない。




