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五十三枚目 その戦いは、最初から終わっていた

人間レベルにまで知性を落としたそれは、果たして神と言えるのか?

―――よくここまで来ました、明乃に千果。


「いやいや、今更そんなお為ごかしは不要だから。私としてはきっちり落とし前つけてもらうだけだから」


―――そうですか。では、私があなた方をこの世界へ呼んだ理由も知っているということですね・


「その通り。最初知った時はなんというかやるせない気持ちになったわ」

「確かに、そんなことのために呼ばれたと思うと、私もちょっと……」

「どういうこと?」


 リリの疑問に、神から声が飛んでくる。


―――この世界は無数ある世界の中でも、位階の低い世界です。未成熟以下の世界が育つのに、永劫に永劫を重ねてもまだ足りないでしょう。


「だからこいつは考えた。どうすれば、工期を短縮できるか。自分の持つ箱庭を大きく強大にできるか」


 こいつの目的は、永劫を重ねてなお届かない位階の世界に対し。自分の世界を届かせるため、


―――力ある世界から人を呼び、その発展に尽力をしてもらいました。


「つまり、こいつは自分の箱庭をよく見せるのに、他人の箱庭の中身を勝手に持ってって飾りに使ってるってわけ」


―――世界をよりよく導くために必要な措置です。こうでもしないと、この世界はいまだに文明すら成し得ないものだったでしょう。


「こいつの目的は、よそから人を集め、それを基に世界を発展させ、ついでにその人物が死に、魂がこの世界所属になるように仕向ける」


 ご丁寧に、世界の中で困らないように、生きていけるだけの能力を与えて。


―――そして世界を巡り、その魂は最終的に勇者の力として生まれ直し、世界に還元される。無駄なく力を世界のために使うことができる。


「その結果がほかの魂とともに出涸らしとなったものはよどみに混ぜて燃やし尽くすして廃棄完了」


 反吐が出る。


「質問いい? アケノ達のように、よその世界から選ぶ魂の選考基準は?」


 リリが、質問する。私がフェネ君から聞いた、最高にやるせない理由。


―――ないです。今回はある程度の魂の大きさがあり、お酒を飲んで、そのまま寝た人間から選びました。


 リリが、絶句する。


―――その前は毎日神に祈りをささげる人、それよりも前はくじ引きで決めたこともありました。


「フェネ君から話を聞いたときに思った。こいつは精神の成熟とは無縁の、ただのガキ以下の存在。なまじ力を持ってる分たちの悪いね」


―――私はこの世界をよりよくするために行動しているだけです。


「押し込み強盗以下のこすっからい誘拐犯が、他人の見ていないうちにこっそり泥棒してるだけの存在が?」


 とたん、空気が凍る。


―――どうやら、私の目的に対して、賛同いただけないようで残念です。すべてはこの世界をよりよく導くため。


 その空気が白い世界を凍てつかせ、そのまま砕く。

 砕かれた白い世界の外側は、まるで星空だった。


―――残念ながら、あなた方はこの世界にとって毒のようです。私自らが、処理を行いましょう。


 星の光が幾重にも集まり、輝きが人の形を成し、最終的には、


「アケノ……?」


 そのつぶやきは誰の者か。

 その姿は、鏡で見た私の姿にそっくりだった。


「喜びなさい、わざわざ私があなた方のレベルまで存在レベルを合わせているのですから。その喜びのうちに死に絶えなさい」


 私は無言で符を構える。チカも、手に石を呼び出す。

 先手を打ったのは千果。石が放たれるが、神はそれを首を少し動かしただけで回避。


「シッ!」


 次の瞬間、一気に距離を詰めたフィアナとピアが槍を振るうも、それを中空に呼び出した盾で防ぐ。

 それと同時にシールドバッシュで二人を弾き飛ばす。


「一斉射!」


 二人が離れた瞬間、百本近い炎の矢が放たれる。リリとリリーズによる炎の矢の掃射だが、それも盾で防がれる。

 だから、私は『衝撃波』の符で盾を弾き飛ばそうと放つが、盾がもう一枚出てきてそれを防ぐ。


「さて、防いでいるだけでは面白くないので攻撃しましょう」


 神が言うな否や、全周囲に現れる魔法陣。式から雷と読めたので、とっさに『避雷針』の符を周辺に撒く。

 一斉に放たれる雷はすべてその符に向かい、効果を散らす。


「おやおや」

「隙あり!」


 頭には『カメレオン』と『気配を感じなかったぞ、貴様!』と書いた符を貼ったクロックが、その無防備な脇腹に寸勁を当てる。

 反対側の脇腹から緑色の光を吹き出しながら吹っ飛ぶ神に対し、リリが冷静に氷の矢を放つ。


 当たった部分から凍り始めるのを見て、私もとっさに『絶対零度』の符を使い、凍結の効果を高める。


「今!」

「山よ、落ちろ!」

「マルルス流・投げの型・アハトアハト!」


 すさまじい勢いで放たれた光の槍が二本、ピアの槍と、フィアナの槍。それが神の下半身ごと貫通して吹き飛ばし、


「大崩落!」


 巨大な岩石、いや、山一つが落ちてきて、神を押しつぶす。


「よし、成功!」


 うん、確かにうまくいったが、仮にも相手は神だ。この程度で倒せるなら苦労しないだろう。


「ふむ、なかなかに良い一撃ですね」


 巨大な山が、一瞬で砕け散る。飛んできた破片をそれぞれが防ぐと、そこにはまったく無傷の神の姿。


「体の再生など久しぶりです。あの狐をしつけていたときくらいでしょうか?」

「なかなかに絶望的な光景見せてくれちゃって」


 イベント戦闘のボスか、さもなきゃやりこみ前提の裏ボスか。


「では、返礼です」


 神が手を振った瞬間、私たちの服に仕込んでおいた『装甲プロテクター』が、音を立てて砕け散る。


「おや、思ったよりも硬い」


 左手に狐火、右手にファイアトルネードを仕込み、さらに『ブラストフレア』の符を使った新型三重合成魔法の『幻炎爆裂竜巻』を繰り出す。


 千果に「中二病臭い」と言われてへこんだこの魔法、狐火による精神に対するダメージと爆破による物理ダメージを掛け合わせたものが神を包み込む。が、


「ぬるいですね」


 まるで温風を浴びるようにその場に立っている。

 次の瞬間、また全周囲に魔法陣が出てくる。


「させるか!」


 リリが目を緑色に光らせ、的確に魔法陣を打ち抜いていく。リリーズもそれに追従して射撃を繰り広げる。


「では、これでどうでしょうか」


 魔法陣ができる速度が一気に跳ね上がる。一瞬ごとに百以上の魔法陣が作られる。


「このっ!」


 攻撃を阻止しようと再びクロックが寸勁を放つ、が、


「体の構造を変えて衝撃を完全に流してしまえばダメージを受けることなど、ない」


 神の体が軟体のように変化し、そのまま末端から衝撃を逃がす、と同時にクロックの腕をつかみ、そのままこちらへ投げ飛ばしてくる。

「あぶな!」


 それを受け止めると同時、周囲に展開された魔法陣が一斉に光る。


「消し飛びなさい」


 展開される式は、炎と光の矢の二段構え。さっきのような避雷針では防げない。


「間に合え!」


 書く符ではなく、カード化の力によって作り上げるのは、『次元ずらし』と書かれた符。

 一瞬にして存在次元をずらし、攻撃をすべて空振りさせる。


「魔力きっつ!」


 一瞬で三分の一ほどの魔力を持っていかれたが、即死は回避。しかし綱渡りすぎる回避だった。


「でりゃあ!」


 再びピアとフィアナの同時攻撃だが、今度はそれぞれ両手で受け止められる。


「二度お同じ内容が通じるとでも?」

「通じさせるのが腕の見せ所です」


 次の瞬間、フィアナが消える。


「ピア、融合、形状変化、ヴァルキュリア!」


 ピアの体が光に包まれ、背中に漆黒の翼が生える。その手にはフィアナが愛用している槍が握られている。

 その姿は、まさしく成長したピアといったところか。


「いっくよー!」


 めったに声を出さないピアが叫び、槍を突き出す。あまりの速さに数十本単位の残像が見える。

 それを神が両手で捌く。


「りゃりゃりゃ!」


 さらに捌く。


「ちぇりゃ!」


 ピアの渾身の突きを受け止める神、同時に火炎を纏った黒い翼が切りかかる。


「小癪な」


 それを呼び出した盾で防ぐ神だが、


「撃ち方はじめ!」


 先ほどの攻撃で数を半分ほどに減らされたが、その分魔力の分配を強化したリリーズが一斉射を放つ。

 それは一発もピアに当たることなく神へと炸裂。


「爆裂の矢!」


 当たった橋から小規模な爆発が大量に起きる。


「離さないよ! 我慢比べ!」


 ピアの回りには、いつの間にか光の粒が現れ、自分の周囲に防護用の結界を張っている。


「ふむ、なかなかに」

「くらえ! レールガン!」


 全身を『身体強化』と『電磁加速』の符を貼った千果が、全力の投擲を行う。その一撃に吹き飛ばされる神。


「チャンスは、この一瞬!」


 最後の最後まで隠し持っていた、フェネ君の協力で作り上げた切り札。


「倒せないなら、せめて封印するのみ!」


 それは、殺生石からヒントを得た、対神用の符。『天岩戸』と名付けた。


「ば、馬鹿な!」

「その顔が、見たかったよ!」


 符に折りたたまれるように、神の体が吸い込まれる。そして、完全に吸い込み終わると、大きな岩に変化する。

 何も動く気配がない。魔力を使い切ってへばっているリリとリリーズも、ところどころ爆風を受けて全身煤まみれのピアとフィアナも、

 神の一撃を受けて、腕を辛そうにおろしているクロックも、超電磁砲の反動で気絶している千果も、私も。


「―――終わった?」

「たぶん」


 誰も歓声を上げられなかった。それどころじゃなく、疲弊したからだ。

 戦闘時間だけで言うなら、北方要塞や聖域の防衛線の方が長い。だけど、質や密度はこっちの方が圧倒的に上だ。


「……よし、これでいい」


 私が力を抜いた瞬間、岩戸からの光が、私の胸を一撃で貫いていった。


「―――!!」


 誰かが、叫んだ。よく聞こえない。


「残念でした。神をこの程度の封印で縛れるとでも?」


 妙に、その声が大きく聞こえた。


「私は世界そのもの、この仮初の肉体がどうなったところで問題はないんですよ」


 力が抜ける。


「ああ、私も、今のあなたのその顔が見たかったです」


 だから、と。神が言う。


「安心して、その魂の持つ力を世界のために一滴残らず絞られてください」

彼女の旅は、終わりを告げる。

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